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第七章 いざ、最終決戦

仏の顔も三度まで

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「ハナコ、今から帰るのか? よかったら少し話をしないか? 五分でも十分でもいい」
「そのくらいでした……」

 らって、言い終わる前に手を取られて。
 気づけばもう生徒会室にいた。書類を手にしたダンジュウロウが、めちゃ驚いた顔しているし。

「いきなりいなくなったと思ったら……シュン王子、一体何をなさっているのですか?」
「ハナコと十五分だけ休憩だ」

 座らされたソファの真横に、山田も当たり前のように座ってきて。
 ってか、いつの間にか時間が水増しされてるんですけど。

「ハナコ、転移酔いはしなかったか?」
「はい、特には」
「ならばよかった」

 ん? そういえば山田って、転移魔法で他人は運べないって言ってなかったっけ?
 なのに、一緒にここまで転移してきたよね。

「雪山でハナコを運ぶことができなかっただろう? このままではいかんと思ってな。転移魔法で人を安全に運ぶコツをケンタに指導してもらったのだ」
「まぁ、ケンタに……?」

 王子の立場にもかかわらず、地位も年も下の人間に素直に教えをうなんて。それでなくとも山田は魔力最強とうたわれているし。

(山田って、友達だったら自慢できるレベルなんだよなぁ)

 わたしが好意を受け入れられない以上、山田との関係は卒業で終わりを迎えるんだろうな。
 公爵令嬢としてたまに顔を合わせるくらいはあるかもだけど。

「……シュン様、この手はなんですの?」
「ハナコの白魚しらうおのような手だな」
「そういうことではなく、なぜわたくしの手を握っていらっしゃるのですか?」
「わたしはハナコのこの手が好きなのだ。いつ触っても心地がいいからな」
「このような真似はなさらないとお約束したはずですが?」

 もう約束を反故ほごにしようっていうの?
 リュシアン様に言いつけんぞ、ごるぁ。

「確かに学園祭のときのような真似はしないと誓ったが。手を握るのはそれ以前にも普通にしていただろう?」

 こてんと首を傾けられても、瓶底眼鏡じゃちっとも可愛くないわい。
 でもわたしの真意がまるで伝わってないのはよぉく分かった。増長する前にくぎを刺しとかないと。

「シュン様、よくお聞きになってください。リュシアン様にも申し上げたことですが、シュン様には適切な距離を保っていただきたいのです」
「適切な距離? ハナコの手を握るのは不適切には思えないが……」
「フランク学園において、わたくしとシュン様は学友でございましょう? 意味もなく触れ合うのはおかしいですわ」
「学友ならば別段おかしくはないのではないか?」
「ではシュン様はわたくし以外の者の手もお握りになられますのね? 例えばダンジュウロウ様だとか」

 ぎょっとした顔で山田とダンジュウロウが見つめ合った。
 かと思ったら、ふたりして同時にこっち見てくるし。

「いや、ダンジュウロウの手を握るのはおかしいだろう」
「だとしたら、わたくしの手を握るのもおかしくはございませんか?」
「ダンジュウロウは男だ」
「でしたらわたくし以外の女生徒とも触れ合ってくださらないと。わたくしだけ特別扱いするのはどうかと思いますわ」
「だがハナコ以外の女性に触れるなど……」

 はぁ、とこれ見よがしに大きくため息をついたら。
 はっとした様子の山田、ようやくわたしの言いたいことを理解したみたい。

「そ、そうだな。これからは適切な距離を保つことにしよう」
「そうなさってくださいませ。でないとわたくし、早々に結論を出してしまいそうですわ」

 にっこりと告げると、山田はひきつった笑顔を返してきた。
 言っとくけど、仏の顔も三度までだからね? とりあえず警告イエローカード一枚ってことで。

「あら、もう時間ですわね。わたくし帰らせていただきます」
「ならば馬車まで送ろう。ハナコの身になにかあっては大変だ」
「ご心配には及びませんわ。万が一のときはこれでマサトでも召喚しますから」

 指に挟んだ召喚札をぺらっと掲げる。口ごもった山田を置いて、さっさと生徒会室をあとにした。
 何コレ、爽快。
 上手いことけん制できたって感じだし、今までのストレスが嘘のよう。

 この力関係で卒業まで行けば、勝利は確実なんじゃ。
 なんて思いながら、ルンルン気分で廊下を進んでいたら。

「きゃっ」
「おっと、失礼」

 曲がった廊下で男子生徒と出会いがしらにぶつかった。

「いたっ。ちょっと引っ張らないでっ」

 髪が胸のボタンに絡まってるし。
 だから無理やり引っ張らないでっての!

「いまほどく。少しおとなしくしていろ」

 大きな手で頭を抱き寄せられて。
 なによ、その命令口調。でも髪に触れる手つきは意外にやさしいかも。

「解けないのなら少しくらい切っても構わなくてよ?」
「こんな綺麗な髪をか? バカを言うな」

 本当にバカにしたように鼻で笑われた。
 なんなのこの男、ちょっとムカつくんですけど。

「取れないな……」

 そうつぶやくと、男は大きなリボンの髪留めバレッタをいきなりぱちんと外した。
 勝手に取らないでよ。しかもすごく手慣れてるし。

「この方がセクシーだな」
「なっ」

 楽しそうにわたしの長い髪を両手でほぐしていく。
 やっぱり手慣れた感じだし。こいつ相当の遊び人と見た。

「いい加減、離しなさい!」
「なんだ、こっちは褒めているんだぞ? しかも髪を切らずに済んだんだ。礼のひとつも言えないとは、とんだじゃじゃ馬娘だな」
「なんですって。わたくしを誰だと思って……!」

 ぎりっとにらみ上げようとして、目に飛び込んできたのは青い瞳をした金髪の男で。
 見覚えのあるその顔に、不覚にも大口を開けて固まってしまった。
 だってこの男、もしかして。

「ロレンツォ・リッチ……?」

 ここにきて最後の攻略対象がお出ましとは。
 ってか、めんどう事にならないといいんですけどっ。
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