ふたつ名の令嬢と龍の託宣【全年齢版】

古堂 素央

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第2章 氷の王子と消えた託宣

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 その時、コン、ココココココン、とせわし気に扉が叩かれた。はっと我に返ったふたりは、同時にそちらへと目を向ける。

「お取込み中のところ申し訳ありませんが、時と場合をお考えになっていただけませんか?」

 入り口には呆れたようにカイが立っていた。もつれるように抱きしめ合うふたりに苦笑いを向け、それでもすべてを察したかのように眩しそうに目を細めている。

 慌ててハインリヒは、アンネマリーの手を引きその体を抱き起した。そのまま腕の中に閉じ込める。立ち上がったふたりの姿が託宣の泉に映ると、途端に泉から光があふれ出た。

『ハインリヒアンネマリーブラオエルシュタイン……クラッセン……汝、龍の記憶を継し者……イオを冠する王をただひとり癒す者……イオを冠する王となりルィンの名を受けしこの者栄光と終焉の挟間を見守りし定め……必ずこの地に舞い戻らん』

 アンネマリーの受けた託宣と、ハインリヒの受けた託宣が、乱舞するように浮かんでは消えていく。その光の渦を、寄り添いながらふたりはみつめた。

「アンネマリー……ずっと探していた、わたしだけの託宣の相手……」

 熱く見つめられ、アンネマリーの瞳も次第に潤んでいく。互いの熱に浮されたように、再びその唇に口づけた。

「うぉふぉん、うぉふぉん!」
 カイがわざとらしく咳払いをする。

「王太子殿下が見つからないって、近衛の騎士たちが真っ青になって探し回ってるんですよ! いい加減にして、元気なお姿をみなに示してください」

 再び我に返ったふたりは、くっつけたままだった顔を慌てて離した。だが、離れがたい様子で、アンネマリーが恥ずかしそうにその胸に顔をうずめていく。たまらなくなって、ハインリヒはその柔らかな体をぎゅうと抱きしめた。

「ああもう、いっそアンネマリー嬢を抱き上げて運んでください」

 その妙案にハインリヒは嬉々としてアンネマリーを横抱きに抱え上げた。驚くアンネマリーに微笑んで、大事そうに運んでいく。

「あの、ハインリヒ様、わたくし重いですから……」
「大丈夫、君は羽のように軽いよ」

 歯の浮くようなセリフを大真面目に言うと、ハインリヒはアンネマリーと共に託宣の間を出ていった。その背中をやれやれとカイは笑って見送った。

 何がどうしてそうなったのかは後で詳細を聞けばいいだろう。とりあえずは収まる所へ収まったようだと安堵の息をつく。

(龍は一体何を考えているんだか)
 アンネマリーが託宣の相手なら、初めから隠す必要はなかっただろう。

 開け放たれたままのその扉を振り返り、カイはひとり託宣の間に足を踏み入れた。腹立たしいほど、そこは青龍の気に満ちていた。
 誰もいない部屋の中、託宣の泉の前へと進んでいく。

 母親譲りの灰色の髪が泉に映る。その瞬間、泉から光が放たれた。そこに浮かび上がる文字を、カイは何の感慨もなくただ見つめた。

『カイ・デルプフェルト……汝、星に堕ちる者――ラスの名を受けしこの者、その心のまま多くのいしずえとなりゆく定め……』

 確かめるまでなく、そこに映し出されるのは、自分が知る文言と一言一句変わることはない。
 光の乱舞をじっと見据え、ほどなくしてカイはその場を後にした。

 無人となった託宣の間の扉が静かに閉じていく。穏やかになった泉は、次に姿を映す託宣者を待ちながら、滾々こんこんとその水をその杯にたたえ続けた。

     ◇
 王城の騒ぎも終息を見せて、騒ぎは酔った者の悪ふざけだったと無理やりに片付けられた。
 再開された夜会は通年通り夜通し行われ、夜明けとともに新年を迎える鐘が王城より王都の街に鳴り響く。

 その鐘の音と共に、王太子の婚約が、社交界のみならず国中に広く知れ渡ったのだった。





【次回予告】
 はーい、わたしリーゼロッテ。王子殿下の託宣の相手だと判明したアンネマリーは、そのまま王太子妃教育へと突入です! 星読みの間でイジドーラ王妃の元で過ごすアンネマリーに、王子殿下のご様子がおかしくて!? さあ、淑女のみな様、次回はハインリヒ様いちゃラブ祭り開催ですわよ!
 次回、第2章 氷の王子と消えた託宣 第28話「安寧のとき」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!
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