我が国最強の魔術師が王女であるわたくしを狙っています!

古堂 素央

文字の大きさ
4 / 8
第一部 家庭教師と教え子編

第4話 年下の婚約者候補

しおりを挟む
 光る模様がユスティーナを取り囲んでいる。
 ここから出たいのに、押し込められたまま動くことも叶わない。

(またあの夢だわ……)

 ユスティーナは繰り返し同じ夢を見る。
 夢の中で夢を見ている自覚のある、そんな不思議な夢だ。
 その夢でユスティーナはいつもそこから抜け出そうと必死になっている。
 これは夢だと分かっているのに、どうしても外に行かなくてはならない衝動にかられた。

(ここはわたくしのいるべき場所じゃない)

 なぜだかそんな気がして――


 たのしげな小鳥のさえずりにユスティーナはまどろみから覚めた。
 ぼんやりとした意識が、いまだ夢の狭間をさまよっている。

「あの模様ってもしかして……」

 ユスティーナを囲う光。あれはシルヴェステルの創る空間でくぐり抜ける模様と同じ形をしていなかっただろうか。
 そんなことを思うも、覚醒と共に次第に夢の記憶が薄れていく。

「ユスティーナ様、お目覚めになられましたか?」
「ええ、今起きたわ」
「本日は有力貴族を招いたお茶会の予定が入っております。お支度もありますのでどうぞ早めにお起きになってください」

 侍女のよそよそしい声がけに、一気に現実に引き戻される。

(だから起きたって言ったじゃない)

 朝から嫌な気分にさせられて、ユスティーナはため息とともに寝台を出た。

「そう言えば何か大事なことを考えていなかったかしら……?」

 しかし何も思い出せない。
 夢を見ていたことも忘れ、慌ただしい一日が始まった。


 *†*


 定期的に開かれるこのお茶会には苦手意識しか持っていない。
 身の置き場がなく、それでも逃げ出すこともできなくて、いつもマリカと取り巻き貴族たちの嘲りの声に耐えなくてはならなかった。

「ユスティーナ様!」
「リュリュ。今日は貴方も来ていたのね」

 笑顔で駆け寄ってきたのはサロ公爵家子息のリュリュだ。
 めずらしくユスティーナに友好的な貴重な存在だった。

「ていうか、今日は俺しかいませんし」
「そうなの?」
「はい、マリカ王女も体調が悪いとかで欠席されるそうですよ」
「そう!」

 マリカはその時の気分でお茶会をドタキャンする癖がある。それが許されるのは、自分とは違って周りに甘やかされているからだ。
 ユスティーナがそんなことをしようものなら、批難ごうごうの嵐になるのは目に見えている。複雑な思いに駆られるも、今回ばかりはラッキーとしか思えなかった。
 しかし浮かれたところを表に出すのは王女としてマズすぎる。
 使用人を通してマリカの耳に届きでもしたら、次の口撃が激化するので厄介だ。

「久しぶりにふたりでゆっくり話せますね。俺うれしいです」

 年下のリュリュとは子供のころはよく顔を合わせて遊んだりもしていた。
 いわば幼馴染というやつだ。
 しかし年頃になって、彼はあまりお茶会にも顔を出さなくなっていた。

「どう? 最近は」
「父はまだまだ現役ですし、今はいろんなことを学ばせてもらってます」
「公爵家の跡取りもたいへんね」

 リュリュは将来立派な公爵になることだろう。
 素直で勉強家の彼のことを、ユスティーナは昔から好ましく思っていた。

(そういえば結婚相手は決まったのかしら)

 リュリュは風属性の強い魔力の持ち主だ。引く手あまたで婚姻を望む者は多いと聞く。
 その中でもいちばんの有力候補はマリカだった。サロ家も王女を妻に迎えられればそんな栄誉なことはないはずだ。
 実のところユスティーナの名も候補として挙がっていたが、公爵家がそれを望むことはあり得ない。

 自分と釣り合う年齢の貴族令息は、ほとんどが婚約を済ませてしまっている。
 ユスティーナの嫁ぎ先は、かなり年上の貴族の後妻くらいしか残っていないのが現状だった。
 それすらも手を挙げる者がいないのだから、もう笑うしかない。
 厄介者の王女。
 大した魔力も持たず、なんの役にも立たない国のお荷物だ。そんな認識からユスティーナは陰でそう呼ばれていた。

「ところでユスティーナ様、今度一緒に王立図書館に行きませんか?」
「王立図書館?」

 ユスティーナが小首をかしげると、リュリュが顔を寄せてくる。
 使用人に聞こえないよう、手を添えて小声で囁いた。

「俺、実はあそこで隠し部屋を見つけたんです」
「隠し部屋を……?」
「随分前からあるのは分かっていたんですが、ようやく扉の解呪に成功しまして。中、見てみたくありません?」
「見たい! わたくし見てみたいわ!」
「ユスティーナ様ならそう言うと思いました」

 悪戯っぽく笑ったリュリュはまだ少年のころの面影が残っている。
 何よりも昔と変わらず接してくれることがうれしくて、ユスティーナは心からの笑顔をリュリュに向けた。

「リュリュ!」
「マリカ王女……」

 息を弾ませたマリカが割り込んでくる。
 楽しかった時間が台無しにされ、一瞬でユスティーナの顔が強張った。

「来てたなら早く言ってくれればよかったのに!」
「いえ、はじめから来ることは分かっていたはずですが……」

 困惑顔のリュリュの腕に、おかまいなしでマリカはしがみついた。
 リュリュを見上げ、甘えた猫なで声を出す。

「リュリュってば、最近は呼んでも来てくれないんだもの。わたくし会えなくて寂しかったわ」
「申し訳ありません。俺も何かと忙しくて……」
「ね、お姉様なんかほっといてあっちに行きましょう?」

 リュリュはマリカのお気に入りだ。
 昔からリュリュがユスティーナを気に掛けるのが面白くないらしい。
 リュリュから見えない位置でマリカに睨みつけられて、ユスティーナは静かに立ち上がった。

「わたくしはもう失礼するわ」

 努めて感情を乗せずに言う。
 悲しいかな、マリカの前ではいつも無気力な王女を演じるしかできないユスティーナだ。

「ユスティーナ様、約束ですよ」

 去り際に、リュリュが小声で口を動かした。マリカには分からないよう、気を使ってくれたようだ。
 思わず漏れた笑みに、気のせいかリュリュの頬がなんだか赤く染まった。

(リュリュのお陰で少し気持ちが楽になったわ)

 もしマリカを妻に迎えても、ずっとそんな彼でいてほしい。
 そう願いながらユスティーナはその場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

政略結婚した夫に殺される夢を見た翌日、裏庭に深い穴が掘られていました

伊織
恋愛
夫に殺される夢を見た。 冷え切った青い瞳で見下ろされ、血に染まった寝室で命を奪われる――あまりにも生々しい悪夢。 夢から覚めたセレナは、政略結婚した騎士団長の夫・ルシアンとの冷えた関係を改めて実感する。 彼は宝石ばかり買う妻を快く思っておらず、セレナもまた、愛のない結婚に期待などしていなかった。 だがその日、夢の中で自分が埋められていたはずの屋敷の裏庭で、 「深い穴を掘るために用意されたようなスコップ」を目にしてしまう。 これは、ただの悪夢なのか。 それとも――現実に起こる未来の予兆なのか。 闇魔法を受け継ぐ公爵令嬢と、彼女を疎む騎士団長。 不穏な夢から始まる、夫婦の物語。 男女の恋愛小説に挑戦しています。 楽しんでいただけたら嬉しいです。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた

宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

処理中です...