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少年と悩める大人達
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「ミカエルや。気をつけていくんじゃぞ」
「人食い狼が彷徨いている森に住む祖母の家に、単身でお見舞いに行くわけじゃないんですから、心配無用ですよ」
「何その具体的なシチュエーション!?」
「しかもこの試練、赤い頭巾を装着して挑むらしいです」
「せめて保護色にしてあげて!」
鞄を横がけにした少年は、飄々と答えました。
大荷物になる予定なのでラファエロの魔法鞄を借りましたが、彼の体格に合わせて作られているのでそのままでは持ち手が長すぎます。
ミカエルの身長に合わせて調節しましたが、本体がそれなりに大きいのでいささか不格好です。
「うーむ。もう少し成長してからと思ったが、お前さん用の魔法鞄を買うべきかのう」
「高性能のものほど値が張るんですよね。すぐに背が伸びるでしょうから勿体ないですよ」
すぐに身長が高くなるというのは、半分は願望です。
「でも不便じゃろ。日常遣いで困らない程度の容量のものなら大した額ではないし、近いうちに会合があるからガブリエラに相談するか」
「大きくなってから、うんと性能の良い物を一個買ってもらう方が嬉しいです」
「しかしなぁ」
「今の師匠は無収入でしょう。貯金を崩して生活しているのですから、無駄遣いはダメです。いつ何時急な出費があるかわからないんですから」
金銭感覚がしっかりしているミカエルは釘をさしました。
いざとなったらは働きに出ればいいと思っているのか、ラファエロはどんぶり勘定なところがあります。
「しっかりしとるのう。ではお使いは任せたぞ。余ったお金はお小遣いにして良いからの」
「はい。値切りまくってやります」
「それは止めてあげて」
*
転移魔法を使ったミカエルは、週末に開かれる市場に到着しました。
所狭しとテントが建ち並び、人で賑わっています。
ここで売られているのは、店舗を持たない者の生産物――手芸品、ハンドメイトの石鹸や化粧品、野菜、惣菜です。
特に野菜は農家が直接販売しているので、お店よりも安く買えるのです。
魔法使いの師弟は薬草しか育てていないので、定期的に市場で野菜を購入していました。
「あらミカエル君じゃない。一人で来たの?」
女性の声がして振り向くと、そこには先日出会った三姉妹の長女がいました。
「アンさん、こんにちは。お店出してたんですね」
「これはパウロさんのお店よ。私もちょっとスペースを借りているけどね」
メインは新鮮な野菜ですが、片隅におかれたケーキスタンドには鮮やかな色をした焼き菓子とジャムの入った瓶が飾られています。
手書きの値段表もですが、都会にいた二人のセンスの賜物なのか、他のテントに比べてお洒落な雰囲気です。
「売れ行きが良いのはキャロットケーキと南瓜のスコーンだけど、オススメは渦巻きビーツのクッキーとスティッキオのジャムよ。我ながら自信作なの」
「……売れているのはどれも馴染みがある料理だからでしょうね」
赤紫のクッキーと、ほんのり緑がかった白いジャムは味が想像できないので、冒険心が強い者しか買わないでしょう。
「試食していく?」
アンの言葉に、ミカエルは目を輝かせて頷きました。
味の予想がつかない二品ですが、甘味ならば試すのは吝かではありません。
「パウロさんはどこに行ったんですか?」
「お昼ご飯を買いに行ってくれてるの」
「仲良くされているようで何よりです。その髪型も似合っていますね」
姉妹の中で一番大人しそうな容貌の彼女が、ショートカットを選ぶとは意外ですが違和感がありません。
「そう? ありがとう」
恥ずかしそうに微笑んだアンは、毛先に触れました。
「妹たちに比べると、私って舐められることが多かったの」
「強く言えば従うだろうと考える輩が多かったんですね」
確かに色気のある次女や、可愛らしくも猫のように気まぐれそうな三女に比べると、清楚な長女は従順そうに見えます。
「今の髪型にしたら、そういうのがグッと減ったの。頭だけじゃなくて心まで軽くなった気分よ」
「この辺りで髪の短い女性は少ないので、活動的とか自立心が強い印象を与えるんでしょう。長い髪も素敵でしたけど、今の方が都会的でお洒落だと思います」
「あのね。パウロさんに『どんな風にしたいですか?』って希望を聞かれた時、全然思いつかなくて『舐められないようにしたい』って言ったの。そうしたら、どうしてそう考えたのか、何があったのか親身になって聞いてくれたのよ」
「……」
「『頭の形が綺麗だから、短い髪が似合うと思いますよ』って提案してくれてね。頭の形なんて初めて褒められたから吃驚しちゃった。美容師ならではの観点よね」
「そうですね……」
小匙に乗ったジャムを口に含んだ少年は微妙な顔をしました。
ジャムはさっぱりして美味しいのですが、甘ったるい惚気にどう反応したものか困ります。
「人食い狼が彷徨いている森に住む祖母の家に、単身でお見舞いに行くわけじゃないんですから、心配無用ですよ」
「何その具体的なシチュエーション!?」
「しかもこの試練、赤い頭巾を装着して挑むらしいです」
「せめて保護色にしてあげて!」
鞄を横がけにした少年は、飄々と答えました。
大荷物になる予定なのでラファエロの魔法鞄を借りましたが、彼の体格に合わせて作られているのでそのままでは持ち手が長すぎます。
ミカエルの身長に合わせて調節しましたが、本体がそれなりに大きいのでいささか不格好です。
「うーむ。もう少し成長してからと思ったが、お前さん用の魔法鞄を買うべきかのう」
「高性能のものほど値が張るんですよね。すぐに背が伸びるでしょうから勿体ないですよ」
すぐに身長が高くなるというのは、半分は願望です。
「でも不便じゃろ。日常遣いで困らない程度の容量のものなら大した額ではないし、近いうちに会合があるからガブリエラに相談するか」
「大きくなってから、うんと性能の良い物を一個買ってもらう方が嬉しいです」
「しかしなぁ」
「今の師匠は無収入でしょう。貯金を崩して生活しているのですから、無駄遣いはダメです。いつ何時急な出費があるかわからないんですから」
金銭感覚がしっかりしているミカエルは釘をさしました。
いざとなったらは働きに出ればいいと思っているのか、ラファエロはどんぶり勘定なところがあります。
「しっかりしとるのう。ではお使いは任せたぞ。余ったお金はお小遣いにして良いからの」
「はい。値切りまくってやります」
「それは止めてあげて」
*
転移魔法を使ったミカエルは、週末に開かれる市場に到着しました。
所狭しとテントが建ち並び、人で賑わっています。
ここで売られているのは、店舗を持たない者の生産物――手芸品、ハンドメイトの石鹸や化粧品、野菜、惣菜です。
特に野菜は農家が直接販売しているので、お店よりも安く買えるのです。
魔法使いの師弟は薬草しか育てていないので、定期的に市場で野菜を購入していました。
「あらミカエル君じゃない。一人で来たの?」
女性の声がして振り向くと、そこには先日出会った三姉妹の長女がいました。
「アンさん、こんにちは。お店出してたんですね」
「これはパウロさんのお店よ。私もちょっとスペースを借りているけどね」
メインは新鮮な野菜ですが、片隅におかれたケーキスタンドには鮮やかな色をした焼き菓子とジャムの入った瓶が飾られています。
手書きの値段表もですが、都会にいた二人のセンスの賜物なのか、他のテントに比べてお洒落な雰囲気です。
「売れ行きが良いのはキャロットケーキと南瓜のスコーンだけど、オススメは渦巻きビーツのクッキーとスティッキオのジャムよ。我ながら自信作なの」
「……売れているのはどれも馴染みがある料理だからでしょうね」
赤紫のクッキーと、ほんのり緑がかった白いジャムは味が想像できないので、冒険心が強い者しか買わないでしょう。
「試食していく?」
アンの言葉に、ミカエルは目を輝かせて頷きました。
味の予想がつかない二品ですが、甘味ならば試すのは吝かではありません。
「パウロさんはどこに行ったんですか?」
「お昼ご飯を買いに行ってくれてるの」
「仲良くされているようで何よりです。その髪型も似合っていますね」
姉妹の中で一番大人しそうな容貌の彼女が、ショートカットを選ぶとは意外ですが違和感がありません。
「そう? ありがとう」
恥ずかしそうに微笑んだアンは、毛先に触れました。
「妹たちに比べると、私って舐められることが多かったの」
「強く言えば従うだろうと考える輩が多かったんですね」
確かに色気のある次女や、可愛らしくも猫のように気まぐれそうな三女に比べると、清楚な長女は従順そうに見えます。
「今の髪型にしたら、そういうのがグッと減ったの。頭だけじゃなくて心まで軽くなった気分よ」
「この辺りで髪の短い女性は少ないので、活動的とか自立心が強い印象を与えるんでしょう。長い髪も素敵でしたけど、今の方が都会的でお洒落だと思います」
「あのね。パウロさんに『どんな風にしたいですか?』って希望を聞かれた時、全然思いつかなくて『舐められないようにしたい』って言ったの。そうしたら、どうしてそう考えたのか、何があったのか親身になって聞いてくれたのよ」
「……」
「『頭の形が綺麗だから、短い髪が似合うと思いますよ』って提案してくれてね。頭の形なんて初めて褒められたから吃驚しちゃった。美容師ならではの観点よね」
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小匙に乗ったジャムを口に含んだ少年は微妙な顔をしました。
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