魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~

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姿なき呪い

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「話がまとまったようなので、状況を確認させてください。手紙に書かれていない内容や、手紙を出した後に変わったことはありましたか?」

 なりゆきを見守っていたミカエルですが、ロベルトの同意を得たので、請負人として動き出しました。

「書いたとおりです。急に体調が悪くなるのに、魔法医も医師も健康だと診断する。恨み妬みを持たれやすい職業なので、呪詛の可能性も疑いましたが、鑑定魔法の結果は異常なし。教会で浄化の儀式をしてもらっても状況はかわら――」

 話しているうちに腹が立ってきたのか、苛ついたような口調になっていたロベルトが急に黙り込んだと思うと、ソファに身を沈めました。
 ただ背もたれに体を預けただけでなく、徐々に体が傾き最後には横になってしまいました。

「ロベルト殿? どうしたんじゃ?」

 訝しんだラファエロに、ロベルトは欠伸で応えました。

「早起きして眠気が限界にきたのかのう」
「そんなわけないでしょう。その年齢でボケられると、リアクションに困るのでやめてください。どうみても不自然です」
「一言余計じゃ。これが噂に聞く反抗期かのう」
「ぼくは世界一師匠想いの弟子ですよ。酸素不足や脳の血流が低下した時にも欠伸が出ます。クペルティノ著『家庭の医学。何気ない行動に潜む危険』に書かれていました」

 目を閉じたロベルトは苦しそうに顔を歪めています。汗で額に髪が張り付き、呼吸は正常ですが、脈が速くなっています。

「……この間のお肉屋さんに似ていますね」

 ミカエルはテーブルに置かれていたお茶に砂糖壷の中身をぶちまけると、解けきれずドロドロになった砂糖をスプーンに掬い、ロベルトの口に突っ込みました。
 一口、二口と続けるうちに、ぐったりしていた紳士は回復していきました。



「……うぅ、口の中が甘い。普通のお茶をいただいても?」
「構いませんが、ご自分がどんな状態だったか覚えていますか?」
「急に気持ち悪くなって……ああ、また汗でびっしょりだ。いつもこうなんだ」

 ロベルトはうんざりした表情で、ハンカチで顔を拭きました。

「砂糖で回復したところをみると、低血糖だと思われますが、持病は無いんですよね」
「もちろん! 商人は健康第一だ。徹底的に検査したし、最近は食生活も気を遣っている」
「健康のために飲んでいる薬や、栄養剤はありますか?」
「そういうのは嫌いなので、余計なことはしていない」
「体に合わない薬や、食べ物は?」
「そんなものはない。やはり呪いだろうか?」
「この家に入れた時点で、現在身につけている物および、あなたを標的にした呪いはかけられていません」

 結界が張られているので、呪詛を持ち込もうとしたら弾かれるのです。

「今日食べた物と、何時に食べたかを教えてください」

 現在の時刻は昼前です。
 たとえば日の出頃に朝ご飯を食べて、以降何も口にしていなければ健康体でも低血糖になる可能性は充分にあります。

「出発前――七の鐘が鳴る頃に、パンとサラダとフルーツとヨーグルト。ああ、ハーブティーも飲んだかな。道中に立ち寄った町で、御者と馬を休ませている間に十の鐘が鳴ったな。あの時、私も屋台で果実水と、ホロホロ鳥の串焼きを買って食べたんだ。一本のつもりで一人前を頼んだら、五本も渡されて驚いたよ」

 ぼったくりではなく、この辺りではセット売りが基本です。肉は一口サイズですが、五本あればそれなりに腹が膨れます。

「残さず食べたんですよね」
「御者とは別行動していたし、まさか通りすがりの人間に押しつけるわけにはいかないからな」

 森の中にある小屋に、時刻を知らせる教会の鐘の音は届きません。
 ミカエルが、部屋に置かれている時計を確認すると針は正午を指していました。きっと麓の村では十二の鐘が鳴り響いていることでしょう。

「絶食状態で低血糖になったわけでもなさそうですね」
「低血糖とやらには、頭痛や悪夢も含まれているのか?」
「頭痛はありますが、悪夢はどうでしょう。不安になることがあるらしいので、その影響かもしれませんね」

 口ではそう言ったものの、ミカエルは内心その可能性は低いと考えました。

「家や店に何か仕掛けられている可能性は?」
「否定できませんが、症状が出ているのはロベルトさんだけなんですよね」
「ああ。同居している家族も、店で働いている従業員にも影響はない」
「現場を見ないとなんとも言えませんが、たとえばロベルトさんだけが接触するようなものが呪物になっていたり、ロベルトさんだけが発動条件を満たしている可能性はあると思います」
「なんてことだ……うちの商会は今が正念場なんだ。どうか徹底的に調べてくれ」

 ロベルトに懇願され、師弟はボスコ商会の本拠地がある港町へ向かうことになりました。
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