120 / 548
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣
6
しおりを挟む
「あの、ジークヴァルト様」
見上げながら言うと、ジークヴァルトが青い瞳で見下ろしてきた。
「なんだ?」
「ジークヴァルト様は過保護すぎですわ」
よく見ると目の下にクマがあるようにも見える。夜勤明けと言っていたからもしかしたら寝ていないのかもしれない。
「夕べはお眠りになっていないのではないですか?」
リーゼロッテがそう言うと、「問題ない」と言ってジークヴァルトはすいと視線を逸らした。
ジークヴァルトは言いたくないことや都合が悪いことがあると、いつもこうやって顔を逸らす。王城で毎日顔を合わせているうちに、ジークヴァルトは一見鉄面皮に見えて意外とわかりやすいと、リーゼロッテは思うようになっていた。
リーゼロッテは両腕を伸ばしてジークヴァルトに頬を挟み込むように手を添えて、そのままその顔を自分の方に向けさせた。
「ヴァルト様は嘘つきでいらっしゃいますわ」
「オレは嘘は言わん」
「ですが、本当のこともおっしゃいませんでしょう?」
ぷくと頬を膨らませて、リーゼロッテはそっとジークヴァルトの目の下のクマをなぞった。
「あまりご無理をなさらないでくださいませ。いくら王命でも、ジークヴァルト様は職務に律義すぎますわ」
その言葉を聞いて眉間にしわを寄せたジークヴァルトは、リーゼロッテの膨らんだ頬を片手で乱暴にはさみこんだ。リーゼロッテの唇からぷすっと空気がもれる。
「お前が心配することではない」
「ジークヴァルト様は紳士たるものどうあるべきか、もう少しお考えになった方がよろしいですわ」
むにと不細工顔で上向かされ、リーゼロッテはあきれたように言った。
冷静に考えてみれば、ジークヴァルトにしてみたらリーゼロッテは年下の女の子だ。日本で言えば、高校生が中学生を相手にしているようなお年頃である。リーゼロッテの幼児体型をみれば、小学生と言っても通るかもしれない。
そんな相手をジークヴァルトが子供扱いしても、まあ当然と言えば当然だろう。
(わたしは日本での知識もあるし、見た目は子供でも頭脳は大人なのよ)
ここは自分が大人になろう。そう思ったリーゼロッテは、その口元に淑女の笑みをのせた。
「あの、ジークヴァルト様……贈り物もお手紙も、本当にうれしく思っておりますわ。ですが、ヴァルト様がお忙しいのはよくわかっております。ですので、これ以上ご無理をする必要など、どこにもありませんのよ?」
そう言うと、ジークヴァルトはさらに深く眉間にしわを寄せ、ふいとリーゼロッテから視線を逸らした。
「拗ねないでくださいませ」
「拗ねてなどいない」
即答するジークヴァルトがなんだかかわいく思えて、リーゼロッテが口元をほころばせた。それを横目で見たジークヴァルトは、一瞬で無表情に戻ってしまった。
「力は使っていないな?」
ふいにそう言われて、リーゼロッテは「はい、使っておりません」と真顔に戻って言葉を返した。
領地に帰ってきてからは、一度も異形の浄化は行っていない。ジークヴァルトに十五歳になるまでは、力は不用意に使わないよう言われていた。
ジークヴァルトは、自分の目の届かないことろでリーゼロッテが力を使うことが心配なようだ。
(本当に心配性よね。アデライーデ様だっていらっしゃるのに)
リーゼロッテが力を解放しているのは、守り石をつけずに眠る夜だけだった。夢は相変わらずみるのだが、それは夢なのだと今では割り切って気にしないことにした。
すべては十五の誕生日を迎えてからだ。
十五歳になったらリーゼロッテは、ジークヴァルトの公爵家へ赴く手はずになっている。表向きは病気の治療の継続と花嫁修業だったが、リーゼロッテの中では武者修行の旅と位置付けられた。
(カイ様に笑われっぱなしなのも悔しいし)
リーゼロッテは、小鬼くらいはひとりで浄化できるようになりたかったのである。
「誕生日を迎えてもすぐに力は使うな」
守護者であるジークハルトが、リーゼロッテが十五になれば大概の事は解決すると言っていたが、実際はどうなるかわからない。
ジークヴァルトはリーゼロッテの誕生日に領地には来られないと言っていたので、やはり目が届かない時に力を使われるのが嫌なのだろう。
「承知しております。わたくし、公爵家にお伺いするまでは、ひとりで力を使ったりはいたしませんわ」
心配性の保護者を安心させるように、リーゼロッテは淑女の笑みを浮かべて答えた。「ああ」と言うと、ジークヴァルトはその手をリーゼロッテの頭にポンと乗せた。
見上げながら言うと、ジークヴァルトが青い瞳で見下ろしてきた。
「なんだ?」
「ジークヴァルト様は過保護すぎですわ」
よく見ると目の下にクマがあるようにも見える。夜勤明けと言っていたからもしかしたら寝ていないのかもしれない。
「夕べはお眠りになっていないのではないですか?」
リーゼロッテがそう言うと、「問題ない」と言ってジークヴァルトはすいと視線を逸らした。
ジークヴァルトは言いたくないことや都合が悪いことがあると、いつもこうやって顔を逸らす。王城で毎日顔を合わせているうちに、ジークヴァルトは一見鉄面皮に見えて意外とわかりやすいと、リーゼロッテは思うようになっていた。
リーゼロッテは両腕を伸ばしてジークヴァルトに頬を挟み込むように手を添えて、そのままその顔を自分の方に向けさせた。
「ヴァルト様は嘘つきでいらっしゃいますわ」
「オレは嘘は言わん」
「ですが、本当のこともおっしゃいませんでしょう?」
ぷくと頬を膨らませて、リーゼロッテはそっとジークヴァルトの目の下のクマをなぞった。
「あまりご無理をなさらないでくださいませ。いくら王命でも、ジークヴァルト様は職務に律義すぎますわ」
その言葉を聞いて眉間にしわを寄せたジークヴァルトは、リーゼロッテの膨らんだ頬を片手で乱暴にはさみこんだ。リーゼロッテの唇からぷすっと空気がもれる。
「お前が心配することではない」
「ジークヴァルト様は紳士たるものどうあるべきか、もう少しお考えになった方がよろしいですわ」
むにと不細工顔で上向かされ、リーゼロッテはあきれたように言った。
冷静に考えてみれば、ジークヴァルトにしてみたらリーゼロッテは年下の女の子だ。日本で言えば、高校生が中学生を相手にしているようなお年頃である。リーゼロッテの幼児体型をみれば、小学生と言っても通るかもしれない。
そんな相手をジークヴァルトが子供扱いしても、まあ当然と言えば当然だろう。
(わたしは日本での知識もあるし、見た目は子供でも頭脳は大人なのよ)
ここは自分が大人になろう。そう思ったリーゼロッテは、その口元に淑女の笑みをのせた。
「あの、ジークヴァルト様……贈り物もお手紙も、本当にうれしく思っておりますわ。ですが、ヴァルト様がお忙しいのはよくわかっております。ですので、これ以上ご無理をする必要など、どこにもありませんのよ?」
そう言うと、ジークヴァルトはさらに深く眉間にしわを寄せ、ふいとリーゼロッテから視線を逸らした。
「拗ねないでくださいませ」
「拗ねてなどいない」
即答するジークヴァルトがなんだかかわいく思えて、リーゼロッテが口元をほころばせた。それを横目で見たジークヴァルトは、一瞬で無表情に戻ってしまった。
「力は使っていないな?」
ふいにそう言われて、リーゼロッテは「はい、使っておりません」と真顔に戻って言葉を返した。
領地に帰ってきてからは、一度も異形の浄化は行っていない。ジークヴァルトに十五歳になるまでは、力は不用意に使わないよう言われていた。
ジークヴァルトは、自分の目の届かないことろでリーゼロッテが力を使うことが心配なようだ。
(本当に心配性よね。アデライーデ様だっていらっしゃるのに)
リーゼロッテが力を解放しているのは、守り石をつけずに眠る夜だけだった。夢は相変わらずみるのだが、それは夢なのだと今では割り切って気にしないことにした。
すべては十五の誕生日を迎えてからだ。
十五歳になったらリーゼロッテは、ジークヴァルトの公爵家へ赴く手はずになっている。表向きは病気の治療の継続と花嫁修業だったが、リーゼロッテの中では武者修行の旅と位置付けられた。
(カイ様に笑われっぱなしなのも悔しいし)
リーゼロッテは、小鬼くらいはひとりで浄化できるようになりたかったのである。
「誕生日を迎えてもすぐに力は使うな」
守護者であるジークハルトが、リーゼロッテが十五になれば大概の事は解決すると言っていたが、実際はどうなるかわからない。
ジークヴァルトはリーゼロッテの誕生日に領地には来られないと言っていたので、やはり目が届かない時に力を使われるのが嫌なのだろう。
「承知しております。わたくし、公爵家にお伺いするまでは、ひとりで力を使ったりはいたしませんわ」
心配性の保護者を安心させるように、リーゼロッテは淑女の笑みを浮かべて答えた。「ああ」と言うと、ジークヴァルトはその手をリーゼロッテの頭にポンと乗せた。
30
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
変人令息は悪女を憎む
くきの助
恋愛
「ブリジット=バールトン。あなたを愛する事はない。」
ああ、ようやく言えた。
目の前の彼女は14歳にしてこれが二度目の結婚。
こんなあどけない顔をしてとんでもない悪女なのだ。
私もそのことを知った時には腹も立ったものだが、こちらにも利がある結婚だと割り切ることにした。
「当初話した通り2年間の契約婚だ。離婚後は十分な慰謝料も払おう。ただ、白い結婚などと主張されてはこちらも面倒だ。一晩だけ付き合ってもらうよ。」
初夜だというのに腹立たしい気持ちだ。
私だって悪女と知る前は契約なんて結ぶ気はなかった。
政略といえど大事にしようと思っていたんだ。
なのになぜこんな事になったのか。
それは半年ほど前に遡る。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
私の感情が行方不明になったのは、母を亡くした悲しみと別け隔てない婚約者の優しさからだと思っていましたが、ある人の殺意が強かったようです
珠宮さくら
恋愛
ヴィルジ国に生まれたアデライードは、行き交う街の人たちの笑顔を見て元気になるような王女だったが、そんな彼女が笑わなくなったのは、大切な人を亡くしてからだった。
そんな彼女と婚約したのは、この国で将来を有望視されている子息で誰にでも優しくて別け隔てのない人だったのだが、彼の想い人は別にいたのをアデライードは知っていた。
でも、どうにも何もする気が起きずにいた。その原因が、他にちゃんとあったこアデライードが知るまでが大変だった。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる