ふたつ名の令嬢と龍の託宣【全年齢版】

古堂 素央

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第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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『あは、ジークヴァルトがオレに話しかけるのなんて、何年振りだろ?』

「茶化すな」と、ジークヴァルトが言葉を続けようとしたとき、ジークハルトがリーゼロッテを振り返った。

『ねえ、リーゼロッテ。今の状況をどうにかしたい? 君にならできるけど、やってみる?』

 突然の言葉に、リーゼロッテはエメラルドのような目を見開いた。それを、ジークハルトは逆立ちのような格好で覗き込むように見つめた。

「わたくし、やります」と、リーゼロッテはかすれた小さな声で言った。このまま異形の叫びを聞き続けるのはつらすぎる。

『そっか、わかった。でも、それをするにはヴァルトの力が邪魔なんだよね』

 ジークハルトがリーゼロッテの胸元を指さすと、首にかけられたペンダントの石がふわりと浮いた。

「どういうことだ」
 ジークヴァルトが苛立ったように言った。

『おもしろいから黙って見てたけど。でも、もっとおもしろくなりそうだし、ね』

 だから今回は特別だよ、と言って下に降りてきたジークハルトは、今度はリーゼロッテを斜め下からのぞき込んだ。

『そのかわりリーゼロッテ。後でオレのお願い聞いてくれる? この件が落ちついてからでいいからさ』

(ヴァルト様と同じ顔で、満面の笑顔で言わないでほしい)
 至近距離で言われ、リーゼロッテは思わず頬を赤らめてしまう。

「お願い、でございますか? わたくしにできることならばかまいませんが……」
『大丈夫。、できないことだよ』

 そう言って、ジークハルトはうれしそうに笑った。

「それで……異形を浄化するために、わたくしは何をすればいいのですか?」
『簡単だよ。リーゼロッテはただ眠ればいい。ただし、ヴァルトのおりを出てね』

 不安そうに尋ねるリーゼロッテに、ジークハルトは笑みを浮かべたまま言った。

「ジークヴァルト様の檻……?」
『リーゼロッテの守護者は、今のところ眠ってる間にだけその力を発現してる。だからその力を開放すればいいんだけど……』
「わたくしの守護者が? ……眠っている間に、力を?」
『うん、そう。起きてるときは、リーゼロッテと守護者が拒絶し合ってるからね』
「拒絶……? どうして……」
『なんでだろうねー』

 にっこり言うジークハルトはまるで他人事のようだ。

『とにかく、その守護者の力さえ引き出せれば、あの異形たちはまるっと浄化できるよ。だけど今はヴァルトの守り石がその守護者の力の発現を邪魔してる。要するに、リーゼロッテが石を外して眠りにつけば万事解決ってわけだ』

「それが本当だとして、ダーミッシュ嬢の守護者が異形を浄化できる保証はどこにある」

 ジークヴァルトが眉間にしわを寄せた。なにしろ前代未聞の異形の数だ。いくら守護者の力だろうと、力を扱えないリーゼロッテにそれができるのか。

『信用ないな~。ヴァルトだってあの夜、リーゼロッテの力を目の当たりにしたろう?』

 ふわふわ浮きながらジークハルトは大げさに肩をすくめた。

『それに、アレ、みーんなリーゼロッテに引き寄せられて集まってきてるんだよ。限界までたまったその力が魅力的なんだろうね』

 ジークハルトがリーゼロッテの胸元、龍のあざがある場所を指さしながら言った。

「ええ? わたくしが原因なのですか?」
『さっきうっかり小鬼を浄化しちゃったでしょ? あれが引き金で、こうなった、と』

 リーゼロッテは顔を真っ青にした。

『言い換えると、今、城に集まってる異形たちは、リーゼロッテにしか祓えない。どうする? やる? やらない?』

 ジークハルトが問うと、リーゼロッテは寝台から降りて、ふらつく体で立ち上がった。

「わたくし、やります」

 決意のこもったリーゼロッテのその言葉に、ジークヴァルトは知らず目をすがめた。
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