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3章怒るなら見てないところで怒りましょう。無理なら諦めも肝心です。
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「こうして世界には平和が訪れました。めでたし、めでたし・・・?(寝たか?)」
「・・・」
魔王の目には、抱くには少し大きいうさぎのぬいぐるみを抱き締めながら眠るミーアの姿。あれから魔王は考えた。ミーアが寝ている時ならひとりで動けると。今更ではあるが。
しかし、寝かしつけた後、眠り自体必要のない魔王は、ミーアの寝顔を見るのに忙しかったから思い付かなくても仕方がない。本人はただ思い付かなかっただけと言い張るだろうが。
それでもミーアを寝かしつけるため、毎晩魔王は、魔王からすれば胸くそ悪い人間に平和が訪れる物語をミーアのために読んでいる。それくらいにミーアのためになんでもしてしまう魔王からすれば寝顔を見ることは重要だ。本人はやはり否定するだろうとはいえ。
さて、そんな貴重な時間を何で無駄にしようとしているのか。もちろん、散々イラつかせて来た人間たちへ怒りをぶつけにいくことでだ。
ミーアの部屋を出ていく際、悪意あるものが入ろうとすれば国外へ飛ばされる結界魔法も忘れない。魔王からすれば殺さない結界魔法なだけ優しいくらいだ。
「さて、どうしてくれようか」
怒りを隠す笑みは、ミーアに普段見せる優しい笑みではなく、魔王を思わせる悪どい笑み。ミーアが見れば怖いと泣くだろうことが予想されるため、魔王がミーアに見せる日は来ないだろう。来たとしてミーアが泣いて、一瞬で消え去るに違いない。
「ルキ様!珍しくおひとりで・・・ようやくミーア様の扱いがおわかりに?」
ミーアが寝静まる夜は早いため、まだ使用人たちは、掃除残りや戸締まりなどバタバタとしている。そのため、魔王を見つけた侍女が自ら獲物になりにきたと、魔王は即座に悪どい笑みをただ、上っ面だけの笑みに切り替えた。
その笑みに侍女は少し赤くなりながらも自分の言葉が届いたのかと確認する。魔王に青筋が立つが、侍女は気づかない。
「ミーアの扱いを正すべきはお前たちの方だ。愚者が」
パチンと指を鳴らす音が侍女の耳に届く。
「・・・あれ、今何か言いました?」
「いや、何も?」
「なんか、気分が優れないので行きますね」
「お大事に」
侍女が去ると魔王に笑みが浮かぶ。次々と報復すべき者たちに会ってはパチンと指を鳴らすだけの魔王。皆、同じように気分が優れなくなり自ら去っていく。しかし、これは魔王の魔法による初期段階だった。
ちなみに終わった後、部屋に戻れば魔王がいないことに気づいたミーアが大泣きしたため、これでもうミーアが寝た時に魔王がひとりになろうと抜け出すことはなくなるだろう。
翌日ミーアが魔王に抱かれて廊下を渡り、厨房へ行けば、たくさんの悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁっ」
「虫、むし、いっぱ・・・いやあぁっ」
「どうしたの、かな?」
「気にしなくていい、幻覚でも見ているんだろ。虫なんていないだろ?」
「うん」
厨房にあるのはいつも通りの食材と料理道具だけ。ミーアの食事作業用スペースは、腐った食材だけを使用する前提なため、別にされている。今日もミーアの料理をつくるための作業場へ行けば相変わらずの腐った食材・・・ではなく、新鮮な食材が大量にあった。
「手間が省けるな」
片手でミーアを抱き直しながらも、新鮮な食材を手にとり、笑みを浮かべる魔王。
「なんで・・・?」
毎日といってもまだ日は浅いが、腐った食材を魔王が新鮮なものに魔法で戻すのが常だっただけにミーアは不思議がった。厨房は今だに騒がしい。
「あいつらにはこれが腐ったものに見えたんだろうな」
「まお・・・あ、えっと、るき、なにかしたの?」
確信めいた魔王の言葉に、戸惑うように聞くミーア。
「言っただろう。幻覚でも見ているんだろってな。食事、できるといいな?」
「ずっとつづくの?」
さすがにやりすぎではと思うミーアに、魔王は気にする様子はない。
「ミーアに忠誠を誓い、それに嘘がなければ治る」
一応治らないものではないからいいだろうという魔王の意見に、ミーアは苦笑いした。
「さすがにむずかしくないかなぁ」
悲しくも自分がどれだけ遠巻きにされているか、ミーアは自覚しているし、しているからこそ魔王は召喚され、今ここにいる。
「幻覚の虫は追い払えるようにしてある。まあ、見た目は腐った食材にしか見えないだろうし、味覚もそれを食べてる気分になるだろうな」
「みかくまで・・・」
「だが、ミーアは今まで食べてきたものだ。あいつらは我慢して食えば健康になんら害はないだけ優しいものだろう。ミーアが食べてきたものは体にもよくないものだ。」
つまり、今までのミーアの気持ちを思い知れとばかりにしたこと。食事は人間の三大欲求のひとつ。その欲を利用して苦しませてきた人物はそれこそ、その辛さを身をもって知るべきなのである。というのが魔王の考え。
これはある意味の生き地獄である。魔王の魔法にかかったものは、この先、ミーアに忠誠を嘘偽りなく誓わない限り、食欲を美味しいもので満たせないのだから。
ミーアはいいのかなと思いながらも、楽しそうな魔王を見て、まあいいかなんて思いながらも一瞬で出来上がった料理を部屋に戻り、今日も美味しく頂くのだった。
結局ミーアも子供といえど人間。前世の記憶があってもミーアの今までの記憶がなくなったわけではない。自分に酷い扱いをしてきた使用人を可哀想とは思うが、助けたいとは思わなかったのだから。可哀想と感じるだけミーアは純粋ないい子と言えるだろう。
「・・・」
魔王の目には、抱くには少し大きいうさぎのぬいぐるみを抱き締めながら眠るミーアの姿。あれから魔王は考えた。ミーアが寝ている時ならひとりで動けると。今更ではあるが。
しかし、寝かしつけた後、眠り自体必要のない魔王は、ミーアの寝顔を見るのに忙しかったから思い付かなくても仕方がない。本人はただ思い付かなかっただけと言い張るだろうが。
それでもミーアを寝かしつけるため、毎晩魔王は、魔王からすれば胸くそ悪い人間に平和が訪れる物語をミーアのために読んでいる。それくらいにミーアのためになんでもしてしまう魔王からすれば寝顔を見ることは重要だ。本人はやはり否定するだろうとはいえ。
さて、そんな貴重な時間を何で無駄にしようとしているのか。もちろん、散々イラつかせて来た人間たちへ怒りをぶつけにいくことでだ。
ミーアの部屋を出ていく際、悪意あるものが入ろうとすれば国外へ飛ばされる結界魔法も忘れない。魔王からすれば殺さない結界魔法なだけ優しいくらいだ。
「さて、どうしてくれようか」
怒りを隠す笑みは、ミーアに普段見せる優しい笑みではなく、魔王を思わせる悪どい笑み。ミーアが見れば怖いと泣くだろうことが予想されるため、魔王がミーアに見せる日は来ないだろう。来たとしてミーアが泣いて、一瞬で消え去るに違いない。
「ルキ様!珍しくおひとりで・・・ようやくミーア様の扱いがおわかりに?」
ミーアが寝静まる夜は早いため、まだ使用人たちは、掃除残りや戸締まりなどバタバタとしている。そのため、魔王を見つけた侍女が自ら獲物になりにきたと、魔王は即座に悪どい笑みをただ、上っ面だけの笑みに切り替えた。
その笑みに侍女は少し赤くなりながらも自分の言葉が届いたのかと確認する。魔王に青筋が立つが、侍女は気づかない。
「ミーアの扱いを正すべきはお前たちの方だ。愚者が」
パチンと指を鳴らす音が侍女の耳に届く。
「・・・あれ、今何か言いました?」
「いや、何も?」
「なんか、気分が優れないので行きますね」
「お大事に」
侍女が去ると魔王に笑みが浮かぶ。次々と報復すべき者たちに会ってはパチンと指を鳴らすだけの魔王。皆、同じように気分が優れなくなり自ら去っていく。しかし、これは魔王の魔法による初期段階だった。
ちなみに終わった後、部屋に戻れば魔王がいないことに気づいたミーアが大泣きしたため、これでもうミーアが寝た時に魔王がひとりになろうと抜け出すことはなくなるだろう。
翌日ミーアが魔王に抱かれて廊下を渡り、厨房へ行けば、たくさんの悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁっ」
「虫、むし、いっぱ・・・いやあぁっ」
「どうしたの、かな?」
「気にしなくていい、幻覚でも見ているんだろ。虫なんていないだろ?」
「うん」
厨房にあるのはいつも通りの食材と料理道具だけ。ミーアの食事作業用スペースは、腐った食材だけを使用する前提なため、別にされている。今日もミーアの料理をつくるための作業場へ行けば相変わらずの腐った食材・・・ではなく、新鮮な食材が大量にあった。
「手間が省けるな」
片手でミーアを抱き直しながらも、新鮮な食材を手にとり、笑みを浮かべる魔王。
「なんで・・・?」
毎日といってもまだ日は浅いが、腐った食材を魔王が新鮮なものに魔法で戻すのが常だっただけにミーアは不思議がった。厨房は今だに騒がしい。
「あいつらにはこれが腐ったものに見えたんだろうな」
「まお・・・あ、えっと、るき、なにかしたの?」
確信めいた魔王の言葉に、戸惑うように聞くミーア。
「言っただろう。幻覚でも見ているんだろってな。食事、できるといいな?」
「ずっとつづくの?」
さすがにやりすぎではと思うミーアに、魔王は気にする様子はない。
「ミーアに忠誠を誓い、それに嘘がなければ治る」
一応治らないものではないからいいだろうという魔王の意見に、ミーアは苦笑いした。
「さすがにむずかしくないかなぁ」
悲しくも自分がどれだけ遠巻きにされているか、ミーアは自覚しているし、しているからこそ魔王は召喚され、今ここにいる。
「幻覚の虫は追い払えるようにしてある。まあ、見た目は腐った食材にしか見えないだろうし、味覚もそれを食べてる気分になるだろうな」
「みかくまで・・・」
「だが、ミーアは今まで食べてきたものだ。あいつらは我慢して食えば健康になんら害はないだけ優しいものだろう。ミーアが食べてきたものは体にもよくないものだ。」
つまり、今までのミーアの気持ちを思い知れとばかりにしたこと。食事は人間の三大欲求のひとつ。その欲を利用して苦しませてきた人物はそれこそ、その辛さを身をもって知るべきなのである。というのが魔王の考え。
これはある意味の生き地獄である。魔王の魔法にかかったものは、この先、ミーアに忠誠を嘘偽りなく誓わない限り、食欲を美味しいもので満たせないのだから。
ミーアはいいのかなと思いながらも、楽しそうな魔王を見て、まあいいかなんて思いながらも一瞬で出来上がった料理を部屋に戻り、今日も美味しく頂くのだった。
結局ミーアも子供といえど人間。前世の記憶があってもミーアの今までの記憶がなくなったわけではない。自分に酷い扱いをしてきた使用人を可哀想とは思うが、助けたいとは思わなかったのだから。可哀想と感じるだけミーアは純粋ないい子と言えるだろう。
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