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第15話 自分のしあわせ
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「奥様、お疲れのご様子ですね。本日は早めに上がられては……?」
「ありがとう、でも大丈夫よ。これだけは今日中に片付けておきたいから」
疲れを隠して無理に笑うと、アンドレアは再び書類に目を落とした。
シュナイダー家に戻ってから、相変わらず領地経営の仕事に明け暮れる毎日だ。
エドガーには何かあったら頼れと言われたが、動向を見張られている状況では連絡を取ることすら難しい。
頻繁にエリーゼに会いに行くわけにもいかなくて、結局のところアンドレアがひとりで対処するしかないのが現状だ。
(対処と言っても打つ手がないのよね。ライラを追い出せたらそれがいちばんいいのだけれど……)
ポールがライラを囲っている事実を、社交界にリークすることも考えた。
しかしそれをやってしまうと、父親のケラー侯爵の信用も同時に失墜することになる。
(そうなったら、ケラー家に嫁いだエリーゼにも迷惑がかかってしまうし)
それだけは絶対に避けたいところだ。
アンドレアもお人好しではない。相手が赤の他人だったら、きっと容赦なく対応できただろう。
敵が身内であることこそが、何よりもアンドレアに苦戦を強いる要因だった。
以前エリーゼに言われたように、ポールとの子ができてしまえば希望が見いだせるかもしれない。
そうは言っても色仕掛けでポールを落とすには、アンドレアの経験値が圧倒的に足りなさ過ぎた。
まずはお前がしあわせになれ。
祖父の言葉がいつまでも頭を離れない。
アンドレアはふと考えた。
自分のしあわせとは何なのだろうかと。
(ポールと子をなすこと? 公爵夫人として執務を続けること? ライラを追い出してプライドを守ること?)
どれも貴族として正しい在り方だ。
だがアンドレア個人の望みとは思えない。
やりがいを感じていた領地経営も、今はストレスの種でしかなくなった。
ポールはライラに甘すぎて、最近では散財の程度が許容範囲を超え始めている。
ライラのように目利きができない貴族は、行商の者にとってはいいカモだ。
先日も大金で安物を掴まされそうになったところを、アンドレアが直前で阻止したばかりだった。
ため息をつきつつ次の書類を手に取った。
どんなに利益を上げたとしても、無駄遣いされるだけならやる気も削がれるというものだ。
そのとき乱暴な足取りでライラが執務室に飛び込んできた。
鬼のような形相で、怒り狂っているのが見て取れる。
「ここは執務室よ。遊びたいなら余所へ行って」
一瞬ちら見して、アンドレアはすぐさま書類に視線を戻した。
遠巻きに見守る使用人たちも困惑顔だ。
執務に携わる者たちは、アンドレアの方がいかに正しいかをよく分かっている。
「ふざけないで! ポールがライラに買ってくれた宝石をお姉様が横取りしたんでしょう!?」
「あんな粗悪品、手に取る価値もないわ。あの行商は出禁にしたからそのつもりでいて」
「そんなこと言って、ライラばっかりポールに可愛がられるものだから、お姉様、ライラに嫉妬しているんでしょう?」
いつもの戯言に、うんざりしてアンドレアはため息をつくしかなかった。
「くだらないことを言ってないで、早く出て行きなさい」
「くだらなくないわ! ライラは我慢して日陰者になってあげてるんじゃない! 欲しいもの全部買ってもらって何が悪いって言うのよ!」
「あなたが好きで日陰者になったのでしょう? ポールへの愛とやらのためにね」
絶句したライラが、言葉にならない何かを言いかける。
さすがに我慢の限界がきて、アンドレアはライラを冷たく睨みつけた。
「聞こえなかったの? 今すぐ出て行きなさい」
分が悪いと思ったのか、ライラは若干たじろいだ。
かと思えば、顔を真っ赤にして子供のように地団駄を踏みだした。
「なによ、なによ、なによ! ライラのこと馬鹿にしてっ。今に見てなさい! 絶対に後悔させてやるんだから!」
来た時と同じように、ライラは乱暴に部屋を飛び出して行く。
(まるで悪役の台詞ね……)
その場にいた誰もが思ったことを、アンドレアは胸中で呟いた。
少しやり過ぎたかと後悔するも、胸がすいたのも確かだった。
ライラの嫌がらせはどれも子供じみている。愛され自慢をされたとして、鬱陶しいと思う程度のことだ。
このときはアンドレアも、ライラの捨て台詞をあまり気にはしていなかった。
それがすぐに後悔に変わるとは、夢にも思わないアンドレアだった。
「ありがとう、でも大丈夫よ。これだけは今日中に片付けておきたいから」
疲れを隠して無理に笑うと、アンドレアは再び書類に目を落とした。
シュナイダー家に戻ってから、相変わらず領地経営の仕事に明け暮れる毎日だ。
エドガーには何かあったら頼れと言われたが、動向を見張られている状況では連絡を取ることすら難しい。
頻繁にエリーゼに会いに行くわけにもいかなくて、結局のところアンドレアがひとりで対処するしかないのが現状だ。
(対処と言っても打つ手がないのよね。ライラを追い出せたらそれがいちばんいいのだけれど……)
ポールがライラを囲っている事実を、社交界にリークすることも考えた。
しかしそれをやってしまうと、父親のケラー侯爵の信用も同時に失墜することになる。
(そうなったら、ケラー家に嫁いだエリーゼにも迷惑がかかってしまうし)
それだけは絶対に避けたいところだ。
アンドレアもお人好しではない。相手が赤の他人だったら、きっと容赦なく対応できただろう。
敵が身内であることこそが、何よりもアンドレアに苦戦を強いる要因だった。
以前エリーゼに言われたように、ポールとの子ができてしまえば希望が見いだせるかもしれない。
そうは言っても色仕掛けでポールを落とすには、アンドレアの経験値が圧倒的に足りなさ過ぎた。
まずはお前がしあわせになれ。
祖父の言葉がいつまでも頭を離れない。
アンドレアはふと考えた。
自分のしあわせとは何なのだろうかと。
(ポールと子をなすこと? 公爵夫人として執務を続けること? ライラを追い出してプライドを守ること?)
どれも貴族として正しい在り方だ。
だがアンドレア個人の望みとは思えない。
やりがいを感じていた領地経営も、今はストレスの種でしかなくなった。
ポールはライラに甘すぎて、最近では散財の程度が許容範囲を超え始めている。
ライラのように目利きができない貴族は、行商の者にとってはいいカモだ。
先日も大金で安物を掴まされそうになったところを、アンドレアが直前で阻止したばかりだった。
ため息をつきつつ次の書類を手に取った。
どんなに利益を上げたとしても、無駄遣いされるだけならやる気も削がれるというものだ。
そのとき乱暴な足取りでライラが執務室に飛び込んできた。
鬼のような形相で、怒り狂っているのが見て取れる。
「ここは執務室よ。遊びたいなら余所へ行って」
一瞬ちら見して、アンドレアはすぐさま書類に視線を戻した。
遠巻きに見守る使用人たちも困惑顔だ。
執務に携わる者たちは、アンドレアの方がいかに正しいかをよく分かっている。
「ふざけないで! ポールがライラに買ってくれた宝石をお姉様が横取りしたんでしょう!?」
「あんな粗悪品、手に取る価値もないわ。あの行商は出禁にしたからそのつもりでいて」
「そんなこと言って、ライラばっかりポールに可愛がられるものだから、お姉様、ライラに嫉妬しているんでしょう?」
いつもの戯言に、うんざりしてアンドレアはため息をつくしかなかった。
「くだらないことを言ってないで、早く出て行きなさい」
「くだらなくないわ! ライラは我慢して日陰者になってあげてるんじゃない! 欲しいもの全部買ってもらって何が悪いって言うのよ!」
「あなたが好きで日陰者になったのでしょう? ポールへの愛とやらのためにね」
絶句したライラが、言葉にならない何かを言いかける。
さすがに我慢の限界がきて、アンドレアはライラを冷たく睨みつけた。
「聞こえなかったの? 今すぐ出て行きなさい」
分が悪いと思ったのか、ライラは若干たじろいだ。
かと思えば、顔を真っ赤にして子供のように地団駄を踏みだした。
「なによ、なによ、なによ! ライラのこと馬鹿にしてっ。今に見てなさい! 絶対に後悔させてやるんだから!」
来た時と同じように、ライラは乱暴に部屋を飛び出して行く。
(まるで悪役の台詞ね……)
その場にいた誰もが思ったことを、アンドレアは胸中で呟いた。
少しやり過ぎたかと後悔するも、胸がすいたのも確かだった。
ライラの嫌がらせはどれも子供じみている。愛され自慢をされたとして、鬱陶しいと思う程度のことだ。
このときはアンドレアも、ライラの捨て台詞をあまり気にはしていなかった。
それがすぐに後悔に変わるとは、夢にも思わないアンドレアだった。
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