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1章 覚悟のとき
19話 何事にも真っ直ぐに
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モゾモゾと、隣で何かが動く感覚で目が覚める。薄目で見た外からは、強い日差し。大方、10時かそこらくらいだろう。
僕は聖也くんの生存を確かめるように強く抱き締めおはようを伝えようと、手を伸ばした。しかし。そこでは上機嫌に二度寝を目論む小春が、伸びたまま寝転がっていた。
「あれ?」
慌てて体を起こし、目をこする。聖也くんだと思っていた布団の膨らみは、彼がこっそり抜け出した跡であった。
はぁ、とひとつため息を吐く。どうやらまたやられたようだ。
小春の睡眠を邪魔しないように静かにベッドをおり、手櫛で髪を梳かしながらリビングへ向かう。
果たして、部屋の隅のパソコンの前には大きなヘッドホンを着けた聖也くんが座っていた。
「聖也くん、また……」
彼の背後へ周り、彼の見つめる画面を覗き込む。そこにはいつも通り銃を構える人がいて、聖也くんは凄まじいスピードでその人の頭へ標準を合わせて左クリックを繰り出した。
「うわあ……」
どうやら、少なくとも一戦が終わるまでは手が空かないらしい。僕はそんな彼の相変わらずの“ガチ”さに思わず声を上げながらその場を離れ、彼のキッチンへ入り込み昨日同様に少ない材料を駆使し食事を作り上げるのだった。
僕だって一人で暮らしていて自炊なんてする方ではなかったけれど。あんな不摂生な人を見ていると、流石に放置する訳にもいかないだろう。
そうしてお湯を沸騰させ、卵を割り入れて、塩を振る。そうしているうちに焼けたトーストにはバターを塗りつけて、最後に卵焼きを乗せようとフライパンへ割り入れたとき。
頬へ髪があたり、肩へ顎を乗せられる。ようやくゲームが終わったらしい。
「あと少しで出来ますよ」
頭を撫でてやりながら、卵の周りへ水を入れて蓋を閉じる。聖也くんは興味深そうに背伸びをしてその様子を僕の肩から覗き込んだ。
「美味そー」
可愛い、と思わないでもない。でも。僕は心を鬼にして、彼の頬をつまみ上げた。
「それより!」と、大きく声を上げる。
彼は何かを察したようで、僕から離れようと身を引いた。もちろん、そうしてももう遅い。
僕は彼の腕を握り、ブンブンと上下に振ってこちらを向かせる。
「なんですぐベッド抜け出すんですか! 体調崩したらどうするんですか! しかも、なんでそこまでしてやることがゲームなんですか! てか、何時から起きてたんですか!」
響いていなさそうな彼の瞳を見つめて、ムッと脹れて叱りつける。しかし、彼はまあまあとばかりに、僕が腕を振るのに合わせて一緒になって上下に腕を振った。
「だって、最近出来てなかったんだもん」
「昼でいいじゃないですか」
「昼は曲つくる」
「夜は」
「ゲーム作る」
もー、と声を上げ彼を抱きしめる。聖也くんは突然のことに目を丸めると、頬を染めて肩を押し返してきた。
「いきなりどうしたの……」
と、戸惑う聖也くん。
「聖也くんが心配なんです」
抱きしめる腕に力を込めると、彼ははあとため息をついて僕の頭を優しく撫でた。
「俺は大丈夫。それよりお前と曲を作りたいし、ゲームも早く完成させたい」
そんなの、と思う。急がなくたって、いつでも出来るのに。しかし。確かな彼の情熱も感じるから、安易にそんなことも言えなくて。僕はつい言葉を失った。
「それに」と、彼は加えて小さく呟いた。
「もうそろそろ、ゲームのシーズンが終わるから、ランクが……」
なるほど、と思う。僕は安心して、抱きしめた彼の肩を掴み大きく揺すって声を上げた。
「結局ゲームじゃないですか!」
「だって、だって」
聖也くんは、あわあわと目を泳がせて懸命に言い訳を述べる。最高ランクを取りたいだとか、友人も手伝ってくれたから、だとか。
きっと、友達もいなくて、趣味もいない僕には彼の気持ちはわかってやれないのだろう。でも、彼にとってそれはとても大切なもので。
僕はふう、と息をついて再びそっと彼を腕に捕らえた。
「わかりました。無理に止めはしません」
僕が言うと、聖也くんは安心したように僕を見あげてこくんと頷いた。でも、と僕は言葉を続ける。
「でも。全く寝ないのはダメです。ご飯も僕が作るので、しっかり食べてください」
彼の後頭部を引き寄せ、僕の胸へ埋めさせる。彼は僕の背中をぽんぽんと強めに叩いて「はいはい」と笑い声を上げた。
本当に、マイペースな人だと思う。でも。やっぱりその好きな物に真っ直ぐな姿勢がかっこよくて。応援したくなった。だから。
「ねえ、聖也くん」
後頭部を包む手を離し、彼を呼ぶ。聖也くんは直ぐに僕を見上げて瞬いた。
「ちゃんと、お話しましょう。聖也くんのおじいさんとおばあさんに」
手術の日程から、費用、そして記憶がなくなる可能性について。ちゃんと話して、理解してからでなくちゃ。もし、万が一にでも記憶が無くなった時、きっととても悲しむと思う。
しかし、彼は眉を顰めたあとゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫。忘れないって約束しただろ」
「そういう問題じゃ……」
それでも、言わないで手術に挑むなんてそんなの、と思う。でも。
「忘れないって結果が変わらないなら、わざわざ言って不安にさせることはないでしょ」
彼がそう言うものだから。明らかに何かが間違っているのに、彼の理論は確かに正しく思えて。僕は、何も言い返せなかった。
僕は聖也くんの生存を確かめるように強く抱き締めおはようを伝えようと、手を伸ばした。しかし。そこでは上機嫌に二度寝を目論む小春が、伸びたまま寝転がっていた。
「あれ?」
慌てて体を起こし、目をこする。聖也くんだと思っていた布団の膨らみは、彼がこっそり抜け出した跡であった。
はぁ、とひとつため息を吐く。どうやらまたやられたようだ。
小春の睡眠を邪魔しないように静かにベッドをおり、手櫛で髪を梳かしながらリビングへ向かう。
果たして、部屋の隅のパソコンの前には大きなヘッドホンを着けた聖也くんが座っていた。
「聖也くん、また……」
彼の背後へ周り、彼の見つめる画面を覗き込む。そこにはいつも通り銃を構える人がいて、聖也くんは凄まじいスピードでその人の頭へ標準を合わせて左クリックを繰り出した。
「うわあ……」
どうやら、少なくとも一戦が終わるまでは手が空かないらしい。僕はそんな彼の相変わらずの“ガチ”さに思わず声を上げながらその場を離れ、彼のキッチンへ入り込み昨日同様に少ない材料を駆使し食事を作り上げるのだった。
僕だって一人で暮らしていて自炊なんてする方ではなかったけれど。あんな不摂生な人を見ていると、流石に放置する訳にもいかないだろう。
そうしてお湯を沸騰させ、卵を割り入れて、塩を振る。そうしているうちに焼けたトーストにはバターを塗りつけて、最後に卵焼きを乗せようとフライパンへ割り入れたとき。
頬へ髪があたり、肩へ顎を乗せられる。ようやくゲームが終わったらしい。
「あと少しで出来ますよ」
頭を撫でてやりながら、卵の周りへ水を入れて蓋を閉じる。聖也くんは興味深そうに背伸びをしてその様子を僕の肩から覗き込んだ。
「美味そー」
可愛い、と思わないでもない。でも。僕は心を鬼にして、彼の頬をつまみ上げた。
「それより!」と、大きく声を上げる。
彼は何かを察したようで、僕から離れようと身を引いた。もちろん、そうしてももう遅い。
僕は彼の腕を握り、ブンブンと上下に振ってこちらを向かせる。
「なんですぐベッド抜け出すんですか! 体調崩したらどうするんですか! しかも、なんでそこまでしてやることがゲームなんですか! てか、何時から起きてたんですか!」
響いていなさそうな彼の瞳を見つめて、ムッと脹れて叱りつける。しかし、彼はまあまあとばかりに、僕が腕を振るのに合わせて一緒になって上下に腕を振った。
「だって、最近出来てなかったんだもん」
「昼でいいじゃないですか」
「昼は曲つくる」
「夜は」
「ゲーム作る」
もー、と声を上げ彼を抱きしめる。聖也くんは突然のことに目を丸めると、頬を染めて肩を押し返してきた。
「いきなりどうしたの……」
と、戸惑う聖也くん。
「聖也くんが心配なんです」
抱きしめる腕に力を込めると、彼ははあとため息をついて僕の頭を優しく撫でた。
「俺は大丈夫。それよりお前と曲を作りたいし、ゲームも早く完成させたい」
そんなの、と思う。急がなくたって、いつでも出来るのに。しかし。確かな彼の情熱も感じるから、安易にそんなことも言えなくて。僕はつい言葉を失った。
「それに」と、彼は加えて小さく呟いた。
「もうそろそろ、ゲームのシーズンが終わるから、ランクが……」
なるほど、と思う。僕は安心して、抱きしめた彼の肩を掴み大きく揺すって声を上げた。
「結局ゲームじゃないですか!」
「だって、だって」
聖也くんは、あわあわと目を泳がせて懸命に言い訳を述べる。最高ランクを取りたいだとか、友人も手伝ってくれたから、だとか。
きっと、友達もいなくて、趣味もいない僕には彼の気持ちはわかってやれないのだろう。でも、彼にとってそれはとても大切なもので。
僕はふう、と息をついて再びそっと彼を腕に捕らえた。
「わかりました。無理に止めはしません」
僕が言うと、聖也くんは安心したように僕を見あげてこくんと頷いた。でも、と僕は言葉を続ける。
「でも。全く寝ないのはダメです。ご飯も僕が作るので、しっかり食べてください」
彼の後頭部を引き寄せ、僕の胸へ埋めさせる。彼は僕の背中をぽんぽんと強めに叩いて「はいはい」と笑い声を上げた。
本当に、マイペースな人だと思う。でも。やっぱりその好きな物に真っ直ぐな姿勢がかっこよくて。応援したくなった。だから。
「ねえ、聖也くん」
後頭部を包む手を離し、彼を呼ぶ。聖也くんは直ぐに僕を見上げて瞬いた。
「ちゃんと、お話しましょう。聖也くんのおじいさんとおばあさんに」
手術の日程から、費用、そして記憶がなくなる可能性について。ちゃんと話して、理解してからでなくちゃ。もし、万が一にでも記憶が無くなった時、きっととても悲しむと思う。
しかし、彼は眉を顰めたあとゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫。忘れないって約束しただろ」
「そういう問題じゃ……」
それでも、言わないで手術に挑むなんてそんなの、と思う。でも。
「忘れないって結果が変わらないなら、わざわざ言って不安にさせることはないでしょ」
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