断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央

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第八章 真実はいつもひとつとは限らない

ハナコ、走る

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 転移した先は野外会場のはしっこだった。
 風の中に硝煙しょうえんの臭いが混じってる。

(この煙、やっぱり演出のスモークじゃない)

 式典は画面で見たよりも混乱してて。
 人の流れが出口の方へと向かってる。係の誘導を無視して、みんな押し合いながら進んでるし。

「ケンタはユイナ探して警備と誘導手伝ってきて」
「この広い会場の中を!? 俺、ユイナがどこ担当とか詳しく聞いてないし」
「そこは愛のパワーでなんとかしなさい!」
「って、姉上はどこに行く気だよ!」
「シュン様のところに決まってるでしょう!」

 人の波をかき分けて、中央目指し進んでいった。
 どぅんっと轟音が鳴り響く。あちこちで悲鳴が湧き上がった。
 爆風に耳を塞いでしゃがみ込みそうになる。そこを何とか踏みとどまって、まだ遠いステージに目を向けた。

「シュン様は……!?」

 人だかりの向こう、周囲に指示を出してる山田が見えた。
 よかった、無事だ。
 でもそのすぐ横には、イタリーノ大使が立っていて。

(これだけの騒ぎなのに、大使のヤツ、やけに落ち着いてない……?)

 もしかして爆破は陽動?
 狙いが山田の命なら、この混乱に乗じてってこともあり得るんじゃ。

 さっきから大使は何度も退避を促されてる。
 なのにそこから離れようとしないみたい。護衛も戸惑ってるように見えるし。

 指示出してる山田が残るのはまだ分かるけど、賓客の立場の大使が避難しようとしないなんて。

(どう考えたって不自然過ぎるじゃない!)

 逃げたくない理由があるのなら、山田の命を狙うチャンスをうかがうためとしか思えない。

 もみくちゃにされながら流れに逆らって進む。
 みんなパニック状態で、どっちの方向に進んでるのかも分からなくなってきた。

「ちょっと、通して!」
「何やってる、あんたも逃げるんだ!」
「離して、わたくしは行かなきゃならないのよ!」
「やめておけ、あっちは危険だ」
「いいから離して!」

 つかまれた腕を振りほどく。
 それでもなかなか前には行けなくて。

 ティッシュ丸めて飛ばしてないで、死ぬ気で転移魔法を極めておけばよかった。
 上手に魔法を扱えてたら、こんな人混みひとっ飛びで抜けられるのに。数センチずれるだけの転移なんて、何の役にも立たないじゃんか。

 山田が撃たれて死んじゃうかもしれない。
 想像するだけで血の気が引いた。
 あの天使の笑顔に二度と会えなくなるんだ。

 取り越し苦労であとから笑われたっていい。だけどゲームシナリオはメチャクチャで、何が起きても不思議じゃない世界線だ。

(なんで進めないの……!)

 ステージはもうそこなのに。
 大使は山田のすぐとなりにいるっていうのに。

 くやしくて涙がにじむ。
 銃声が聞こえたらどうしよう。
 そのときはもう、きっと何もかもが手遅れだ。

 ――こんなところであきらめるの、ハナコ?

 頭の中で誰かの声が響いた。

 ――あなたのプライドはその程度なのかしら?

 いいえ、わたしは由緒ある公爵家に生まれ、貴族として英才教育を受けてきた誇り高き令嬢よ。
 あまりめないでいただきたいわ!

 湧き上がった敵愾心てきがいしんに任せ、踏みしめる足に力を込めた。

「わたくしはハナコ・モッリ! モッリ公爵家の威光に逆らいたくなかったら、今すぐ道をお開けなさい!」

 張り上げた声に、目の前の人だかりがぱっかり割れた。
 背筋を伸ばし、一歩を踏み出す。キッと前を見すえると、人の道はさらに大きく広がった。

「おぉ~い、ハナコぉ? そっちにいるのかぁ?」

 ん? あの声はマサト?
 人の山の向こうでぴょんぴょん跳ねてる頭が見えてるし。

 マサトも進めなくて困ってるっぽい?
 ってか、あんた王子の護衛でしょうが。なんで肝心なときに山田のそばにいないのよ。

(まったく、世話の焼けるっ)

 ポケットを探ってヨレヨレになった短冊を取り出した。

「マサト、召喚っ!」

 かかげた札が輝いて、一瞬でマサトが目の前に現れた。
 この召喚札、持ち歩くのがクセになってたんだよね。我ながらGJグッジョブって感じだし。

「やっぱりハナコか! 今日はイタリーノに行く日じゃなかったのか?」
「シュン様の命が狙われてるのに、のんきに観光なんてしてる場合じゃないでしょう!」
「シュン王子の命が? どういうことだ」
「イタリーノ大使が怪しいのよ。いいからマサトも一緒に来て!」

 いまは説明しているヒマはない。
 マサトのせいでだいぶ時間をロスしちゃったし。

「やっぱイタリーノ大使か。なんか胡散うさん臭いヤツだと思ってたんだ」
「マサトもなの?」
「俺、大使の進言で王子の護衛から外されたんだ。聴衆の多い会場警備に人数をくべきだって」

 なぬ? 大使のヤツ、山田まわりを手薄にする算段までしてたんか。
 これはもうクロ確定でしょ!?

「早くしないとシュン様が危ないわ!」
「おっし、任せとけ! おらぁっ、お前ら命が惜しけりゃそこをどきやがれぇ!」

 それじゃマサトが悪役っぽいぞ? おかげで進みやすくなったからいいんだけども。
 これで大使への嫌疑けんぎが濡れ衣だったら大事オオゴトだな。万が一怒られる事態になったら、一緒に謝ってあげるからね!

 まだステージにいた山田は、報告を聞いてるのか誰かと話をしてる。

(やった、間に合った!)

 周囲に警備兵が立ちはだかっていたけど、マサトは顔パス。
 それに便乗してわたしもステージを駆け上がった。

 山田はこっちにまだ気づいてないみたい。
 横にいた大使は周囲を注意深く見回してる。その手があやしげにふところを探ってて。

 身構えたとき、取り出されたのは黒いハンカチだった。
 ほっとしたのもつかの間、大使の手元が変にキラッと反射した。

(なに……?)

 違和感に目を凝らす。
 大使の手にするハンカチが、なんだか不自然に盛り上がっているように見えて。

 それが拳銃の形なんだって気づくのに、そう時間はかからなかった。
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