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脱サラ爺さん赤ん坊を拾う
おお、心の友よ! 1
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なんとか洗礼式を終えたラファエロは、新居にミカエルと名付けた赤子を連れ帰りました。
凄腕魔法使いのラファエロにかかえれば、山小屋の一軒や二軒、ちゃちゃっと三分でできあがりです。
まず風魔法で木を伐採して、土魔法で土地を均します。
切った木を温風で乾燥させて切断し、組み立てます。
たったこれだけで手作りロッジの完成です。
――質量の大きい対象に、複数属性の魔法を同時発動という難易度に目をつぶれば、誰でもお手軽に家づくりができるのです。
平屋造りのワンルーム。
匠の技で作られた空間は非常にシンプルでした。
ルームツアーをする必要すらない見通しの良さは、ひとえにラファエロが魔法の匠であって、間取りやらインテリアに関しては素人だからです。
しかし数ヶ月後にはハイハイするであろう赤ん坊を育てることを考えれば、段差が無くて目が届きやすい構造は最適と言えるでしょう。
*
魔法鞄から家具を取り出して設置したラファエロは、最後に大きな鏡を壁に取り付けました。
知り合いが作った魔法の鏡です。
質問したら答えてくれるタイプのものではなく、鏡を介して他人と通話できる通信鏡です。
この世界には埒外の存在とされる魔法使いが四人います。
それぞれを象徴する二つ名を持ち、母国では相応の地位に就いておりました。
そのうちの一人――魔法工学の第一人者として知られるガブリエラは【怠惰】の魔法使いの二つ名を持つドワーフの女性です。
【怠惰】だなんて侮辱のようですが、彼女の場合は「面倒くさい」が発明の動機になっているので、これ以上的確な異名はありません。
ちなみに人々の生活を一変させた通信鏡の開発理由は「手紙を書くのが面倒くさい」「伝書鳩とか伝令なんて時間の無駄」です。
ちなみにラファエロも二つ名持ちの魔法使いだったりします。
*
「やあ、心の友よ! 君から連絡をくれるなんて何十年ぶりだろうか! 空白の時間を埋めるべく熱く語り合いたいところだが、私に頼みがあって連絡したのだろうから、さっそく本題に入ろうじゃないか!」
久しぶりの会話とは思えないほどフレンドリーな男に、ラファエロはたじろぎました。
通信鏡に映る男の名はサリエル。
サラサラの金髪を靡かせるエルフで【神秘】の魔法使いという二つ名持ちです。
「……うむ。話が早くて助かるわい」
「そうだろうとも。答えはもちろんイエスさ!」
「は? まだ何も言っとらんのだが」
用件を告げてもいないのに、快諾されてラファエロは面くらいました。
話が早いどころか、遙か彼方へ飛んでしまっています。一体彼は何を受信したのでしょうか。
「友よ。私と君の間に、無粋な言葉などいらないさっ。最近の単身者は、孤独死を避けるために高齢になると友人と一緒に住むんだろう? つまりやっと私と暮らす気になってくれたんだね! 安心したまえ、責任を持って君を看取ってみせるとも!」
前のめりでプロポーズに応じる彼女のような姿に、ラファエロは苦虫を噛みつぶしたような顔になりました。
「まだ諦めとらんかったんか」
「もちろんさ!」
サリエルに共同生活――同棲とか同居とは絶対に言いたくない――を提案されたのは一度や二度ではありません。
「悪いがそのつもりは毛頭ないわい。今回は別件で頼みたいことがあってのう」
「そうかい! 答えはもちろんイエスだとも! 私にできることなら協力は惜しまないよ!」
「……」
またも内容を聞かずに快諾したサリエルに、ラファエロは呆れ顔になりました。
誰かに助けを求める時、真っ先に思い浮かぶのはサリエルの顔です。彼ならば二つ返事で力になってくれるとラファエロは確信がありました。
無条件に頼れる存在。出会ったときからずっと好意的で、気前の良い男ですが、ラファエロとしては複雑な気持ちです。
何故ならこのエルフは、ラファエロのことを研究対象として見ているからです。
*
サリエルは幼い頃から変わり者でした。
絹糸のような金髪と、夏の空のような明るい碧瞳。痩躯で繊細そうな顔立ちは、典型的なエルフそのものでしたが、彼がエルフらしいのは見た目だけでした。
とにかくエルフという種族は変化を嫌います。
魔人族同様、長命種と呼ばれる寿命の持ち主ですが、故郷の森を出ないで生涯を終えるのが当たり前。
快適、便利さよりも、安心できる環境で心豊かに過ごすことに重きをおいているのです。
しかしサリエルは平和な森での生活に、わずか百二十年程度で飽きてしまいました。
見たことの無い景色、口にしたことの無い食べ物、他の種族、未知の文化……外の世界への興味が抑えられなくなったサリエルは故郷に別れを告げて、世界を放浪しました。
初めは異文化交流に精を出していたサリエルでしたが、文化は種族に紐付いていると気付いてからは、他種族そのものに強く興味を抱くようになりました。
長い寿命のおかげで自らの足で世界の隅々まで見て回ったサリエルは、賢者の町と呼ばれる学術都市に辿り着くと、今までの経験を活かして自然種族学の研究者になりました。
各種族について一通り学び終えると、その枠に当てはまらない特殊個体にサリエルは魅せられました。
そんな折りに、魔法を学ぶために入学した若きラファエロと出会ったのです。
サリエルからすれば運命の出会いであり、ラファエロにとっては腐れ縁の始まりでした。
凄腕魔法使いのラファエロにかかえれば、山小屋の一軒や二軒、ちゃちゃっと三分でできあがりです。
まず風魔法で木を伐採して、土魔法で土地を均します。
切った木を温風で乾燥させて切断し、組み立てます。
たったこれだけで手作りロッジの完成です。
――質量の大きい対象に、複数属性の魔法を同時発動という難易度に目をつぶれば、誰でもお手軽に家づくりができるのです。
平屋造りのワンルーム。
匠の技で作られた空間は非常にシンプルでした。
ルームツアーをする必要すらない見通しの良さは、ひとえにラファエロが魔法の匠であって、間取りやらインテリアに関しては素人だからです。
しかし数ヶ月後にはハイハイするであろう赤ん坊を育てることを考えれば、段差が無くて目が届きやすい構造は最適と言えるでしょう。
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魔法鞄から家具を取り出して設置したラファエロは、最後に大きな鏡を壁に取り付けました。
知り合いが作った魔法の鏡です。
質問したら答えてくれるタイプのものではなく、鏡を介して他人と通話できる通信鏡です。
この世界には埒外の存在とされる魔法使いが四人います。
それぞれを象徴する二つ名を持ち、母国では相応の地位に就いておりました。
そのうちの一人――魔法工学の第一人者として知られるガブリエラは【怠惰】の魔法使いの二つ名を持つドワーフの女性です。
【怠惰】だなんて侮辱のようですが、彼女の場合は「面倒くさい」が発明の動機になっているので、これ以上的確な異名はありません。
ちなみに人々の生活を一変させた通信鏡の開発理由は「手紙を書くのが面倒くさい」「伝書鳩とか伝令なんて時間の無駄」です。
ちなみにラファエロも二つ名持ちの魔法使いだったりします。
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「やあ、心の友よ! 君から連絡をくれるなんて何十年ぶりだろうか! 空白の時間を埋めるべく熱く語り合いたいところだが、私に頼みがあって連絡したのだろうから、さっそく本題に入ろうじゃないか!」
久しぶりの会話とは思えないほどフレンドリーな男に、ラファエロはたじろぎました。
通信鏡に映る男の名はサリエル。
サラサラの金髪を靡かせるエルフで【神秘】の魔法使いという二つ名持ちです。
「……うむ。話が早くて助かるわい」
「そうだろうとも。答えはもちろんイエスさ!」
「は? まだ何も言っとらんのだが」
用件を告げてもいないのに、快諾されてラファエロは面くらいました。
話が早いどころか、遙か彼方へ飛んでしまっています。一体彼は何を受信したのでしょうか。
「友よ。私と君の間に、無粋な言葉などいらないさっ。最近の単身者は、孤独死を避けるために高齢になると友人と一緒に住むんだろう? つまりやっと私と暮らす気になってくれたんだね! 安心したまえ、責任を持って君を看取ってみせるとも!」
前のめりでプロポーズに応じる彼女のような姿に、ラファエロは苦虫を噛みつぶしたような顔になりました。
「まだ諦めとらんかったんか」
「もちろんさ!」
サリエルに共同生活――同棲とか同居とは絶対に言いたくない――を提案されたのは一度や二度ではありません。
「悪いがそのつもりは毛頭ないわい。今回は別件で頼みたいことがあってのう」
「そうかい! 答えはもちろんイエスだとも! 私にできることなら協力は惜しまないよ!」
「……」
またも内容を聞かずに快諾したサリエルに、ラファエロは呆れ顔になりました。
誰かに助けを求める時、真っ先に思い浮かぶのはサリエルの顔です。彼ならば二つ返事で力になってくれるとラファエロは確信がありました。
無条件に頼れる存在。出会ったときからずっと好意的で、気前の良い男ですが、ラファエロとしては複雑な気持ちです。
何故ならこのエルフは、ラファエロのことを研究対象として見ているからです。
*
サリエルは幼い頃から変わり者でした。
絹糸のような金髪と、夏の空のような明るい碧瞳。痩躯で繊細そうな顔立ちは、典型的なエルフそのものでしたが、彼がエルフらしいのは見た目だけでした。
とにかくエルフという種族は変化を嫌います。
魔人族同様、長命種と呼ばれる寿命の持ち主ですが、故郷の森を出ないで生涯を終えるのが当たり前。
快適、便利さよりも、安心できる環境で心豊かに過ごすことに重きをおいているのです。
しかしサリエルは平和な森での生活に、わずか百二十年程度で飽きてしまいました。
見たことの無い景色、口にしたことの無い食べ物、他の種族、未知の文化……外の世界への興味が抑えられなくなったサリエルは故郷に別れを告げて、世界を放浪しました。
初めは異文化交流に精を出していたサリエルでしたが、文化は種族に紐付いていると気付いてからは、他種族そのものに強く興味を抱くようになりました。
長い寿命のおかげで自らの足で世界の隅々まで見て回ったサリエルは、賢者の町と呼ばれる学術都市に辿り着くと、今までの経験を活かして自然種族学の研究者になりました。
各種族について一通り学び終えると、その枠に当てはまらない特殊個体にサリエルは魅せられました。
そんな折りに、魔法を学ぶために入学した若きラファエロと出会ったのです。
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