悪役令嬢は今日も泣いている

荷居人(にいと)

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4章予想外の出来事もいいように使いましょう

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ミーアは最近泣かない。しかし、代わりに夜泣きを頻繁にするようになった。

「ふえぇぇ・・・っ」

「どうした、また怖い夢でも見たか?」

その度に寝る必要性のない魔王はミーアの頭を撫で、それでも泣く場合は抱き上げてあやす。それで落ち着けばいいが、しがみついて離れない場合なんかは添い寝もする。

最初は躊躇いもあったが、今では当たり前のようにできてしまう魔王。ベットも大きくなっている辺り、添い寝がいつでもできる準備は万端だ。

「ひろ、いん、やあぁっ」

「大丈夫だ。俺がいる」

ちなみに魔王はミーアが泣く理由は悪夢を見る以外知らない。聞けば話すミーアだが、泣くくらい怖い夢を見たくらいしか魔王にはわからなかったのだ。

だからヒロインやら攻略対象がと言われても魔王にはちんぷんかんぷんで、最後は死んでしまうという夢であることだけ理解した魔王。

だから俺がいるから死ぬことはないと短い言葉に想いを乗せる。これをほぼ毎日誰の力を借りることも、放置などすることもなくやっている魔王は溺愛が過ぎるだろう。いくら寝なくても大丈夫とはいえ。

そんな魔王がミーアを悪いように育てられるはずもない。悪く育てるなら以前の環境でグレさせる方がよっぽど心が荒れて、いい子にはなれないだろうから。

そんな育て方を今の魔王ができるなんてことはなく、寧ろ生活環境をよくし、さらには高度な教育、過保護すぎる気遣いという名の愛を受けて、ミーアの心は安らいでいい子まっしぐらだ。

前世の記憶がなければ夜泣きもなかったことだろうと予測できるぐらいには、ミーアのための環境ができつつある。

反省の色のない使用人に関しては、償う気のある使用人たちによってミーアに近づかせないようにされている。これは魔王が命令したことだ。ミーアに償いたいなら徹底に教育や世話以外にも動けと。

暗殺部隊とやらができたのもそれが理由だと魔王は知らない。何せ、まず使用人でそんな部隊が作られるとは普通思わないのだから。

「う・・・っうう・・・っ」

「悪魔なら泣くこともなかっただろうな」

ミーアの黒い髪は悪魔の色。だからこその呪い子とミーアは呼ばれ、嫌悪されてきた。魔王と会うまでは、まだ誰かに甘えたい年なのに許されないだけでなく、普通の生活さえままならない孤独な環境。それがミーアを泣き続けさせる要因だろうと魔王は考えている。

最もな理由は、前世から泣き虫とも言えたのが引き継がれただけなのだが。本来のゲームのミーアは我慢強く、自分を保とうと寧ろ素直に泣けないタイプだったりする。全くの正反対だ。

とまぁ、それはともかく確かに悪魔ならミーアはここまで劣悪な環境にはならなかっただろう。悪魔は欲深く、召喚も禁術にされるほどに人間には疎まれているが、自分の欲に忠実なだけあって周りに流されず、自分が懐に入れたものは大切にするものが多い。

その代わり、それ以外で大切なものを奪おうとする輩には、残酷な手段さえ選び、時に命を捨て、命を奪うことも厭わない。

とはいえ、同族や物ならともかく、魔王のように悪魔は基本独自のプライド意識が高い。天使という天敵や人間という下等生物に関しては特に。

ミーアが悪魔であったなら魔王は既に意地も張らず、素直にミーアを可愛がり、娘として扱うように取り計らったかもしれない。素直じゃなくても既に行動、態度が可愛がっているし、娘にしても過保護すぎるくらいに扱っているが。

だが、それはあくまで魔王にとってして当たり前程度。素直以前にこれくらい当たり前だろう意識で、魔王は人間に与する訳がないと自分のプライドを保っている。

それが取り払われた時、今のミーアに対するものが当たり前にやっていることであれば、魔王の大切にするものに対しては一体どのようになってしまうのかということになる。

ある意味ではミーアは人間でよかったかもしれない。おかげでほどほどな過保護・・・・・・・・で留められているかもしれないのだから。既にほどほどではない気もするが。

「ま、おう、はなれ、ないで・・・っ」

「ここにいる」

魔王は自分がミーアが悪魔ならと望みを口にした本当の本音には気づかず、ただミーアが安心して眠れるよう抱き上げ、とんとんと背中を軽やかなリズムで優しく叩く。

ミーアの言葉の意味がゲームの未来を示していることに魔王が気づくはずもなく、自分が今傍にいることを伝えるなどする。

どんなに魔王が優しくても、どんなに使用人たちが変わろうとも、どんなに環境がよくなっても、今のミーアにとって、魔王もミーアもゲームと同じ姿形。ゲーム仕様で強制的に死ぬ運命かもしれない。魔王も使用人もそれに関わるかもしれない。

それがミーアの考える結末。自分はまた死ぬために生まれたのだろうかと前世を思い出して死に方は違えどそう思ってしまうのだった。

しかし、少し先の未来で思わぬ人物により希望を与えられることを今のミーアは知らない。

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