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1章自殺令嬢は死ねない

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「シーニ嬢、君には婚約破棄と処刑を言い渡す」

ああ、この場面は何度と見た繰り返しの人生。焦りと疑問と恐怖とたくさんの感情が複雑に交ざりあったのが最初。

でも今の私は私のせいで処刑の手間をかけさせる申し訳なさと救いのような気持ちが込み上げて来ていた。

『ようやく死ねる』

そう感じてようやくひそかな笑みすら浮かべれそうだ。私に笑うことは許されないけど。一瞬でも幸せになる価値など私にはないのだから。きっと自由になってすぐ死ねなかったのは長い夢に違いない。私は死ぬべき人間なのだから。

死ねないことの方がおかしいのだ。

「公爵令嬢だからって調子に乗りすぎたのだわ」

「本当にいつもいつも偉そうに」

こそこそと私を悪く言う声。何度も耳にするその声に私は何度胸を痛めただろう。それでも私は加害者であり被害者ではない。言われるようなことをしてきたのだ。

後少しで死ねる。次はないことを祈りながら何度も私は同じ死に方をするのだ。

「最後に言い残すことは?」

処刑人に許される最後の言葉は一言だけ。私は何度も同じ言葉を繰り返す。

「何かの間違いよ!」

間違いだらけだと言うのに言葉が変わることはない。そして私は国が護るべき聖女殺人未遂の罪でたくさんの人の前で首を切られ処刑されるのだ。

そして次に目が覚めた時にいたのは夢だと思いたかった場所。

「シーニ!」

「目が覚めたのね!ああっ可哀想に!」

身体中の痛みが処刑されたあの日の方が夢だったと絶望に晒される。ようやく死ねたと思ったのに。

「…………」

無言で周囲を見渡せば私は脱走した部屋に戻されたようだ。窓が頑丈な板で塞がれているのは私がまたどこかへ行かないようにするためだろう。板からこぼれでる光で今が朝か昼なのがわかる。

「旦那様、奥様、イチーズ殿下がお見えです」

そんな中、私がぼーっとしている間にドアをノックして父の許可を得たのか、入ってきた使用人が言った言葉に目を見開く。

イチーズ殿下が何故?と。

繰り返す人生の中でイチーズ殿下と会うのはまだ数年先。早すぎる出会いに私は恐ろしく感じた。また過ちを繰り返してしまうのではないかと。自由な今がいつまで続くかなどわからないのだから。

「ちょうど娘も目を覚ましたし………」

「いやっ!だめです!はやく、わたしをころして!あいたくない!わたしは殿下にあうべきじゃないの!」

「シーニ!落ち着いて?身体に障るわ!」

私は暴れまわる。イチーズ殿下と会えばまた自由じゃなくなり繰り返してしまう過ちに怯えて。会う前に死ななければと止める母の声に耳を傾けず身体の痛みを無視してベットから降りて死ぬための何かを混乱しながらも辺りを見回して探す。

だけどすぐ父に脇に手を入れられ背後から抱き上げられた。

「落ち着くんだ、シーニ。殿下には断っておくから」

「いや………っいや………っはやく、はやく、死なないと」

髪をぐしゃぐしゃに掻き回して父から逃れようとするけれど5歳の力が大人に敵うはずもない。傷だらけで痛みを無視したところで既に弱ってる私を父が捕らえるのは簡単なことだろう。

「何故、そんなに死にたがる………?私たちはシーニを愛しているし、死なせたくなどない」

「シーニ、私たちは貴女に何かしてしまったのかしら」

二人が悲しげに私を見て、泣きそうな声にはっとした私はようやく少し気持ちが落ち着いた。違う、私は二人にこんな顔をさせたいわけではない。

「ち、ちがう!わたし、わた、し………っごほごほ」

「「シーニ!」」

思わず咳き込んだ私に母まで私に近づいて父に抱き上げられた私の頬を撫でる。温かい手にほっとしてしまうのはやはり私の母だからだろうか。

生きる価値がない私に何故両親揃ってここまで優しいのだろうか?

「ごめん、なさい………やすんでも、いい?」

「……ああ、ゆっくり休みなさい」

「私も一緒にいるわ」

質問に何一つ答えてない私を追求することなく、父も母も優しい声で私を安心させるように笑みを浮かべて休むことを許してくれる。

父が私を抱え直してベッドに寝かしてくれる手はやっぱり優しく温かい。こんな優しい両親たちを私は裏切った。

何故私はこの優しさを学ばなかったのだろう。この優しさを持っていればクルッテをいじめず、仲良くなれていたかもしれない。殿下に婚約破棄をさせずに………いや、処刑を言い渡させるなんて手を汚させるようなことをさせずに済んだかもしれない。

「すまないが、私から殿下に断りを入れにいこう。殿下相手に断りすら使用人にさせるわけにもいかない」

「ちちうえ、ごめんなさい」

「気にするな。親は子を守るためにいるのだから。例えその相手が殿下に限らず陛下だとしても、私はシーニを守るためなら公爵の地位もいらないからね」

「え………」

「もちろん私もよ?シーニ」

「なん、で」

なんで私のためにそこまで?そんな言葉が最後まで出て来ないほどに私は動揺した。だって私はそこまでされるような価値などないのだから。

ここまで私を想う二人は私が死んだ後どうしたのだろう?ふとそう考えると怖くなった。

もし二人が私の死を追って来たとしたら私は二人の命を奪ったも同然で、更なる罪が重なるのだから。何よりそれが事実なら私は優しい両親を殺してしまったことに、より一層気が狂いそうだ。
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