米国海軍日本語情報将校ドナルド・キーン

ジユウ・ヒロヲカ

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国会議事堂

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 秋の青空に国会議事堂が映えている。国会議事堂の前に畑がある。わりかし色々なものがなっている。オーティスが苦笑する。

「いいのかね? 国の最高機関の敷地で畑なんか作って」

 ドナルドも苦笑。

「それだけ食べ物がないってことなんだろうなぁ」

 少し向こうから、ブロークンな英語が聞こえてくる。畑の向こうから、やせた日本人のおじさんが挨拶している。

「やーい、やーい、どうもごきげんよう。国会を見学するの?」

 おじさんが近寄ってくる。立派な服装だが、ところどころに破れがある。オーティスが挨拶する。

「はい。海兵第三旅団の者です。あなたは通訳の方?」

 やせたおじさんが、大きな笑顔で一礼する。

「はい。オカダです。よろしく」


 4人で国会議事堂に入っていく。

 会議場を見ている4人。リリィが感心する。

「へー。中はキレイなものねー」

 オカダが感心する。

「あなた方、ほんとに日本語お上手だねー」

 リリィが笑う。

「だって、米国海軍がお金かけたもの。オジサンは英語どこで習ったの?」

「横浜のナイトクラブ」

 オーティスが興味深そう。

「へー。戦前から?」

 オカダがうなづく。

「うん。最初はミルクホールに勤めてたんだけど、「ナイトクラブ」ってのが出来るって聞いて移ったんだ。そしたら、外国航路の船長とか、乗客とか、外国人が多くてさ、何となくみんなから英語習ったの」

 リリィも興味深そう。

「へぇー。最先端だったのねぇ」

 オカダが照れる。

「昔はね。でも、英語がブロークンでダメだよ。やっぱ、ちゃんと習った人にはかなわないよ。だから、あなた方のような、ここに見学に来る人から、色々習ってるんだ」

 オーティスが尋ねる。

「へー。失礼だけど、オジサンおいくつ?」

「66」
 オーティスが感心する。

「へぇー。偉いもんだねぇ。そのトシになって」

 オカダ、照れ笑い。

「へへへ。みなさん、ちょっとお茶飲んでいかない?」


 食堂みたいなところでお茶を飲む4人。リリィが尋ねる。

「オカダさんは、戦時中どこにいたの?」

 オカダが苦笑。

「なんだよ。議事堂の歴史とかはいいの?」

 オーティスが笑う。

「そんなのはいいよ。建物見ただけで十分だよ。オジさんのこと教えてよ。戦時中は何してたの?」

 オカダ、困りながら、

「変な人たちだなぁ。うーん、戦時中は横浜の被服廠で軍服作ってたよ。でも、大きな空襲があってさ、女房とはぐれちゃった」

 リリィがビックリ。

「えぇー! 見つかったの?」

 オカダが、あきらかにしんみりとする。

「見つからない。きっと、もう、ダメなんだろうな。行方不明の人、たっくさんいるから」

 リリィがビックリした顔のまま、小さく「えぇーっ!」とつぶやいた。オカダ、お茶を一杯飲む。オーティスが尋ねる。

「お子さんはあるんですか?」

「あるんだか、どーなんだか。娘1人と息子が3人いたんだけど、娘とは空襲ではぐれちゃって、長男はフィリピンで戦死して、あとの2人は中国でどうなってんだか。オレ、一人になっちゃったからさ、先輩がこの仕事紹介してくれたの」

 リリィ、ドナルド、オーティス、揃って悲しそうな顔になる。オカダが3人を見て「あっ」という顔をする。

「違うよ。違う。米軍を恨んでるわけじゃないよ。泣き言を言ったわけじゃないんだ。人生は過酷だけど、今を精いっぱい生きるってことだよ。そしたら、悪いこともあるけど、いいこともあるだろ?」

 オーティスが深くうなづく。

「そうですね。ほんとです。その通りです」

 オカダが苦笑。

「あんた達が変なこと聞くから、余計なこと話しちゃったよ」

 リリィが感心する。

「オカダさん、立派だわー。みんなに知らせとくよ。「議事堂に英語が好きな案内のオジさんがいるから、話にいけ」って」

 オカダ、苦笑で答える。


 議事堂の前の畑の横に4人が立ってる。オカダは議事堂に背を向けて、リリィ、ドナルド、オーティスは議事堂を見るように。リリィが笑顔を向ける。

「じゃぁね。オカダさん。楽しかった。ありがとう」

 ドナルドもオーティスも笑顔を向ける。

「ありがとう」

「ありがとう」

 オカダも笑顔を返す。

「喜んでもらえたら、うれしいよ。ところでさ、、、」

 リリィが「なに?」と聞き返すと、オカダが畑の向こうを指さす。

「あそこに灯籠あるでしょ?」

 リリィ、ドナルド、オーティス、畑の向こうを見る。口をそろえる。

「ある」

 オカダが少し照れながら尋ねる。

「あれさ、英語で何て言うの?」

 リリィ、ドナルド、オーティス、なんとも言えない顔になる。


 夜の有楽町ビル。食堂で、リリィ、ドナルド、オーティス、ビールを飲んでいる。オーティスが感心している。

「あのオジさん、オカダさん、エライもんだなぁ。66になっても単語覚えて、説明うまくできるように努力してんだもんなぁ」

 ドナルドがうなづく。

「ほんとだ。エライもんだ」

 リリィが言う。

「でもさ、奥さんとも娘さんともはぐれちゃったなんて、悲しいね」

 オーティスがうなづく。

「そうだけどさ、そんなこと嘆いてもしょうがないから、前を向けってさ、そこがオカダさんのエライとこだよ」

 リリィがビールを一口飲む。

「まーねー。そうだけどさー、戦争って、ほんっと大変よねー」

 ドナルドがうなづく。

「ほんとだねー。日本が始めた戦争だけど、日本の人がたくさん苦しんでるんだねぇ」

 リリィ、ドナルド、オーティス、少ししみじみして、一斉にビールを飲む。
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