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番外編年齢制限なし

番外編~文化祭~

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「兄上、あれ食べたいです」

「お好み焼き?」

あの日、ヒロインが精神を病ませたということで婚約破棄はあっさりでき、学園では俺が避けていたため、避けなくなった俺はクラスこそどうにもならないが、父上の監視がない学園なだけに、普通にトアと会おうとすれば会える。

俺が避けていた事実はやはりトアを不安どころか傷つけてしまっていたため、あれから毎日暇さえあればトアといる。あまりに嬉しそうにするので、人前気にせずひっつくトアを注意などできるはずもない。

俺に触れていると安心するなんて言われてしまえば不安にさせてきた分、拒否などできるはずもない。それに、トアに選ばれたのだからトアがしたいことをさせるのも俺の役目だ。

今日は文化祭。開会式が終われば隣にいたトアが一緒に回ろうとひっつき今の状態。もちろん、自分のクラスの手伝いはあるが、俺もトアも午前中は休みで午後の交代で手伝うことになっている。一緒のクラスならそれさえも楽しいのにとしょんぼりと呟くトアはやはり可愛い。

「いらっしゃい!」

「お好み焼きひとつください」

「兄上はいらないのですか?なら僕もやっぱり・・・」

「一緒に食べようと思って。食べさせてあげるよ、トア」

「えっえっ?」

トアが俺と同じものを食べたがるのは予想していた。トアは幼い頃もそうだったけど、俺の真似をしたりするのが好きだったから。現在も食堂で食べる時、俺が選んでから同じものを頼むのだから俺と一緒であることにこだわるのがわかる。

髪や瞳は俺が褒めたことを覚えているようで、嬉しかったからと変える努力はしないようだ。まるでトアは俺で構成されたがっているようで愛しさが募る。

まあ、そういうわけで、同じものを食べ歩くならば、ひとつずつ頼んで色々食べ歩く方が楽しそうだということで、ひとつのものを一緒に食べようと考えたわけだ。はしたないかもしれないが、気にしない。

食べさせてあげるのは、トアを不安にさせてきた分、甘やかしてやりたいという俺の気持ち。それだけで驚いて顔を赤らめるトアは癒し以外何者でもない。お好み焼きだからロマンとかはないけど。食べさせてあげる行為自体がトアは初めてで恥ずかしがるのは見えていた。

思い通りの反応ににやにやが止まらない。

「殿下たち仲いいですね!」

「当然」

さっと用意できたもの、前世でいうリング焼きよりも少し大きめの丸いお好み焼きが乗っかった皿と箸を渡されて仲がいいのは当たり前だとばかりに、どや顔を返せば、渡してくれた生徒はきょとんとした後、恥ずかしがるトアを見て同じくにやにやとしたが、急に顔を青ざめてトアから視線を逸らした。

どうしたんだとトアを見ればまだ頬が赤らんでいるものの、落ち着いた様子で、俺を見上げた。

「早く、食べましょう?」

少し恥ずかしげにこてんと傾げた首、ひそかな笑みの破壊力といったら!俺が誘拐犯なら拐っている。必要な金額を支払ってお好み焼きと箸を持って用意された近場の食事場、椅子とテーブルが用意されたテントの中に入って空いている席に座る。

隣に座ろうとしたトアを抱き上げ膝上に乗せてやれば、焦るように俺を見上げるトア。

「この方が食べやすいだろ?」

「ほ、本気ですか?」

「普段トアがたくさん甘えてくるから、今日は俺が甘やかしたいの。ほら、あーん」

「あ、あー」

膝上にのせているため、見辛いが、恥ずかしげに口を開けるトアのなんたる可愛いこと。口にお好み焼きを含めばもぐもぐと口を動かしているのを見て、俺もお好み焼きを一口。王宮じゃ出ないものなので、前世の記憶があるとはいえこの世界で初めてのお好み焼きは美味しい。

ひそかに笑みを浮かべるトアを見て、トアも美味しかったのだろうことがわかる。交互に食べるとはいえ、量も多くはないのですぐ食べ終わり、またそれぞれのクラスが開く屋台を見て回る。

文化祭にあるものは前世の祭りにある食べ物とほぼ同じで、それらはこの世界で庶民料理と言われているらしい。つまりは王族や貴族が食べることはないため、トアは珍しいのだろう、俺の腕にひっつきながらも、どれも興味深そうに見ている。

トアが気に入れば今度作ってあげようかと思案する。前世の記憶でできなくもないだろう。この世界で料理をしたことがないとはいえ。これでも親に構われたくて料理の手伝いとかはしてきたわけだし。前世だけど。

「兄上、あれはなんですか!」

「からあげだね」

「からあげ!」

目がキラキラだ。その時点で買うことは決定。残念ながらからあげは棒に刺してあるため、喉をついたら危ないから自分で持って食べることに。もちろん先にトアに二個食べさせてから、後の二個を俺が食べた。棒に刺さったものを食べるのが初めてなトアには危ない。え?過保護?知らないな。

「お好み焼きもからあげも美味しいですね!あ、兄上!雲、雲が売ってます!」

雲と聞いてなんとなくわかったが、やはり綿菓子。確かに雲に見えなくはないかもしれない。訂正してもいいけど、雲と思っているトアが可愛いので訂正する気はない。

「雲をひとつ」

「え?あ、これは雲じゃ」

「雲だよな、それ。な?」

「あ、はい」

知ってるから言うなという無言の言葉を理解してくれた生徒は綿菓子を渡してくれたのでその金額を渡す。綿菓子・・・もとい、雲を見るトアは興奮気味だ。

「僕、雲初めて食べます!」

「お先にどうぞ?」

早く食べたいと目で訴えるトアはまた自分から食べていいのかの迷いが見てとれたので譲ってやる。綿菓子を雲と言うトアに周囲の温かい視線を感じた。普段、冷めた王子と知られるトアだが、あの婚約イベント失敗事件以来、俺の傍じゃ花咲く王子と呼ばれる。

誰にも冷たい王子が兄を見た瞬間、氷が解け、花が芽吹いたかのように笑顔を見せるトアを見てそう呼ばれることも増えた。冷めた王子しか見てこなかった周囲にとって元々美形のトアの笑顔の破壊力は半端ないようで、花咲く王子と別に殺人笑顔を持つ王子として殺人王子とも呼ばれる。物騒だし、ネーミングも誰がつけた。明らかに同じ人物な気がしてならない。

そんな思考に陥って改めて綿菓子を口に含むトアを見る。とたん、ほにゃんとトアの表情が崩れた。それと同時にあちこちから誰かが倒れる音が。これが殺人笑顔。やはりネーミングセンスはいかがなものかと思う。

「兄上!甘いです!雲は甘いのですね!」

ほにゃん顔を治し、興奮するトア。かなりお気に召したようだ。綿菓子もいい仕事をする。俺が王なら爵位を与えていただろう。いや、冷静になれ。綿菓子に爵位与えても意味がない。ただのバカだ。

どうやら俺も殺人笑顔にやられていたようだ。

そんなこんなで笑顔ひとつで周囲を気絶させていくトア。回っている内に時間も来て残念そうにするトアの頭を撫でつつ、文化祭のクラスの手伝いに午後は費やした。

帰宅時間となれば、俺がいないとつまらないと一足先にクラスの手伝いを終え、俺を待っていたトアを寮の消灯時刻ギリギリまで可愛がってやったのは言うまでもない。

……ちゃんと部屋には帰したからな?
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