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第49話 渇望
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薄暗い森の中、白く浮かぶ魔物たちがロラン目がけて群がってくる。
あれは死霊と呼ばれる魔物の一種だ。
獣型の魔物と違って、彼らは物質的な肉体を持たない。純粋な闇のエネルギー的存在で、これまでの魔物とは強さが桁違いだった。
「はぁああぁあ……!」
一閃一閃無駄のない動きで、ロランは魔物の大群を薙ぎ払っていく。
それでも取りこぼしが出てきてしまう。絶え間なく続く攻撃に、ロランの背中に隙が生じた。
「風の精霊の息吹を……!」
サラの掲げた杖の先から、清浄な光が放射状に広がった。その輝きに飲まれた死霊たちが、咆哮を上げ消し飛んでいく。
本来は大人数に対して使われる最上級の回復魔法だ。闇に属する魔物たちには、薬も毒にしかならないらしい。
「大丈夫ですか、ロラン!?」
「ああ、サラ、助かった」
肩で息をするロランにサラが駆け寄ってくる。そのサラも魔法のかけ通しで相当消耗していた。
魔王城に近づくにつれ、こんな邪悪で凶暴な魔物が大半を占めてきている。それも日夜問わずの猛攻撃だ。
「そろそろ日も沈む頃合いね。これ以上進むのは危険って感じ」
「今日はここらで野営だな」
マーサとフランツも似たり寄ったりの状態で、ふたりの顔には疲労が色濃くにじんでいる。
魔王城はこの森の奥深くにある。その言い伝えを頼りに、一行は道なき道を進み魔物と戦いながら魔王城を目指していた。
当然宿屋など存在するはずもなく、日暮れとともに野宿する日々が長く続いている。食料も行く先々で調達する必要があって、毎日が生きるか死ぬかのサバイバルだ。
サラの張った強固な結界の中で、一行はようやく緊張を解いた。
それでも完全に気を抜くことはできない。殺気立った死霊たちが、まるで回遊魚のように結界の周囲を廻っている。
彼らにとって、深夜は最も力が増す時間帯だ。見張りを立てつつ、交代で順に休息を取っていく。
「ひとまずロランは先に休んでください」
「すまない……サラにばかり負担をかける」
「今ロランに倒れられては困りますから」
闇の存在への攻撃は、白魔法が絶大な威力を誇る。味方への回復・防御魔法のみならず、サラは魔物殲滅のためにも魔法を使っていた。
白魔法の加護は武器にも付与できるため、ロランの聖剣、フランツの槍、マーサのナックルダスターにも魔法がけを行っている。
その上、攻撃と防御の強化魔法と、敵への弱体化魔法まで担当しているサラだ。
さらに休息するためには強固な結界を張る必要がある。サラなしで魔王城へたどり着くことは絶対に不可能だった。
それでも魔物を倒すことだけにフォーカスすると、勇者の聖剣を持つロランの右に出る者はいなかった。メンバーはあくまでロランのサポート役だ。
魔物の巣窟である森の真ん中で、ロランに万が一があったとしたら。
一行はあっけなく全滅の道をたどるに違いない。
アメリがいない今、小さな怪我だとしても積み重なれば命取りとなり得る。そのことはロラン自身が一番良く分かっていた。
一秒でも早く魔王城に辿り着きたいが、そのためには危険を冒すことなく一歩一歩を確実に進むのが最善の道だ。
見上げると、鬱蒼と生い茂る木々の合間から頼りない月明りが差し込んでいる。
「アメリ……」
彼女は今どんな状況に置かれているのだろうか。この腕にいたアメリを奪われた瞬間が脳裏をよぎる。
ヴィルジールに対する憎しみが湧き上がると同時に、己の不甲斐なさに憤りを感じざるを得なかった。
あの温もりを渇望し、叫び出したい衝動が雪崩のごとく押し寄せる。努めて深い呼吸を繰り返し、今宵もロランは自身の精神をなだめにかかった。
逸る気持ちを押さえ、無理やりにでも目をつぶる。
いつでも動けるようにと胸に聖剣を抱え、明日の戦いを無事生き抜くために、ロランは束の間の眠りに落ちた。
あれは死霊と呼ばれる魔物の一種だ。
獣型の魔物と違って、彼らは物質的な肉体を持たない。純粋な闇のエネルギー的存在で、これまでの魔物とは強さが桁違いだった。
「はぁああぁあ……!」
一閃一閃無駄のない動きで、ロランは魔物の大群を薙ぎ払っていく。
それでも取りこぼしが出てきてしまう。絶え間なく続く攻撃に、ロランの背中に隙が生じた。
「風の精霊の息吹を……!」
サラの掲げた杖の先から、清浄な光が放射状に広がった。その輝きに飲まれた死霊たちが、咆哮を上げ消し飛んでいく。
本来は大人数に対して使われる最上級の回復魔法だ。闇に属する魔物たちには、薬も毒にしかならないらしい。
「大丈夫ですか、ロラン!?」
「ああ、サラ、助かった」
肩で息をするロランにサラが駆け寄ってくる。そのサラも魔法のかけ通しで相当消耗していた。
魔王城に近づくにつれ、こんな邪悪で凶暴な魔物が大半を占めてきている。それも日夜問わずの猛攻撃だ。
「そろそろ日も沈む頃合いね。これ以上進むのは危険って感じ」
「今日はここらで野営だな」
マーサとフランツも似たり寄ったりの状態で、ふたりの顔には疲労が色濃くにじんでいる。
魔王城はこの森の奥深くにある。その言い伝えを頼りに、一行は道なき道を進み魔物と戦いながら魔王城を目指していた。
当然宿屋など存在するはずもなく、日暮れとともに野宿する日々が長く続いている。食料も行く先々で調達する必要があって、毎日が生きるか死ぬかのサバイバルだ。
サラの張った強固な結界の中で、一行はようやく緊張を解いた。
それでも完全に気を抜くことはできない。殺気立った死霊たちが、まるで回遊魚のように結界の周囲を廻っている。
彼らにとって、深夜は最も力が増す時間帯だ。見張りを立てつつ、交代で順に休息を取っていく。
「ひとまずロランは先に休んでください」
「すまない……サラにばかり負担をかける」
「今ロランに倒れられては困りますから」
闇の存在への攻撃は、白魔法が絶大な威力を誇る。味方への回復・防御魔法のみならず、サラは魔物殲滅のためにも魔法を使っていた。
白魔法の加護は武器にも付与できるため、ロランの聖剣、フランツの槍、マーサのナックルダスターにも魔法がけを行っている。
その上、攻撃と防御の強化魔法と、敵への弱体化魔法まで担当しているサラだ。
さらに休息するためには強固な結界を張る必要がある。サラなしで魔王城へたどり着くことは絶対に不可能だった。
それでも魔物を倒すことだけにフォーカスすると、勇者の聖剣を持つロランの右に出る者はいなかった。メンバーはあくまでロランのサポート役だ。
魔物の巣窟である森の真ん中で、ロランに万が一があったとしたら。
一行はあっけなく全滅の道をたどるに違いない。
アメリがいない今、小さな怪我だとしても積み重なれば命取りとなり得る。そのことはロラン自身が一番良く分かっていた。
一秒でも早く魔王城に辿り着きたいが、そのためには危険を冒すことなく一歩一歩を確実に進むのが最善の道だ。
見上げると、鬱蒼と生い茂る木々の合間から頼りない月明りが差し込んでいる。
「アメリ……」
彼女は今どんな状況に置かれているのだろうか。この腕にいたアメリを奪われた瞬間が脳裏をよぎる。
ヴィルジールに対する憎しみが湧き上がると同時に、己の不甲斐なさに憤りを感じざるを得なかった。
あの温もりを渇望し、叫び出したい衝動が雪崩のごとく押し寄せる。努めて深い呼吸を繰り返し、今宵もロランは自身の精神をなだめにかかった。
逸る気持ちを押さえ、無理やりにでも目をつぶる。
いつでも動けるようにと胸に聖剣を抱え、明日の戦いを無事生き抜くために、ロランは束の間の眠りに落ちた。
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