私の夫はストーカー~私は恋も愛も知りません~

荷居人(にいと)

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6章

夫婦生活は本物になる7

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「あら、誰もいないの?」

「時間も場所も間違ってないはずだけど・・・」

いざ辿り着いた結婚式場は準備こそしてあるようだけど、誰もいない。結婚式をあげるはずの結愛の名前がどこにもないから不思議には思っていたけど、どういうことかしら?時雨が間違うとは思えない。

「んん!?」

「み・・・っ」

なんて二人で呆然していれば、急に口許に何かを当てられ、意識があっという間に遠退いていったのが数時間前。

今、私は何故かウエディングドレスを着ていてソファに座っていた。時雨どころか周囲には誰もおらず、誰に着せられたかもわからない。時雨が好きな今は、着替えが男性によってされたものではないことを祈りたい。私にだって嫌悪感はある。

「時雨・・・?」

取り合えず時雨を探さないとと思い部屋を出ると扉を開けた先に案内があった。

【この先にある扉の前で君の夫を待つように】

そこに行けば時雨に会えるのだろうか?もし、会わせる気があるなら、時雨がいる部屋の外にも似たようなことが書かれているかもしれない。闇雲に探すより案内に従ってみるしかないわね。

不安はありながらも進むのは、この場所が数時間前、会場に向かうのに時雨と進んだ道だからでもある。知らない場所じゃないだけにまだ安心だろう。

それにウエディングドレスに気がついてなんとなく、結愛が関係している気がしてならない。もし、これが結愛の結婚は嘘で本当は私の結婚式とするなら・・・。

「美世!」

「時雨!」

思わず会えてよかったと二人して抱き合った。時雨は私と結婚式をあげた時のタキシード姿に変わっていた。そう、私のウエディングドレスもあの時と変わらない。これで確信も近くなる。時雨もさすがに勘づいているようで、しばらくして会場の本来結愛が結婚式をあげるところだと聞いていた場所の扉を開けた。

「「「「「結婚おめでとう!!」」」」」

狙ったかのようにみんながみんな口を揃えて言った言葉。これは私たちの二度目の結婚式で、私が我が儘だと思いながらも心から望んでいたこと。

一度目と違い、会場は広いのに、人は少ない。知っている人たちばかりでの身内結婚式みたいなものだ。でも、そんな人たちばかりだからこそ、一度目よりもこの瞬間だけでこちらがいいと私は言える。だって私は今、たった一言の言葉で胸が締め付けられるような思いなのだから。もちろん嬉しさで。

「これで泣いてたら後が持たないよ!」

「瑠璃・・・」

まだ泣いてはない。でも、泣く前に気づかれるくらいに私は表情が出ていたのだろう。最近の私は時雨じゃなくてもわかるくらいにはわかりやすくなったと言われたくらいに、表情が豊かになっているのを自覚している。それでも知らない人たちに気づかれるほど豊かになったわけではないようだけど。

身内だけで、さらには二度目だからか結婚式は瑠璃に引っ張られ、慌てて着いてくる時雨、それを笑いながら結婚を祝福してくれた人たちがぞろぞろ着いていくという初っぱなからぐだぐだ加減。

長い話もなしに、短い言葉で誓いのキス。一度目より人は圧倒的に少なく、時雨の仕事関連の人は秘書くらい。でもなんだか恥ずかしくて顔を俯けると、時雨が可愛いなんて言うから殴ってしまった。

私の照れ隠しは手が出てしまうのだと初めて気づいた瞬間だ。自分でしたことに驚き、時雨も目を見開けていた。次に込み上げてきたのは笑いで、なんだかおかしくて笑ってしまい、周囲も共有するかのよう同じように笑う。

スタッフはひとりもおらず、そのせいもあってか自由すぎて、どこまでもぐだぐだな結婚式。いうまでもなく用意したのは時雨と今では私の親でもあるお義父さん。何せ二度目の結婚式はこの人に頼んでいたのだから。

「やっぱり動きがわからないものたちだけでするとちゃんとできないものだね」

そう言いながら笑うお義父さんは楽しそうだった。

「やり直したい?三度目はきちんとできるよ」

そう問われた時、三度目は一度目のようにちゃんとした結婚式をするということだと理解した。二度目をお願いしたときは当然こんなぐだぐだな結婚式を考えてはいなかったけれど・・・。

「これで十分です・・・。これ以上の結婚式はないもの」

ぐだぐだでも、それぞれが私と時雨の結婚を、両想いになったことを祝福する気持ちでやろうとしてくれたことなのがよくわかるものばかりだった。

最初は結愛と瑠璃と何故か時雨の秘書を交えた演奏。瑠璃は歌を披露し、結愛はヴァイオリン、秘書はピアノを。プロの演奏ではないけれどと言っていたけど、私たちのために作られた曲にプロなど関係ない。だってプロの演奏で私は泣かなかったもの。

「美世ちゃん、感動しすぎーっもう私までぇっ」

「瑠璃がバラード歌えるなんて・・・っ」

「え?そこ?涙引っ込んじゃったよ」

「意外にバラードの方が瑠璃にはあっていたの」

「結愛ちゃんまでーっ」

「秘書、君までなんで・・・」

「お二人は美世様の御友人ですから、時雨様だけ祝ってくれる人がいないのはお寂しいかと」

「・・・そうか」

なんて会話をして時間が押しているからと会話を切られて次、お互いの母による私たちの幼い頃の映像を見せられた。なぜ、これにしたと思うものばかりで、周囲が笑う中、私と時雨は顔を手で覆った。終了後の母の想いには結局泣いてしまったけど。

「私も・・・っ大好きよ、ママ。今まで、ありがとう・・・っ」

「みーちゃん、お礼は私の言うべきことよ?生まれてきてくれて本当にありがとう・・・貴女が私の娘で本当によかったわ」

「母さん、今まで迷惑ばかりかけてばかりでごめんね」

「何言ってるの、私は時雨の母親なんだから当たり前でしょう?貴方が今幸せに生きていられるなら今までの貴方の思う迷惑は帳消しよ!時雨は自慢の息子だから迷惑なんて私は思ったことないけどね?」

それぞれで親子の会話に、映像の時は笑っていた周囲の涙ぐむ声が聞こえた。これに関してはみんな私が落ち着くまで待ってくれ、次は互いの父の番。

まさかの手作りケーキだった。しかもホットケーキ。

「ちゃんとしたケーキを作りたかったんだけどね。難しくてまずはできるところからと簡単にしていって唯一できたのがホットケーキだったんだ」

「・・・ケーキは難しいな」

それでも前日まで挑戦し続けたようで迷いはしたものの、美味しいものを食べてほしくてホットケーキで断念したみたいだ。デコレーションだけはやけに凝っていて、イチゴやバナナ、チョコのコーティングなどされていて、見ているだけで美味しそうだった。

実際ふんわりしてて、作るセンスがないわけではなさそうに感じた。結婚式でまさかウエディングケーキではなくてホットケーキを食べるとは考えもしてない。でも誰が作ったかもわからないウエディングケーキよりよっぽど美味しく感じた。

笑って泣いて驚いて、いざ感情を理解できてしまうようになると大変だなと感じる。今日一日は特にそれがわかる日。でも前に戻りたいとは全く思わない。

「写真を撮ります!みなさん、集まってください」

秘書の声が響き、みんなそちらへ集まっていく。

私は恋も愛も知らない、気持ちのわからない子だった。でも今ならわかる。

恋と愛は言葉でわかるものじゃないと。ただ何かを想うそれに名前をつけたもの。私はそれに気づかなかっただけで持っていた。

それを教えてくれたのが時雨であって時雨ばかりじゃない。恋は時雨ひとりで、愛はたくさんあることをあれから知った。

この結婚式にはたくさんの愛が溢れている。親の愛、友達の愛、夫の愛に、私、妻の愛。

「はい、では、あっち向いてほい」

「カメラから視線外させてどうする」

「冗談ですよ、時雨様。では、はいチーズ」

・・・これもひとつの愛?

とにもかくにも結婚式はこれにて幕を開けた。これから始まるのは本物の夫婦による生活であり、恋と愛を知ったばかりの妻とストーカーをやめる努力をする夫の夫婦物語。

「時雨、これもあの結婚式のアルバムかしら?」

「あ、それは・・・」

「時雨、この写真私ばっかりね?監視はやめたのではなくて?」

「手が勝手に・・・」

「仕方ないわね」

どうやら夫のストーカー気質の完治はまだまだ遠そうね。

END
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