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第六章 初恋は時空を超えて
理事長のお呼び出し
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「ハナコ・モッリです。お呼び出しを受けてまいりましたわ」
覚悟を決めて、重厚な理事長室のドアをノックした。
理事長のリュシアン様には初めて会うから緊張しちゃう。
王子である山田のおじい様ってことは、それはすなわち前国王ってことで。現役時代は威厳ある王様だったって、そんな話をよく大人たちがしてたっけ。
「待っていたぞ」
ひとりでに開いたドアの奥から、落ち着いた声がした。
何このイケボ!
めちゃくちゃ好みの声なんですけど。
どんなイケオジが待っているのかと、期待しながら部屋に入った。
(ん? 誰もいない?)
見回しても人影はなくて。
その代わり、書斎机の横に飾られたオナガドリみたいな置物が目についた。
高いスタンド式の止まり木にいて、綺麗な尾羽根が長く床まで伸びている。
「まるで本物みたいね。剥製なのかしら……?」
「ひとを勝手に殺すな、失敬な娘だな」
と、鳥がしゃべった!
しかも魅惑のバリトンボイス!
「ご、ごめんなさい。わたくし、置物かと勘違いしてしまって」
「まぁ、いい。我が名はアーサー、リュシアンの使い魔だ。以後忘れるな」
「アーサー……様ですわね」
一応敬語にしてみたけど、対応は間違ってなかったみたい。アーサー、うむってうなずいてるし。
使い魔って気位が高くって、従う相手を選ぶらしい。魔力が強くても誰彼なく使役できるものじゃないんだ。理事長、さすがは元国王って感じだな。
「リュシアンならその転移サークルの向こうにいる。さっさと行くがいい」
広げた片翼の先の床に、魔法陣が描かれていた。
これは転移サークルって言って、決まった場所を行き来する個人用の転移門。
「こちらはどこに通じているのでしょう?」
「何、行けば分かる」
そっけないアーサーの言葉に押されて、サークルの真ん中に立った。
魔法陣の文字が輝いて、眩しさに目をつむる。光の柱が立ち昇るのと同時に、特有の浮遊感に包まれた。
次に目を開けたときは、転移先の魔法陣の上にいて。
さわやかな風が花の香りを運んでくる。見回すと、色とりどりの薔薇の花が揺れていた。
(あれ、ここって……?)
まさかって思ったけど、やっぱり見覚えのある庭園で。
とりあえず理事長を探すしかないか。
「わふん!」
「ビスキュイ!」
茂みから飛び出してきた大きなモップ犬を、とっさに全身で受け止めた。
ビスキュイがいるってことは、やっぱりここってお城なんだな。
ってかビスキュイ、メイク崩れるからあんま顔舐めまわさないでっ。
「なに? ついて来いって言うの?」
スカートのすそをひっぱってくるビスキュイに連れられて、庭の小路を進んだ。
しばらく行くと、夏に招かれたときにお茶したテーブルが見えたんだけど。
その椅子のひとつで、身なりのいい男の人が本を読んでいる。理事長かと思ったら、それはなんと保健医のヨボじいで。
ビスキュイがヨボじい目がけて走って行って、わふんっと大きくひと鳴きした。顔を上げたヨボじいが、わたしに気づいて手招きをしてくる。
「ハナコ嬢、良く来られましたな」
「先生も理事長にお呼ばれになったのですか?」
首をかしげると、ヨボじいは意地悪い感じでふっと笑った。なんだからしくないんですけど。
いつもの白衣じゃないから、そんなふうに感じるのかも?
まぁ、お城に招かれたんじゃ、ちゃんとした格好してないとマズいよね。
「それにしても、理事長はまだいらしてないのですね」
きょろきょろと見回していると、メイドがわたしの分のお茶を運んできた。
「どうぞおかけくださいませ。ハナコ・モッリ公爵令嬢様」
「ありがとう」
お礼を言うとちょっと驚いた顔をされちゃった。
ここは公爵令嬢として、当然とばかりにふんぞり返って座るべきだった?
「ではリュシアン様、ご用がございましたらすぐに参ります」
「うむ、しばらく下がっていなさい」
「仰せのままに」
ヨボじいに礼を取ったメイドを見送って。
ってか、メイドっ。
いまヨボじいに向かってなんつった!?
「先生、もしかしてあなたは……」
「そろそろネタばらしをしても良い頃合いかと思うてな」
イタズラが成功した子供みたいな顔で、ヨボじいはウィンクを飛ばしてくる。
驚きで固まったあと、じわじわと事情がのみ込めてきて。
「もう、先生が理事長でいらしただなんて! リュシアン様も人がお悪いですわ」
いまさら態度を変えるのもおかしい気がして、大きく頬をふくらませた。
リュシアン様もかっかっかと大きな笑い声を立ててくる。
ひとしきり拗ねて見せたあと、わたしは一度立ち上がった。貴族としての所作で礼を取る。
「リュシアン様、改めてご挨拶申し上げます。モッリ公爵家長女、ハナコと申します。知らなかったこととは言え、これまでの無礼の数々をお許しください」
「なに、かしこまらずともよい。騙しておったのはこちらの方ゆえな」
促されてまた椅子に座った。
どっしりと構えているリュシアン様、貫録が全身からあふれ出しててさすが元国王って感じ。
これまでヨボヨボっぷりは全部演技だったんだろうな。
「でもどうして校医をされているのですか……?」
理事長が保健医やってるなんてさ。まして元国王が就くような職ではないんじゃない?
理由が孫の山田が気になってとかだったら、じじバカにもほどがあるんですけど。
「前にも言ったがの、頭と体が働くうちはこの老いぼれも人様の役に立とうと思うてな。それに若者の青春をのぞき見するのは、なかなかに楽しいものよ」
かーっかっかって笑うと、リュシアン様は一転、真面目な顔でじっと見つめてきた。
覚悟を決めて、重厚な理事長室のドアをノックした。
理事長のリュシアン様には初めて会うから緊張しちゃう。
王子である山田のおじい様ってことは、それはすなわち前国王ってことで。現役時代は威厳ある王様だったって、そんな話をよく大人たちがしてたっけ。
「待っていたぞ」
ひとりでに開いたドアの奥から、落ち着いた声がした。
何このイケボ!
めちゃくちゃ好みの声なんですけど。
どんなイケオジが待っているのかと、期待しながら部屋に入った。
(ん? 誰もいない?)
見回しても人影はなくて。
その代わり、書斎机の横に飾られたオナガドリみたいな置物が目についた。
高いスタンド式の止まり木にいて、綺麗な尾羽根が長く床まで伸びている。
「まるで本物みたいね。剥製なのかしら……?」
「ひとを勝手に殺すな、失敬な娘だな」
と、鳥がしゃべった!
しかも魅惑のバリトンボイス!
「ご、ごめんなさい。わたくし、置物かと勘違いしてしまって」
「まぁ、いい。我が名はアーサー、リュシアンの使い魔だ。以後忘れるな」
「アーサー……様ですわね」
一応敬語にしてみたけど、対応は間違ってなかったみたい。アーサー、うむってうなずいてるし。
使い魔って気位が高くって、従う相手を選ぶらしい。魔力が強くても誰彼なく使役できるものじゃないんだ。理事長、さすがは元国王って感じだな。
「リュシアンならその転移サークルの向こうにいる。さっさと行くがいい」
広げた片翼の先の床に、魔法陣が描かれていた。
これは転移サークルって言って、決まった場所を行き来する個人用の転移門。
「こちらはどこに通じているのでしょう?」
「何、行けば分かる」
そっけないアーサーの言葉に押されて、サークルの真ん中に立った。
魔法陣の文字が輝いて、眩しさに目をつむる。光の柱が立ち昇るのと同時に、特有の浮遊感に包まれた。
次に目を開けたときは、転移先の魔法陣の上にいて。
さわやかな風が花の香りを運んでくる。見回すと、色とりどりの薔薇の花が揺れていた。
(あれ、ここって……?)
まさかって思ったけど、やっぱり見覚えのある庭園で。
とりあえず理事長を探すしかないか。
「わふん!」
「ビスキュイ!」
茂みから飛び出してきた大きなモップ犬を、とっさに全身で受け止めた。
ビスキュイがいるってことは、やっぱりここってお城なんだな。
ってかビスキュイ、メイク崩れるからあんま顔舐めまわさないでっ。
「なに? ついて来いって言うの?」
スカートのすそをひっぱってくるビスキュイに連れられて、庭の小路を進んだ。
しばらく行くと、夏に招かれたときにお茶したテーブルが見えたんだけど。
その椅子のひとつで、身なりのいい男の人が本を読んでいる。理事長かと思ったら、それはなんと保健医のヨボじいで。
ビスキュイがヨボじい目がけて走って行って、わふんっと大きくひと鳴きした。顔を上げたヨボじいが、わたしに気づいて手招きをしてくる。
「ハナコ嬢、良く来られましたな」
「先生も理事長にお呼ばれになったのですか?」
首をかしげると、ヨボじいは意地悪い感じでふっと笑った。なんだからしくないんですけど。
いつもの白衣じゃないから、そんなふうに感じるのかも?
まぁ、お城に招かれたんじゃ、ちゃんとした格好してないとマズいよね。
「それにしても、理事長はまだいらしてないのですね」
きょろきょろと見回していると、メイドがわたしの分のお茶を運んできた。
「どうぞおかけくださいませ。ハナコ・モッリ公爵令嬢様」
「ありがとう」
お礼を言うとちょっと驚いた顔をされちゃった。
ここは公爵令嬢として、当然とばかりにふんぞり返って座るべきだった?
「ではリュシアン様、ご用がございましたらすぐに参ります」
「うむ、しばらく下がっていなさい」
「仰せのままに」
ヨボじいに礼を取ったメイドを見送って。
ってか、メイドっ。
いまヨボじいに向かってなんつった!?
「先生、もしかしてあなたは……」
「そろそろネタばらしをしても良い頃合いかと思うてな」
イタズラが成功した子供みたいな顔で、ヨボじいはウィンクを飛ばしてくる。
驚きで固まったあと、じわじわと事情がのみ込めてきて。
「もう、先生が理事長でいらしただなんて! リュシアン様も人がお悪いですわ」
いまさら態度を変えるのもおかしい気がして、大きく頬をふくらませた。
リュシアン様もかっかっかと大きな笑い声を立ててくる。
ひとしきり拗ねて見せたあと、わたしは一度立ち上がった。貴族としての所作で礼を取る。
「リュシアン様、改めてご挨拶申し上げます。モッリ公爵家長女、ハナコと申します。知らなかったこととは言え、これまでの無礼の数々をお許しください」
「なに、かしこまらずともよい。騙しておったのはこちらの方ゆえな」
促されてまた椅子に座った。
どっしりと構えているリュシアン様、貫録が全身からあふれ出しててさすが元国王って感じ。
これまでヨボヨボっぷりは全部演技だったんだろうな。
「でもどうして校医をされているのですか……?」
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