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1章自殺令嬢は死ねない
3~少年視点~
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『ころして』
汗やら口から出た血や涙、面の土などでボロボロとなった少女が呟いた言葉。目は虚ろで、生きながらに死んでいるようだった。
何が少女をそう思わせたのか。自分と変わらぬ年だろうにそれほど幼くしてどんな人生を歩んできたのかと思うほど、今回酷い目にあったことだけが原因とは思えなかった。
「そのこ、いきてますか?」
その声にはっとして後ろを振り向けば、小太りの男を組み強いている騎士とは別の女性騎士に隠れていたもうひとりの少女が顔を出して震えた声で僕に問う。この子が僕たちじゃない人たちに助けを呼んでいたならば今気を失った少女は死んでいてもおかしくはなかった。
誰も自ら正義感を振りかざして少女の頼みを聞いて人助けをするなんてことはないだろうから。良心ある人ならば町を見回る衛兵くらいは呼んでくれたかもしれないが、それでも間に合ったかはわからない。
寧ろこれだけ傷だらけでよく生きているとすら思う幼い少女。少女と呼ぶのが早いとすら思うほどにその姿は自分よりも小さい。
「殿下、運びますか?」
「そうだね、息が浅い。手当てもしないと。キシィ頼めるかな」
「もちろんです、殿下」
「殿下、これはいかがなさいます?」
「連れてこい。どうするかは後だ」
「で、殿下!?へ、へへっわ、悪かったよ!謝るからよぉ、連行は勘弁してくれよ、な?」
僕が何者か理解したとたんに態度を変える男に嫌気が差す。許す気などさらさらないが、どういう経緯でこうなったかを聞く必要もありそれ次第では………と思っていれば数多くの足音。
お忍びで護衛騎士に両親を装っていてもらっていたため、腕は確かでも何もできぬものが三人いる状態で数多くの敵を相手にするのは些かきつい。騒ぎがあったわけでもないだろうに、何故こんなにも足音が………と危惧していれば、どうやら貴族に仕える近衛たちのようだ。僕のではないが。
彼らというかひとりは僕の知る近衛、確かタイ公爵家の近衛隊長ではなかっただろうか。彼は優秀で当主の秘書から執事のようなことまでする変わり者として覚えている。
「シーニお嬢様!」
その近衛隊長が叫んで近づいた先はボロボロの少女の傍。僕に気づく余裕もなかったようで駆け寄ってきた。
なるほど、少女は公爵家の娘だったようだ。
「き、貴族だと………?お、俺は知らなかったんだ!貴族様を傷つける気なんて!」
お嬢様なんて呼ばれ方、庶民がされるはずもなくそれを悟る頭はあったのだろう小太りな男はもはや真っ青を通り越して白くなっている。
「ただの貴族ではないよ。公爵家の娘のようだね」
「こう、しゃく………?」
もはや、この明らかに庶民だろう男は貴族に仇なした敵として重い罰が決まることだろう。同情などする気はないし、助ける気などあるはずもない。理由はともかく自業自得。子供に対して明らかにやりすぎだ。
「貴様がシーニお嬢様を!」
きっと近衛隊長が小太りの男を睨み付ける。
「ひぃっ!お、俺は悪くねぇ!そいつが俺をバカにするから………!」
少女ひとりに挑発されたと言って暴力が許されるとでも思っているのだろうか?この男は。自分を改めようとしないその姿は実に醜い。
「色々思うところはあると思うけど、早く手当てしないとご令嬢が辛いだけだよ?」
「で、殿下!?申し訳ございません!シーニお嬢様を必死に探すあまり気づくことができず………っ」
「構わないよ。訳は後で聞かせて?ご令嬢は君に任せてもいいのかな?」
「お許しいただきありがとうございます。お連れするように頼まれていますのでシーニお嬢様はお任せください。おい、先に行ってもう一度医師を呼ぶよう伝えてこい!」
「はっ」
どうやら彼も冷静さを取り戻したようだ。必死な様子は少女を大事にしていないとは思えない。にしももう一度か。
「ねぇ、ひとつ聞きたいのだけど」
「なんでしょう?」
「公爵家の家族関係は冷めているわけではないよね?」
「そんなことは!冷めているなんてことはありません」
そうだよね。ときどき会うタイ公爵も公爵夫人も誰もが認める優しい人物で僕の両親や他貴族たちの信頼どころか領民の信頼も厚いと聞く。そんな人たちが娘にだけ冷たいなんてことは思えない。
だからこそ余計に疑問だ。あの二人の娘であるあの少女………ご令嬢は何故あんな虚ろな目で死を望むのか。不自由のないだろう暮らしに、優しい両親、少女を想う近衛たち。それを考えれば死など普通なら考えない。
「ただ、シーニお嬢様は一度も笑ったことがありません。まるで死に急ぐようで誰もが心配しています」
「そう……ありがとう。またせっかく助けたのだからお見舞いもかねて公爵家へ行かせてもらうよ」
「はい、お伝えしておきます」
死に急ぐ、きっと間違えではないだろう。ご令嬢は確かに死を望む言葉を意識が失う前に呟いたのだから。酷く細い小さな声で。
『ころして』
その言葉が頭の中で響き渡る。初めて会ったというのにご令嬢の声と虚ろな目が忘れられない。おかげでその日の出来事は僕にとって大きな出来事の一日となった。
汗やら口から出た血や涙、面の土などでボロボロとなった少女が呟いた言葉。目は虚ろで、生きながらに死んでいるようだった。
何が少女をそう思わせたのか。自分と変わらぬ年だろうにそれほど幼くしてどんな人生を歩んできたのかと思うほど、今回酷い目にあったことだけが原因とは思えなかった。
「そのこ、いきてますか?」
その声にはっとして後ろを振り向けば、小太りの男を組み強いている騎士とは別の女性騎士に隠れていたもうひとりの少女が顔を出して震えた声で僕に問う。この子が僕たちじゃない人たちに助けを呼んでいたならば今気を失った少女は死んでいてもおかしくはなかった。
誰も自ら正義感を振りかざして少女の頼みを聞いて人助けをするなんてことはないだろうから。良心ある人ならば町を見回る衛兵くらいは呼んでくれたかもしれないが、それでも間に合ったかはわからない。
寧ろこれだけ傷だらけでよく生きているとすら思う幼い少女。少女と呼ぶのが早いとすら思うほどにその姿は自分よりも小さい。
「殿下、運びますか?」
「そうだね、息が浅い。手当てもしないと。キシィ頼めるかな」
「もちろんです、殿下」
「殿下、これはいかがなさいます?」
「連れてこい。どうするかは後だ」
「で、殿下!?へ、へへっわ、悪かったよ!謝るからよぉ、連行は勘弁してくれよ、な?」
僕が何者か理解したとたんに態度を変える男に嫌気が差す。許す気などさらさらないが、どういう経緯でこうなったかを聞く必要もありそれ次第では………と思っていれば数多くの足音。
お忍びで護衛騎士に両親を装っていてもらっていたため、腕は確かでも何もできぬものが三人いる状態で数多くの敵を相手にするのは些かきつい。騒ぎがあったわけでもないだろうに、何故こんなにも足音が………と危惧していれば、どうやら貴族に仕える近衛たちのようだ。僕のではないが。
彼らというかひとりは僕の知る近衛、確かタイ公爵家の近衛隊長ではなかっただろうか。彼は優秀で当主の秘書から執事のようなことまでする変わり者として覚えている。
「シーニお嬢様!」
その近衛隊長が叫んで近づいた先はボロボロの少女の傍。僕に気づく余裕もなかったようで駆け寄ってきた。
なるほど、少女は公爵家の娘だったようだ。
「き、貴族だと………?お、俺は知らなかったんだ!貴族様を傷つける気なんて!」
お嬢様なんて呼ばれ方、庶民がされるはずもなくそれを悟る頭はあったのだろう小太りな男はもはや真っ青を通り越して白くなっている。
「ただの貴族ではないよ。公爵家の娘のようだね」
「こう、しゃく………?」
もはや、この明らかに庶民だろう男は貴族に仇なした敵として重い罰が決まることだろう。同情などする気はないし、助ける気などあるはずもない。理由はともかく自業自得。子供に対して明らかにやりすぎだ。
「貴様がシーニお嬢様を!」
きっと近衛隊長が小太りの男を睨み付ける。
「ひぃっ!お、俺は悪くねぇ!そいつが俺をバカにするから………!」
少女ひとりに挑発されたと言って暴力が許されるとでも思っているのだろうか?この男は。自分を改めようとしないその姿は実に醜い。
「色々思うところはあると思うけど、早く手当てしないとご令嬢が辛いだけだよ?」
「で、殿下!?申し訳ございません!シーニお嬢様を必死に探すあまり気づくことができず………っ」
「構わないよ。訳は後で聞かせて?ご令嬢は君に任せてもいいのかな?」
「お許しいただきありがとうございます。お連れするように頼まれていますのでシーニお嬢様はお任せください。おい、先に行ってもう一度医師を呼ぶよう伝えてこい!」
「はっ」
どうやら彼も冷静さを取り戻したようだ。必死な様子は少女を大事にしていないとは思えない。にしももう一度か。
「ねぇ、ひとつ聞きたいのだけど」
「なんでしょう?」
「公爵家の家族関係は冷めているわけではないよね?」
「そんなことは!冷めているなんてことはありません」
そうだよね。ときどき会うタイ公爵も公爵夫人も誰もが認める優しい人物で僕の両親や他貴族たちの信頼どころか領民の信頼も厚いと聞く。そんな人たちが娘にだけ冷たいなんてことは思えない。
だからこそ余計に疑問だ。あの二人の娘であるあの少女………ご令嬢は何故あんな虚ろな目で死を望むのか。不自由のないだろう暮らしに、優しい両親、少女を想う近衛たち。それを考えれば死など普通なら考えない。
「ただ、シーニお嬢様は一度も笑ったことがありません。まるで死に急ぐようで誰もが心配しています」
「そう……ありがとう。またせっかく助けたのだからお見舞いもかねて公爵家へ行かせてもらうよ」
「はい、お伝えしておきます」
死に急ぐ、きっと間違えではないだろう。ご令嬢は確かに死を望む言葉を意識が失う前に呟いたのだから。酷く細い小さな声で。
『ころして』
その言葉が頭の中で響き渡る。初めて会ったというのにご令嬢の声と虚ろな目が忘れられない。おかげでその日の出来事は僕にとって大きな出来事の一日となった。
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