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1章自殺令嬢は死ねない
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「婚約者候補………」
「もし嫌な人物なら今後は会わないようとりはかろう。でも私はシーニが幸せになることを祈っているよ」
父は私がいいと思った婚約者ができれば死のうとしなくなると思っているのだろうか?今も昔も変わらず死のうと考えてはいる。けれど行動には移していないのに私はただいるだけで心配させてしまうようだ。
優しい両親から離れようと考えていたのがバレたのだろうか。
「わかりました………。会ってみます」
それ以外に私が言うことはない。普段から私が生きることで迷惑しかかけていないのだ。このまま進めばまた私は破滅しか導かないかもしれない。
父の頼みすら聞けないなんてこと私にはできないのだ。
そして数日後婚約者候補として来たのはサトル・ドエースご子息。まさか男爵家とは思わなかった。ネムーが生まれた今、公爵家の跡継ぎは難しいだろう。
だというのに私なんかを何故?野心はないのだろうか。父からは向こうからお願いをされたと聞いている。
父は心配そうに見て、ドエース男爵は公爵家に萎縮することなく堂々としている。だというのに偉そうには見えず貫禄すらあった。何故男爵なんだろうか?と思うくらいにはもっと貴族の位が高くてもおかしくはないと思えるくらいには。
ドエースご子息もまるで上の相手に慣れているとばかりに静かに笑みを浮かべて余裕さながらだ。けど決してこちらを見下しているわけではない。
なんとも不思議な人たちだった。そしてもうひとり気になる人物はご子息が連れている侍女。彼女はどこか緊張している様子で私を見つめている。
一瞬どうしたのだろうと首を傾げればはっとしたように私から目を逸らしたが。それはいいけど、侍女にしてはあまりに綺麗というかこちらが目を牽かれた。
気のせいかどこかで見たようなそんな気すらしたが、さすがに気のせいだろう。私の知り合いは少ない。
繰り返した人生で会った人物なら寧ろすぐわかるはずだ。
「どうやらシーニ嬢は私の侍女の方が気になるご様子で」
「え、あ、申し訳ございません」
自己紹介はちゃんと面と向かってしたが、それからというもの侍女に目が行き過ぎたようだ。仮にも見合い中に人の侍女をジロジロ見られるのは不愉快と思われたかもしれない。
「公爵のご令嬢様が私めに謝罪などすることはありませんよ。それにこう言ってはなんですが、気持ちはわかります」
「え?」
これには少し驚いた。見合い中に侍女を見つめる気持ちがわかると言う発言に。下手をすればこちらの女の方が見目がよいとばかりの発言ともとれる。いや、今の場合はその通りだけれども。人によっては見合い相手をバカにするような発言と思われ、大変なことになるだろう。
それを聞いていた父をちらりと見ると珍しく父が怒っているように感じた。それをドエース男爵も気づいただろうに気にする様子はない。随分肝が据わっているなと思う。
「男が女装など気になりますよね」
だけどこの発言を聞いたとたん驚いていた私も怒りの声が今にも出そうだった父も固まって侍女を見た。侍女と思われる人も同じように固まって次第に顔を真っ赤にさせる。
「サトル………!」
真っ赤にさせた顔で怒る様子からどうやら趣味でやっているようではなさそうだ。あまりにも似合いすぎて趣味と言われれば納得してしまいそうなのだけど。
声からして確かにまだ声がわりがなく声は高いようだけど、やはりその声は男の声。
どこかで聞いた気はするけど………女装が衝撃的すぎて思い出せない。やっぱり気のせいだろうか。
「彼女………いや、彼は何故、いや、何故彼を連れてきたのかお聞きしても?」
どうやら父は混乱しているようだ。気持ちはわかる。それに繰り返しの人生で女装するような人はいなかった。というかこれだけ似合ってたら気づける自信がない。
「彼は訳ありでね。どうやらシーニ嬢に惚れているようなんだ」
「サトル!いい加減に!」
なんだろう。物凄く彼女が………いや、彼が可哀想に見えてきた。
「これは一応君のお見合いだけど………ふざけてるようなら娘はあげられないよ?」
父は私がこの二人を選ぶと思うんだろうか?いや、最初から私は誰も選ぶ気はないけれど。私は人を破滅にしか導かない罪人なのだから。
「ふざけてるわけじゃありません!僕は本当にシーニ嬢を!」
「ほら、惚れてるんじゃないですか」
「サトル!」
「お父様、私無理です」
「うん、ドエース男爵見合いはなかったことに」
「はい、わかりました」
最初からする気をなかったとばかりに引き下がるのが早い。こちらをバカにしているようには思えないけれど。
「し、シーニ嬢、申し訳ない。どうか、また会うだけでもいいので………」
女装姿の侍女もどきさんが寧ろ必死みたいだ。そんなに私と関わりを持ちたいのだろうか?ドエース男爵とご子息はこの人を私に会わせたかっただけ?
そのためにわざわざ婚約者候補になろうなんて…………随分な変わりものね。
「せめて女装姿を解いてからお願いします」
とりあえずあまりの必死さに思わずそんなことを言っていた。
「解いたら会っても!?」
それを訂正しようとすれば訂正させないとばかりに口を出したのはドエース男爵のご子息。
「ほら、しつこいですよ。許可もらったなら後は後日でも。では、今日はすみませんでした。失礼いたします」
「はぁ………」
気のせいかしてやられた気分だ。一体彼は誰なのだろう?後に私は下手なことを言ったことに驚きと戸惑いと共に後悔するのだった。
「もし嫌な人物なら今後は会わないようとりはかろう。でも私はシーニが幸せになることを祈っているよ」
父は私がいいと思った婚約者ができれば死のうとしなくなると思っているのだろうか?今も昔も変わらず死のうと考えてはいる。けれど行動には移していないのに私はただいるだけで心配させてしまうようだ。
優しい両親から離れようと考えていたのがバレたのだろうか。
「わかりました………。会ってみます」
それ以外に私が言うことはない。普段から私が生きることで迷惑しかかけていないのだ。このまま進めばまた私は破滅しか導かないかもしれない。
父の頼みすら聞けないなんてこと私にはできないのだ。
そして数日後婚約者候補として来たのはサトル・ドエースご子息。まさか男爵家とは思わなかった。ネムーが生まれた今、公爵家の跡継ぎは難しいだろう。
だというのに私なんかを何故?野心はないのだろうか。父からは向こうからお願いをされたと聞いている。
父は心配そうに見て、ドエース男爵は公爵家に萎縮することなく堂々としている。だというのに偉そうには見えず貫禄すらあった。何故男爵なんだろうか?と思うくらいにはもっと貴族の位が高くてもおかしくはないと思えるくらいには。
ドエースご子息もまるで上の相手に慣れているとばかりに静かに笑みを浮かべて余裕さながらだ。けど決してこちらを見下しているわけではない。
なんとも不思議な人たちだった。そしてもうひとり気になる人物はご子息が連れている侍女。彼女はどこか緊張している様子で私を見つめている。
一瞬どうしたのだろうと首を傾げればはっとしたように私から目を逸らしたが。それはいいけど、侍女にしてはあまりに綺麗というかこちらが目を牽かれた。
気のせいかどこかで見たようなそんな気すらしたが、さすがに気のせいだろう。私の知り合いは少ない。
繰り返した人生で会った人物なら寧ろすぐわかるはずだ。
「どうやらシーニ嬢は私の侍女の方が気になるご様子で」
「え、あ、申し訳ございません」
自己紹介はちゃんと面と向かってしたが、それからというもの侍女に目が行き過ぎたようだ。仮にも見合い中に人の侍女をジロジロ見られるのは不愉快と思われたかもしれない。
「公爵のご令嬢様が私めに謝罪などすることはありませんよ。それにこう言ってはなんですが、気持ちはわかります」
「え?」
これには少し驚いた。見合い中に侍女を見つめる気持ちがわかると言う発言に。下手をすればこちらの女の方が見目がよいとばかりの発言ともとれる。いや、今の場合はその通りだけれども。人によっては見合い相手をバカにするような発言と思われ、大変なことになるだろう。
それを聞いていた父をちらりと見ると珍しく父が怒っているように感じた。それをドエース男爵も気づいただろうに気にする様子はない。随分肝が据わっているなと思う。
「男が女装など気になりますよね」
だけどこの発言を聞いたとたん驚いていた私も怒りの声が今にも出そうだった父も固まって侍女を見た。侍女と思われる人も同じように固まって次第に顔を真っ赤にさせる。
「サトル………!」
真っ赤にさせた顔で怒る様子からどうやら趣味でやっているようではなさそうだ。あまりにも似合いすぎて趣味と言われれば納得してしまいそうなのだけど。
声からして確かにまだ声がわりがなく声は高いようだけど、やはりその声は男の声。
どこかで聞いた気はするけど………女装が衝撃的すぎて思い出せない。やっぱり気のせいだろうか。
「彼女………いや、彼は何故、いや、何故彼を連れてきたのかお聞きしても?」
どうやら父は混乱しているようだ。気持ちはわかる。それに繰り返しの人生で女装するような人はいなかった。というかこれだけ似合ってたら気づける自信がない。
「彼は訳ありでね。どうやらシーニ嬢に惚れているようなんだ」
「サトル!いい加減に!」
なんだろう。物凄く彼女が………いや、彼が可哀想に見えてきた。
「これは一応君のお見合いだけど………ふざけてるようなら娘はあげられないよ?」
父は私がこの二人を選ぶと思うんだろうか?いや、最初から私は誰も選ぶ気はないけれど。私は人を破滅にしか導かない罪人なのだから。
「ふざけてるわけじゃありません!僕は本当にシーニ嬢を!」
「ほら、惚れてるんじゃないですか」
「サトル!」
「お父様、私無理です」
「うん、ドエース男爵見合いはなかったことに」
「はい、わかりました」
最初からする気をなかったとばかりに引き下がるのが早い。こちらをバカにしているようには思えないけれど。
「し、シーニ嬢、申し訳ない。どうか、また会うだけでもいいので………」
女装姿の侍女もどきさんが寧ろ必死みたいだ。そんなに私と関わりを持ちたいのだろうか?ドエース男爵とご子息はこの人を私に会わせたかっただけ?
そのためにわざわざ婚約者候補になろうなんて…………随分な変わりものね。
「せめて女装姿を解いてからお願いします」
とりあえずあまりの必死さに思わずそんなことを言っていた。
「解いたら会っても!?」
それを訂正しようとすれば訂正させないとばかりに口を出したのはドエース男爵のご子息。
「ほら、しつこいですよ。許可もらったなら後は後日でも。では、今日はすみませんでした。失礼いたします」
「はぁ………」
気のせいかしてやられた気分だ。一体彼は誰なのだろう?後に私は下手なことを言ったことに驚きと戸惑いと共に後悔するのだった。
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