人間嫌いの公爵様との契約期間が終了したので離婚手続きをしたら夫の執着と溺愛がとんでもないことになりました

荷居人(にいと)

文字の大きさ
84 / 102

84

しおりを挟む
それだけ言ってからバーン伯爵は口を閉じた。いや……寧ろ言い切ったかのようにぷつりと糸が切れたように意識を失った。

「リテール?」

急にかくんと気を失った様子に、旦那様を筆頭にみんなが不思議に思ったようだ。でもただ一人この状況を察した人がいた。

「急に興奮した様子なのが珍しいと思いましたが、これはだめですね。次目を覚ました時もうリテールくんは何も答える気がない……いえ、答えられなくなるでしょう」

「どういう意味だ!」

「あなたたちが警戒していた薬を予めリテールくんは服用していたのでしょう。恐らく興奮状態だけで体調面に変化がなかったことから改良型の飲み薬を服用したのかと。それでもリテールくんは毒に耐性をつけていたので効くまでに時間がかかっていたにせよ、規定以上に飲んだ可能性が高いですね。あの薬は元々、脳でいう記憶を保持する海馬という部分に特殊な細菌を侵入させて記憶をいじることを目的とした薬なんですよ」

「記憶をいじるだと?」

「内側で細菌が記憶をつついて混濁させ、その隙間に入り込むように外側から言葉を入り込ませることでそれが正しい記憶と認識させるといった感じですかね。とはいえ、残念ながらなんでもかんでも都合よく弄れるわけじゃない上に、その細菌を取り込みすぎると細菌が溢れて記憶を食い潰すことでしょう。つまり今まで積み上げてきた記憶が全部なくなり、何も知らない赤ちゃん脳になるようなものです。しかし、それならまだいい方です。最悪その細菌量に応じて脳死に追い込まれる場合もあります」

そんな危険なものを……バーン伯爵は自ら?それに……

「都合よく弄れるわけじゃないなら旦那様は何故……」

「それは簡単なことです。この特殊な細菌は大きな記憶に引き寄せられやすいんですよ。今日転けたというその時だけの記憶より、夢に向かって毎日努力している継続的な記憶や何度も思い出すような大事な人との記憶などをね。突発的なものとしては衝撃的で強く残る記憶なども惹き寄せられる傾向にあるみたいです。その記憶が濃いほどその部分を狙って暗示をかけるのはたやすく、所謂記憶を改竄、思い込ませることも自由自在ってところでしょうか。そういう意味ではあの時のジーン様は条件に当てはまりすぎるくらいに当てはまっていたので長期間記憶が正常になることがなかったのでしょう」

両親の死にかけに、その犯人が弟で、恨んでいた両親に愛されいた事実を知ったその日に、気になっていた僕が襲われかけているのも知って……確かに強く記憶に残る一日に違いない。それを分かった上でバーン伯爵は……。

「やりたい放題やって元凶は忘れて終わりとか納得いかないんだけど」

リードの言葉は僕も同意見だ。こんなのただ罪から逃げようとしているようなものじゃないか。記憶を忘れるのも、脳死して目覚められなくなるのも、どっちも逃げだ。

「時間はもらいますが解毒薬を作ることで脳死は避けられるかと」

「脳死だけじゃなく、記憶も何年かかってもいいから思い出せるようにして」

「まあ頑張りましょう。罪人を信じるかは貴方たち次第ですが」

リードの言葉にやれやれといったネティス医師は信用できそうにもないが、その薬の解毒薬の作り方を知るのは現在この人だけというなら任せる他はない。とはいえ、拘束をとくのも安心できないはず。

「すぐ医師、薬剤師の手配を。ネティス医師に従って解毒薬とバーン伯爵の治療に務めるように。拘束は解かず、指示だけ聞けばいい」

「王太子殿下ガスマスクは……」

「私たちはもう部屋を出るから問題ない。医師と薬剤師には念のためそのガスマスクの提供を。ネティス医師が変な真似をしないよう見張りはそのままいるように」

しかし、考えているうちに王太子殿下の判断は早かった。あのにこにこ何を考えているかわからない王太子殿下もこの時ばかりは真面目な表情で、頼りになりっぱなしだ。次なる行動も決まっているのか王太子殿下が部屋を出ていくので僕たちも後を着いていく。まだ色々聞きたいことはあるけど、正直僕もこの嫌な予感をなんとかしたいから今はこの二人は後回しなのに賛成だ。





しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
 【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!  僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして? ※R対象話には『*』マーク付けます。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

処理中です...