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1章自殺令嬢は死ねない

7~イチーズ殿下視点~

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「はぁ………」

やることを終え、ある悩みが思い浮かんでため息が出る。

「殿下、そんなに気になさるなら無理矢理にでも婚約者にしては?貴方ならできるでしょう」

その悩みをいい加減に同じことで悩むのやめろとばかりに悩みを悟って言うのは僕の従者サトル・ドエースだ。彼は一応男爵のご子息。少し縁あって

「できるけど、それで死にたがられたら僕は耐えられないよ」

「珍しい令嬢もいるものですよね。あのモテモテな殿下が気になる女性には死にたがられるほど嫌われてるなんていい気味です」

はんっとばかりに笑う姿にイラッと来るのは仕方ないだろう。は身分を気にしないのだ。そこが気に入って優秀さもあり従者にしたのだが………間違えただろうか。今更変える気はないが。

王子としていなくていいサトルの前では楽なのだ。それにちゃんとすべきところではさすがにこうでは…………ない、うん。

まあサトルについては置いといて、とりあえず僕の悩みは一度だけ出会った5歳の少女の話である。二度目は見舞いと表して会いに行き仲良くなって励みにでもなればと思ったのだけど………。

『殿下、申し訳ございません。理由はわからないのですが娘は貴方に会うことに怯えておりまして』

最初は意味がわからなかった。だって僕は彼女が倒れる寸前に出会っただけなのだ。まさか身分を気にして恐縮している?いや、それでも彼女は公爵だから王家に近しいというのに………。

なんて考えていれば

『その………娘が殿下に会いたくない、早く殺してと死にたがりまして』

『え………?』

それはまるで僕自身に会うくらいなら死にたいと解釈してしまう。申し訳なさそうにするタイ公爵に頭が真っ白になった。

そして気づいた。5歳なんて幼い少女に僕も同じ子供ながら惹かれていたのだと。自分が支えになれたらなんて傲慢にも思っていた。

何せ公爵家の娘なら婚約者にするのも難しくはないだけに僕は多少ながら少女の心配と共に期待もあったのだと思う。なのに僕は少女の死を早まらせる要因でしかない。

あまりにショック、それでも僕は彼女を諦められない。ころしてと泣いて虚ろな彼女が忘れられないのだ。彼女の名はシーニ・タイ。僕は彼女の名前くらいしか知らない。

進展したくともできない現実が辛い。他の令嬢からはうるさいくらいアプローチされるというのに。

なんてまたもやため息を吐きそうになればサトルが狙ったかのように爆弾を投下した。

「今、シーニ嬢に婚約者候補いるんですけど」

「なっ!」

その言葉に思わず立ち上がれば面白そうに笑い、瞳は完全にバカにしたようなそれに、いい加減クビにしてやろうかと思うも今はそれどころじゃない。

彼女に、シーニ嬢に婚約者ができたら本当に何もできなくなるのだから。

「シス・コンという伯爵のご子息様だそうです。シーニ嬢が助けた少女の友人だったそうで姉のブラと共にほぼ毎日公爵家に通っているようですよ?」

貴方よりかよっぽど可能性ありますよ?とばかりに目を細めて笑うサトルを殴りたくなる。

本当不敬罪で裁いてやろうか。

「そんな考えをして人を睨むからシーニ嬢が怖がるのでは?」

「ぐぅっ」

まるで考えを読んだかのようにやれやれとした仕草をするサトル。何も言い返せないのが辛い。

「あ、それと私も候補ですよ?」

「は、え、いつの間に!」

「殿下がとろとろしてるから奪ってやろうかなと」

「だ、男爵の身分じゃ」

「シーニ嬢が心配なご様子で死なないように気にしてくれる人をお探しのようで、身分は関係ありませんよ。いやはや身分もステータスの一部と言いますが殿下の場合は何の役にも立ちませんね。あははははっ」

ついに大笑いするサトル。人生楽しそうで何よりだが普通に腹が立つ。これにシーニ嬢を奪われれば生涯自慢気にされることだろう。

ある意味それは僕をからかうために彼女を大事にはしてくれるだろうが。

そんな未来を想像して…………嫉妬といろんな意味の怒りで狂いそうだと思った。

「こ、この際、変装して彼女と仲良くすれば!」

「変装いいと思いますよ?くくっ」

うまくいくかはわかりませんけど?と言外に言っているように思うのは気のせいだと思うことにした。相手にするだけ調子に乗るのだ、これは。

「しかし、彼女にバレないようにどう公爵家に取り次いで変装すれば………」

「ああ、それなら簡単ですよ?私はですからそれを理由に赴いて貴方はその関係者としてくればいいんですよ」

「やけに協力的だね」

赴く理由にイラッとは来るが。

「何をおっしゃいますか!私は殿下の従者ですから協力しますよ!友人としてもね!」

「それは助かるけど」

何故だろう、物凄く嫌な予感しかしない。だけど他に思い付く術がないこともサトルはわかった上で提案してくるのだろう。

「変装はお任せください!」

きらきらな笑顔でいうサトルは年下らしい9歳の笑顔としてとても合ってはいるが、何故か背筋がぞくりとした。

「え、お前がするの?」

「はい?当然でしょう?」

頭の中で警告音が鳴るが、シーニ嬢に近づきたいと頼む側の僕がサトルに勝てるはずもなかった。
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