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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
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「アンネマリー!」
ジークヴァルトに抱えられたままリーゼロッテが声をかけた。アンネマリーは驚いたようにふたりを見上げ、カイの腕を離れてリーゼロッテに駆け寄った。
「リーゼ、具合でも悪いの?」
「い、いいえ、その足をくじいて……」
異形が怖くてジークヴァルトに運んでもらっているとはさすがに言えず、咄嗟にそう言い訳をする。
ハインリヒはキュプカーに手を引かれ、ようやくその場から立ち上がった。
「とにかくここは危険だ。移動するぞ」
ジークヴァルトが言うと、ハインリヒが冷静さを取り戻すように低い声で返した。
「このまま玉座の間に向かうか? だが、先に彼女たちをどこか安全な場所に移した方がいい」
「ああ、ダーミッシュ嬢の客間が一番安全だ。あそこなら部屋に結界が張ってある。玉座の間よりここから近い」
ハインリヒはそれを聞いて、ちらりとアンネマリーを見た。無知なる者である彼女ですら、異形の影響を受けたのだ。ここに彼女だけ置いていくわけにもいかなかった。
「アンネマリー、事情は後で話す。今は黙ってついてきてくれないか」
ハインリヒにそう言われ、アンネマリーはやはり王城で何かが起きているのだと顔を青ざめさせた。
「カイは彼女を守れ。キュプカーは先ほど言った通りに頼む」
「御意に」と言うと、キュプカーは今度こそ異形の間を抜けて王城の廊下を足早に去っていった。
王城の廊下を一行は進んでいく。ハインリヒを先頭に、その後ろをリーゼロッテを抱えたジークヴァルトが、最後尾にカイとアンネマリーが続いた。
「さっきより増えてないか?」
隣にいるカイのそのつぶやきに、アンネマリーだけが首をかしげた。ハインリヒも、カイもジークヴァルトも、空中で何やら手を動かしながら歩いており、リーゼロッテは時折、小さく悲鳴を上げた。
足が痛むのかとアンネマリーは心配したが、その時に限って、その場にいる者がみな、よくはわからないが同じ何かに対して反応しているようなそぶりを見せる。不思議な光景だったが、緊迫した空気がアンネマリーに質問を許さなかった。
「何なんだよ、一体!」
上を見上げながらカイが突然叫び声をあげたので、隣を歩いていたアンネマリーはびくりと体をふるわせた。同時にリーゼロッテが悲鳴を上げ、ジークヴァルトの舌打ちが重なる。
リーゼロッテは頭を押さえ、パニック状態になっている。その頭に、ジークヴァルトが脱いだ自分の上着をばさりとかぶせた。
ハインリヒが後ろを振り返ると、リーゼロッテの頭上の天井に、異形がわさわさと集まっている姿が見えた。天井の黒い吹き溜まりから崩れかけたその手を伸ばし、リーゼロッテの髪をつかもうとしている。
その光景は、リーゼロッテが狙われていることを如実に現していた。城中の異形という異形が、リーゼロッテに迫っているかの勢いだ。
リーゼロッテの身の安全はジークヴァルトに任せて、ハインリヒは目の前の道を切り開くことに専念した。客間まであと少し。客間の扉の前は、ジークヴァルトの結界のせいか、ぽっかりと異形の姿が見えなかった。
ほうほうの体で一行は客間の中へなだれ込んだ。ほっと息をつく一同を迎えたのは、ぽかんとした様子のエラだった。
あり得ない面子の突然の来訪に、今度はエラがパニックを起こす番であった。
ジークヴァルトに抱えられたままリーゼロッテが声をかけた。アンネマリーは驚いたようにふたりを見上げ、カイの腕を離れてリーゼロッテに駆け寄った。
「リーゼ、具合でも悪いの?」
「い、いいえ、その足をくじいて……」
異形が怖くてジークヴァルトに運んでもらっているとはさすがに言えず、咄嗟にそう言い訳をする。
ハインリヒはキュプカーに手を引かれ、ようやくその場から立ち上がった。
「とにかくここは危険だ。移動するぞ」
ジークヴァルトが言うと、ハインリヒが冷静さを取り戻すように低い声で返した。
「このまま玉座の間に向かうか? だが、先に彼女たちをどこか安全な場所に移した方がいい」
「ああ、ダーミッシュ嬢の客間が一番安全だ。あそこなら部屋に結界が張ってある。玉座の間よりここから近い」
ハインリヒはそれを聞いて、ちらりとアンネマリーを見た。無知なる者である彼女ですら、異形の影響を受けたのだ。ここに彼女だけ置いていくわけにもいかなかった。
「アンネマリー、事情は後で話す。今は黙ってついてきてくれないか」
ハインリヒにそう言われ、アンネマリーはやはり王城で何かが起きているのだと顔を青ざめさせた。
「カイは彼女を守れ。キュプカーは先ほど言った通りに頼む」
「御意に」と言うと、キュプカーは今度こそ異形の間を抜けて王城の廊下を足早に去っていった。
王城の廊下を一行は進んでいく。ハインリヒを先頭に、その後ろをリーゼロッテを抱えたジークヴァルトが、最後尾にカイとアンネマリーが続いた。
「さっきより増えてないか?」
隣にいるカイのそのつぶやきに、アンネマリーだけが首をかしげた。ハインリヒも、カイもジークヴァルトも、空中で何やら手を動かしながら歩いており、リーゼロッテは時折、小さく悲鳴を上げた。
足が痛むのかとアンネマリーは心配したが、その時に限って、その場にいる者がみな、よくはわからないが同じ何かに対して反応しているようなそぶりを見せる。不思議な光景だったが、緊迫した空気がアンネマリーに質問を許さなかった。
「何なんだよ、一体!」
上を見上げながらカイが突然叫び声をあげたので、隣を歩いていたアンネマリーはびくりと体をふるわせた。同時にリーゼロッテが悲鳴を上げ、ジークヴァルトの舌打ちが重なる。
リーゼロッテは頭を押さえ、パニック状態になっている。その頭に、ジークヴァルトが脱いだ自分の上着をばさりとかぶせた。
ハインリヒが後ろを振り返ると、リーゼロッテの頭上の天井に、異形がわさわさと集まっている姿が見えた。天井の黒い吹き溜まりから崩れかけたその手を伸ばし、リーゼロッテの髪をつかもうとしている。
その光景は、リーゼロッテが狙われていることを如実に現していた。城中の異形という異形が、リーゼロッテに迫っているかの勢いだ。
リーゼロッテの身の安全はジークヴァルトに任せて、ハインリヒは目の前の道を切り開くことに専念した。客間まであと少し。客間の扉の前は、ジークヴァルトの結界のせいか、ぽっかりと異形の姿が見えなかった。
ほうほうの体で一行は客間の中へなだれ込んだ。ほっと息をつく一同を迎えたのは、ぽかんとした様子のエラだった。
あり得ない面子の突然の来訪に、今度はエラがパニックを起こす番であった。
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