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第六章 初恋は時空を超えて
王子の初恋
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「もうしばらく、この老いぼれの孫自慢につきおうてくれるかの?」
「もちろんですわ」
リュシアン様を味方につけた今、山田からはうまく逃げ切れそうだし。
長話聞くくらいお安いご用だよね。
「身内が言うのもなんなのだが、シュン王子は幼いころから優秀での。帝王学に剣術、馬術から魔法に至るまで、何をやらせても完璧にこなしておった」
膝の上にあごを乗せてきたビスキュイを、リュシアン様はやさしい手つきでなでていく。
元王様の威厳はなくて、ただの近所のおじいちゃんって感じ。
そんなリュシアン様が少し残念そうに息をついた。
「おかげで早々に他人を見下し始めおってな。灸を据えようにもその優秀さから、苦言を呈することもままならん状態じゃった」
「あのシュン様がですか?」
なんか意外。
ほかの生徒にはいつでも物腰柔らかく接してるのに。
「子供のころはひねくれた可愛げのないクソガキでのぅ。何を教えてもすぐにマスターしてしまうゆえ、本人にしてみれば退屈でつまならない日々だったのやもしれん」
懐かしむようにリュシアン様は目を細めてる。その眼差しにはなんだか愛情がこもってて。
救いようのないほど生意気な孫でも、やっぱり可愛くて仕方なかったんだろうな。
「じゃがそんな王子にもとうとう運が巡ってきよってな。あの日のシュンは、まるで雷に打たれたようじゃった」
「まぁ、雷に? よほどのことが起きたのですね。シュン様がお変わりになったくらいですから」
「かーっかっか、まさにその通りじゃ。さもなければ、ハナコ嬢は今ここに座っておらなかったであろうしな」
え? どうしてそこでわたしが出てくるの?
分からないって顔してたら、リュシアン様はイタズラっぽい笑みを向けてきた。
「あれはハナコ嬢がはじめて城にやってきた日のことじゃ」
「わたくしが?」
「ああ、ハナコ嬢に会ったときのシュンの顔といったら……ひと目ぼれとはあれを言うのであろうな。孫が恋に落ちる瞬間を目の当たりにして、わしも驚いてしまったわい」
もしかしてビスキュイの怪我を指摘した日のこと?
ビスキュイの命の恩人扱いされてるけど、あれは認識違いというか、山田が勝手に思い出を美化してるだけなんだよね。
「ビスキュイの怪我の件はシュン様の勘違いで……」
「おお、そんなこともあったな。あの出来事のおかげで、シュンのハナコ嬢への想いはますます募っていったようじゃ」
ますます募って……?
はて? なんだか話がかみ合わないぞ。わたしが初めてお城に行った日の話なんだよね?
ハナコの記憶だと、そのときにはもう王子と面識があったように思うんだけど。
「初めてお城に行く以前に、わたくしシュン様とは何度もお会いしておりますわ。ですからそのお話はリュシアン様のお記憶違いなのでは……?」
「ハナコ嬢はまだ幼かったゆえ、覚えていないのも無理はない。あの日は確かモッリ家の長男坊の五歳の顔見せがあってな。ハナコ嬢も一緒に登城しておったのじゃ」
「ケンタの顔見せで?」
確かにヤーマダ王国では跡取りが五歳になったとき、王様の元に連れて行くっていうしきたりがあるけど。
そのときすでに、わたしは山田と会ってたってこと?
「疲れてしまったのかハナコ嬢はずっとソファに寝かされていてな。主役の長男坊はそっちのけで、シュンはずっとハナコ嬢の顔を覗き込んでおった」
「ご挨拶に伺ったのに、わたくしずっと眠っていたのですか?」
「なに、気にせんでも子供あるあるじゃ。あの日のハナコ嬢はわしの目から見ても天使のような寝顔じゃった」
ふぇっ。
それを見た山田がわたしに一目ぼれしたってわけ?
「それでモッリ公爵が帰る段になったときに、シュンがハナコ嬢だけは置いて行けと言い出しおってな」
は? 置いてけって、わたしはモノじゃないんだから。
「王子として欲しい物は何でも手に入るがゆえに、何に対しても執着することのなかったシュンじゃったが。そのシュンがいつまで経ってもハナコ嬢を放そうとしなくてな」
「シュン様がそんなことを……?」
「あまりのかたくなな態度に、わしらも困り果ててなぁ。挙句にはハナコ嬢は自分のものだから置いていくのは当然だと言い出しおった」
いや、自分のものってなんなん?
ハナコってば悪役令嬢のクセに、そんな早くから山田にロックオンされてたんか。
「しかしそのときわしはピンときての。ハナコ嬢を手に入れたいなら、王族としての責務を全うするのが先だとシュンに理詰めで説得したんじゃ」
「まぁ、わたくしをダシにお使いになったんですのね?」
「かっかっか。効果はてきめんじゃったぞ? 定期的にハナコ嬢に会える機会を設けては、シュンに難解な課題を突きつけてな。ハナコ嬢会いたさに、それはもう死にものぐるいでこなしておった」
「ですが子供のころにお会いしたとき、シュン様はそんなそぶりは何も……」
「求婚するにしても、大人になってからきちんとした手順を踏むよう、口を酸っぱくして言っておいたからの」
その割には学園に入学したら、節操なくグイグイ迫ってきてたけど?
「これまでの努力の褒美タイムと思うて、学園生活は自由に過ごすことを許したのじゃが。結果ハナコ嬢にはすまないことをしてしまったのぅ」
「リュシアン様……」
「シュンには学生としての節度は保つよう言っておいたんじゃがな。若さゆえの衝動を少々甘く見ておったわい」
事情は呑み込めたけど、それはリュシアン様のせいじゃないし。
どう見ても、意味もなくわたしに執着する山田に問題ありって感じじゃない?
「とはいえ、あの日のシュンの行いにはそれなりに理由があっての。だからと言って許されるものではないが、話を聞いた上で結論を出してもらえまいか」
理由はゲームの強制力を振り切るためって知ってるけど。
ユイナにキスしたくなくって舞台から飛び降りたんだから、その段階でオッケーにしとくこともできたよね。何もわたしのファーストキス、奪わなくても済んだんじゃ?
そう思うとさ、山田の言い分聞いたとしても、わたしの意思は変わりっこない。
でも山田と完全に決別できるなら、さっさと話し合いを終わらせた方がいいに決まってる。
(一度未希と作戦会議しないと……)
山田にいいように丸め込まれるのだけは絶対に回避したい。問題は未希が親身に相談に乗ってくれるかなんだけど。
「先ほどの条件は守るゆえ、話し合いに応じてくれるな?」
「はい、リュシアン様」
「というわけだ、シュン」
後ろを振り返ったリュシアン様。うれしそうにビスキュイがしっぽを振って。
そこにいきなり山田が転移魔法で現れた。
すごく緊張した顔で、山田はまっすぐわたしを見つめてくる。
えっ? もしかして、話し合いって今からするのっ!?
「もちろんですわ」
リュシアン様を味方につけた今、山田からはうまく逃げ切れそうだし。
長話聞くくらいお安いご用だよね。
「身内が言うのもなんなのだが、シュン王子は幼いころから優秀での。帝王学に剣術、馬術から魔法に至るまで、何をやらせても完璧にこなしておった」
膝の上にあごを乗せてきたビスキュイを、リュシアン様はやさしい手つきでなでていく。
元王様の威厳はなくて、ただの近所のおじいちゃんって感じ。
そんなリュシアン様が少し残念そうに息をついた。
「おかげで早々に他人を見下し始めおってな。灸を据えようにもその優秀さから、苦言を呈することもままならん状態じゃった」
「あのシュン様がですか?」
なんか意外。
ほかの生徒にはいつでも物腰柔らかく接してるのに。
「子供のころはひねくれた可愛げのないクソガキでのぅ。何を教えてもすぐにマスターしてしまうゆえ、本人にしてみれば退屈でつまならない日々だったのやもしれん」
懐かしむようにリュシアン様は目を細めてる。その眼差しにはなんだか愛情がこもってて。
救いようのないほど生意気な孫でも、やっぱり可愛くて仕方なかったんだろうな。
「じゃがそんな王子にもとうとう運が巡ってきよってな。あの日のシュンは、まるで雷に打たれたようじゃった」
「まぁ、雷に? よほどのことが起きたのですね。シュン様がお変わりになったくらいですから」
「かーっかっか、まさにその通りじゃ。さもなければ、ハナコ嬢は今ここに座っておらなかったであろうしな」
え? どうしてそこでわたしが出てくるの?
分からないって顔してたら、リュシアン様はイタズラっぽい笑みを向けてきた。
「あれはハナコ嬢がはじめて城にやってきた日のことじゃ」
「わたくしが?」
「ああ、ハナコ嬢に会ったときのシュンの顔といったら……ひと目ぼれとはあれを言うのであろうな。孫が恋に落ちる瞬間を目の当たりにして、わしも驚いてしまったわい」
もしかしてビスキュイの怪我を指摘した日のこと?
ビスキュイの命の恩人扱いされてるけど、あれは認識違いというか、山田が勝手に思い出を美化してるだけなんだよね。
「ビスキュイの怪我の件はシュン様の勘違いで……」
「おお、そんなこともあったな。あの出来事のおかげで、シュンのハナコ嬢への想いはますます募っていったようじゃ」
ますます募って……?
はて? なんだか話がかみ合わないぞ。わたしが初めてお城に行った日の話なんだよね?
ハナコの記憶だと、そのときにはもう王子と面識があったように思うんだけど。
「初めてお城に行く以前に、わたくしシュン様とは何度もお会いしておりますわ。ですからそのお話はリュシアン様のお記憶違いなのでは……?」
「ハナコ嬢はまだ幼かったゆえ、覚えていないのも無理はない。あの日は確かモッリ家の長男坊の五歳の顔見せがあってな。ハナコ嬢も一緒に登城しておったのじゃ」
「ケンタの顔見せで?」
確かにヤーマダ王国では跡取りが五歳になったとき、王様の元に連れて行くっていうしきたりがあるけど。
そのときすでに、わたしは山田と会ってたってこと?
「疲れてしまったのかハナコ嬢はずっとソファに寝かされていてな。主役の長男坊はそっちのけで、シュンはずっとハナコ嬢の顔を覗き込んでおった」
「ご挨拶に伺ったのに、わたくしずっと眠っていたのですか?」
「なに、気にせんでも子供あるあるじゃ。あの日のハナコ嬢はわしの目から見ても天使のような寝顔じゃった」
ふぇっ。
それを見た山田がわたしに一目ぼれしたってわけ?
「それでモッリ公爵が帰る段になったときに、シュンがハナコ嬢だけは置いて行けと言い出しおってな」
は? 置いてけって、わたしはモノじゃないんだから。
「王子として欲しい物は何でも手に入るがゆえに、何に対しても執着することのなかったシュンじゃったが。そのシュンがいつまで経ってもハナコ嬢を放そうとしなくてな」
「シュン様がそんなことを……?」
「あまりのかたくなな態度に、わしらも困り果ててなぁ。挙句にはハナコ嬢は自分のものだから置いていくのは当然だと言い出しおった」
いや、自分のものってなんなん?
ハナコってば悪役令嬢のクセに、そんな早くから山田にロックオンされてたんか。
「しかしそのときわしはピンときての。ハナコ嬢を手に入れたいなら、王族としての責務を全うするのが先だとシュンに理詰めで説得したんじゃ」
「まぁ、わたくしをダシにお使いになったんですのね?」
「かっかっか。効果はてきめんじゃったぞ? 定期的にハナコ嬢に会える機会を設けては、シュンに難解な課題を突きつけてな。ハナコ嬢会いたさに、それはもう死にものぐるいでこなしておった」
「ですが子供のころにお会いしたとき、シュン様はそんなそぶりは何も……」
「求婚するにしても、大人になってからきちんとした手順を踏むよう、口を酸っぱくして言っておいたからの」
その割には学園に入学したら、節操なくグイグイ迫ってきてたけど?
「これまでの努力の褒美タイムと思うて、学園生活は自由に過ごすことを許したのじゃが。結果ハナコ嬢にはすまないことをしてしまったのぅ」
「リュシアン様……」
「シュンには学生としての節度は保つよう言っておいたんじゃがな。若さゆえの衝動を少々甘く見ておったわい」
事情は呑み込めたけど、それはリュシアン様のせいじゃないし。
どう見ても、意味もなくわたしに執着する山田に問題ありって感じじゃない?
「とはいえ、あの日のシュンの行いにはそれなりに理由があっての。だからと言って許されるものではないが、話を聞いた上で結論を出してもらえまいか」
理由はゲームの強制力を振り切るためって知ってるけど。
ユイナにキスしたくなくって舞台から飛び降りたんだから、その段階でオッケーにしとくこともできたよね。何もわたしのファーストキス、奪わなくても済んだんじゃ?
そう思うとさ、山田の言い分聞いたとしても、わたしの意思は変わりっこない。
でも山田と完全に決別できるなら、さっさと話し合いを終わらせた方がいいに決まってる。
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