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新潟
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1週間後。
東京都心の焼け跡に青空が広がっている。銀座に、焼け残った電通銀座ビルがある。
電通銀座ビル内の重役室で、黒い眼鏡をかけた初老の男が、声を出して手紙を読んでいる。机をはさんで、リリィとドナルドが座っている。黒い眼鏡をかけた初老の男が手紙を読み終える。リリィとドナルドを見てニヤッと笑う。
「そうですか。アレは生きとるんですか」
ドナルドが言う。
「はい。ハワイで元気に新聞作ってます。「マリアナ日報」っていう」
黒い眼鏡の男が楽しそうに笑う。
「ははは。アレが勤めとった「新潟日報」のマネだ」
黒い眼鏡の男が立ち上がって、二人を応接セットに誘う。みんな、座る。黒い眼鏡の男、テーブルの上に乗っているタバコをリリィとドナルドにすすめる。二人は微笑で遠慮する。黒い眼鏡の男がタバコに火をつける。うまそうに煙を天井に向かって吐き出す。
「いやー、しかし、生きとったのかー、よかったなぁー」
ドナルドがうなづく。
「はい。よかったです」
黒い眼鏡の男が言う。
「何日か前に戦死公報が届いたんですよ。新潟の方に。だから「新潟日報」に死亡記事出したとこなんですよ。あ!」
次の日。斎場。ポツリ、ポツリと人が入っていく。
白黒写真で笑っている男の遺影。坊さんが目をつぶってお経を読んでいる。どこからか女性の声がする。
「えぇぇ~!!」
坊さんのお経がやむ。坊さんが目を開けて、周りを見る。
小さな部屋に、自分で口を押さえている奥さんがいる。横に座っている黒い眼鏡の男が苦笑しながらたしなめる。
「ダメだよ、おまえ、葬式の最中に大っきい声出しちゃ」
奥さん、自分で苦笑する。
「だって、お義兄さん、ビックリしちゃってー」
お義兄さんが、向かいに座っているドナルドに一礼する。
「いや、だからさ、昨日この方に話を伺ってさ、今日の朝8時の急行に乗ってさ、なるたけ急いできたんだよ。間に合わなかったけどな」
ドナルドがうなづく。
「間に合いませんでしたねぇ」
奥さんが感心する。
「日本語、お上手なんですねぇ」
お義兄さんが言う。
「でな、おまえ、この方がな、ハワイからわざわざ手紙を持ってきてくれたんだよ。今日もな、「そーゆーことなら」っていうことで、公務をお休みして、一緒に来ていただいたんだよ。オレが来るだけじゃ、ウソっぽいからさ。「お義兄さん、ちょっとおかしくなっちゃったのかな?」なーんて思われるのもヤだからさ」
奥さんがドナルドの手を取る。
「もう、ほんとーに、ほんとーに、ありがとうございます」
ドナルドが手を取られれて困っていると、部屋の外から、なるべく静かに叱責するようなオバサンの声が聞こえる。
「ハツさん、ハツさん、あんたいないで、どーすんだよ。喪主のいないお葬式なんて、聞いたことないよ」
ハツさん、オバサンの方を向いて小声で謝る。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ちょっと、緊急の用で、、、」
オバサン、中を覗くとドナルドがいるので、ビックリする。不思議な顔をして、無言で去っていく。奥さんが向き直って、義兄に尋ねる。
「ど、ど、どうしましょう?」
義兄、困る。
「うーん、どうすっかなー。あなた、こんな経験ないの?」
ドナルドは尋ねられて、困る。
「な、ないですよ」
義兄が困る。木魚の音とお経の音が聞こえる。義兄がヒザをたたく。
「しゃーない。このまま最後までやろう」
奥さんがビックリする。
「そうしますか?」
義兄が力強くうなづく。
「うん。しゃーない。手紙はな、あとで渡すから、明日にでもじっくり読め。こちらお忙しいからな、あんまり長居もできないんだよ。今夜の夜行で帰らんといけないから」
ドナルドが謝る。
「すいません」
奥さんが恐縮する。
「いえいえいえ、こちらこそ、すいません。ほんとに、ほんとーに、ありがとうございます」
義兄が言う。
「じゃ、オマエ、席座ってやり過ごせ。あたしはこちらを駅まで送ってくるから」
お葬式の席に奥さんが出てくる。お坊さんのすぐ後ろに座る。席に座っている人々は涙をぬぐっている。遺影が微笑んでいるのを見て、奥さんはこらえきれず、ちょっと笑うが、あわてて真顔に戻る。
二日後。夜の有楽町ビル。食堂で、ドナルドとオーティスが食事をしている。リリィが食事のお盆を持って小走りにやってくる。
「どうだった? どうだった?」
ドナルドが笑いながら、
「もうお葬式始まっちゃってたよ」
リリィがビックリ。
「えぇー! で、どうしたらの?」
ドナルド、やっぱり笑いながら、
「しょーがないから、最後までやったみたい。ボクは帰らなきゃいけないから、最後までいられなかった」
リリィが悔しがる。
「かぁー! 見たかったなぁ。最後までなぁ」
3人が食事を終えて、ビールを飲んでる。リリィがドナルドに尋ねる。
「で、次の休みはどこ行くの?」
ドナルドが答える。
「さっきオーティスから聞いたんだけど、国会が見学できるらしいから、行ってみようよ」
リリィ、不満げ。
「なんだ。誰かを訪問するんじゃないの?」
ドナルドが説明する。
「落語の吉田さんとこ尋ねたいんだけど、小さい子供がいるって言ってったから、クリスマスの前にしようかと思ってさ、、、」
リリィ、感慨深げ。
「そっかー。もうちょっとでクリスマスかぁー。早いねぇ」
東京都心の焼け跡に青空が広がっている。銀座に、焼け残った電通銀座ビルがある。
電通銀座ビル内の重役室で、黒い眼鏡をかけた初老の男が、声を出して手紙を読んでいる。机をはさんで、リリィとドナルドが座っている。黒い眼鏡をかけた初老の男が手紙を読み終える。リリィとドナルドを見てニヤッと笑う。
「そうですか。アレは生きとるんですか」
ドナルドが言う。
「はい。ハワイで元気に新聞作ってます。「マリアナ日報」っていう」
黒い眼鏡の男が楽しそうに笑う。
「ははは。アレが勤めとった「新潟日報」のマネだ」
黒い眼鏡の男が立ち上がって、二人を応接セットに誘う。みんな、座る。黒い眼鏡の男、テーブルの上に乗っているタバコをリリィとドナルドにすすめる。二人は微笑で遠慮する。黒い眼鏡の男がタバコに火をつける。うまそうに煙を天井に向かって吐き出す。
「いやー、しかし、生きとったのかー、よかったなぁー」
ドナルドがうなづく。
「はい。よかったです」
黒い眼鏡の男が言う。
「何日か前に戦死公報が届いたんですよ。新潟の方に。だから「新潟日報」に死亡記事出したとこなんですよ。あ!」
次の日。斎場。ポツリ、ポツリと人が入っていく。
白黒写真で笑っている男の遺影。坊さんが目をつぶってお経を読んでいる。どこからか女性の声がする。
「えぇぇ~!!」
坊さんのお経がやむ。坊さんが目を開けて、周りを見る。
小さな部屋に、自分で口を押さえている奥さんがいる。横に座っている黒い眼鏡の男が苦笑しながらたしなめる。
「ダメだよ、おまえ、葬式の最中に大っきい声出しちゃ」
奥さん、自分で苦笑する。
「だって、お義兄さん、ビックリしちゃってー」
お義兄さんが、向かいに座っているドナルドに一礼する。
「いや、だからさ、昨日この方に話を伺ってさ、今日の朝8時の急行に乗ってさ、なるたけ急いできたんだよ。間に合わなかったけどな」
ドナルドがうなづく。
「間に合いませんでしたねぇ」
奥さんが感心する。
「日本語、お上手なんですねぇ」
お義兄さんが言う。
「でな、おまえ、この方がな、ハワイからわざわざ手紙を持ってきてくれたんだよ。今日もな、「そーゆーことなら」っていうことで、公務をお休みして、一緒に来ていただいたんだよ。オレが来るだけじゃ、ウソっぽいからさ。「お義兄さん、ちょっとおかしくなっちゃったのかな?」なーんて思われるのもヤだからさ」
奥さんがドナルドの手を取る。
「もう、ほんとーに、ほんとーに、ありがとうございます」
ドナルドが手を取られれて困っていると、部屋の外から、なるべく静かに叱責するようなオバサンの声が聞こえる。
「ハツさん、ハツさん、あんたいないで、どーすんだよ。喪主のいないお葬式なんて、聞いたことないよ」
ハツさん、オバサンの方を向いて小声で謝る。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ちょっと、緊急の用で、、、」
オバサン、中を覗くとドナルドがいるので、ビックリする。不思議な顔をして、無言で去っていく。奥さんが向き直って、義兄に尋ねる。
「ど、ど、どうしましょう?」
義兄、困る。
「うーん、どうすっかなー。あなた、こんな経験ないの?」
ドナルドは尋ねられて、困る。
「な、ないですよ」
義兄が困る。木魚の音とお経の音が聞こえる。義兄がヒザをたたく。
「しゃーない。このまま最後までやろう」
奥さんがビックリする。
「そうしますか?」
義兄が力強くうなづく。
「うん。しゃーない。手紙はな、あとで渡すから、明日にでもじっくり読め。こちらお忙しいからな、あんまり長居もできないんだよ。今夜の夜行で帰らんといけないから」
ドナルドが謝る。
「すいません」
奥さんが恐縮する。
「いえいえいえ、こちらこそ、すいません。ほんとに、ほんとーに、ありがとうございます」
義兄が言う。
「じゃ、オマエ、席座ってやり過ごせ。あたしはこちらを駅まで送ってくるから」
お葬式の席に奥さんが出てくる。お坊さんのすぐ後ろに座る。席に座っている人々は涙をぬぐっている。遺影が微笑んでいるのを見て、奥さんはこらえきれず、ちょっと笑うが、あわてて真顔に戻る。
二日後。夜の有楽町ビル。食堂で、ドナルドとオーティスが食事をしている。リリィが食事のお盆を持って小走りにやってくる。
「どうだった? どうだった?」
ドナルドが笑いながら、
「もうお葬式始まっちゃってたよ」
リリィがビックリ。
「えぇー! で、どうしたらの?」
ドナルド、やっぱり笑いながら、
「しょーがないから、最後までやったみたい。ボクは帰らなきゃいけないから、最後までいられなかった」
リリィが悔しがる。
「かぁー! 見たかったなぁ。最後までなぁ」
3人が食事を終えて、ビールを飲んでる。リリィがドナルドに尋ねる。
「で、次の休みはどこ行くの?」
ドナルドが答える。
「さっきオーティスから聞いたんだけど、国会が見学できるらしいから、行ってみようよ」
リリィ、不満げ。
「なんだ。誰かを訪問するんじゃないの?」
ドナルドが説明する。
「落語の吉田さんとこ尋ねたいんだけど、小さい子供がいるって言ってったから、クリスマスの前にしようかと思ってさ、、、」
リリィ、感慨深げ。
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