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馴れ初め編 2
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レッスン終わりには、必ず智ちゃんが飯に誘ってくれた。
「棗くん、僕の行きつけの店行かない?」
智ちゃんは、食べる事も飲む事も大好きな人。だから、色んなお店を知っている。殆どが僕の苦手な居酒屋だったけれど、居酒屋特有の雰囲気が智ちゃんの雰囲気とマッチしていて、僕は不思議と居心地が良かった。
「君は余り食べないし、お酒は全く飲まない。仕事の為もあるんだろうけど、辛くならないかい?」
生ビールをグイッと飲み干した智ちゃんは、真顔で僕にそう聞いてきた。
僕はすぐ返事が出来なくて……
ハイブランドのモデルもやっているから、仕事だから仕方ないと、僕はとうの昔に食に関心が無くなっていた。
「うーん……そうですね。辛くは無いかな。もう当たり前になっちゃってて。それに減量するのキツイから、だったら普段から、余り食わない方がいいかなって」
「あぁ、そうか。そうだよね……こういう店嫌だったかな、やっぱり」
苦笑いする智ちゃん。
「そんな事、全然ないない!気にしないで下さいよ。茂田井さん、食うのも飲むのも好きでしょ。それ見てるの好きだから、僕」
これは本当。美味しそうに飯を食う人が好きなんだよね。
智ちゃんは、何でも美味しそうに食べる。清々しい食いっぷり。それは今でも変わらない。
唐突に智ちゃんが、
「俺さぁ、高校の時、進路が中々決まらなくてね。大学行ってもいいけど、目指すものが無いのに、大学行くのは違うんじゃないか、ってさ」
智ちゃんの昔話は凄く長い。というか基本的に話が長い。
「その時担任に、茂田井は良い声してるよな、って言われてさ。全然気付かなかったんだけど、どうもクラスメイトもそう思っていたらしくてね。だからさ、アナウンサーになろうと思ってさ」
「アナウンサー?じゃぁ大学行ったんですね」
「行ってないよ」
「は?」
「そういうスクールに行ったんだよ。授業料も安いし」
また生ビールをグイッと飲み干す智ちゃん。
「アナウンサーって、大卒じゃないとダメだと思ってました」
「うん、結局なれなくて。ルックスも、こんなんだしね。何だかんだで、気付いたら声優になっちゃったね」
「何ですかそれ。呑気ですか」
僕のツッコミに「はははぁ」と笑う智ちゃん。彼は微塵も見せないようにしているんだろうけど、話の端々に凄い苦労を感じた。今だから笑って話せるんだろうけど、当時はとても辛かっただろうし、智ちゃんの事だから物凄く努力したんだろうな。
それにルックスって……智ちゃんは確かに見た目が純日本人だ。身長もギリギリ百七十センチメートルだし。切れ長な目と高すぎない鼻に薄い唇。何処にでも居るようなアラフォー、かもしれない。でも、凄い僕のタイプだ。もっと自信を持って欲しい。
「棗くんは高校生の時から、この業界に居るんだろ。ポ〇リのCM、よく覚えてるよ。それからずっと第一線で活躍してて、来年は大河ドラマの主役。努力もしてるんだろうけど、運も強いんだろうね、君は」
その時の僕の正直な気持ちは……
『運……もしそうなら、こんな事に使いたくない』
だから「そうですかねぇ」としか返せなかった。
「にしても、俺たちってさ、運命の出会いだよね」
急に智ちゃんがサラッと言ったもんだから、僕はドキッとしちゃって。
「だってそうだろ?吹き替えの仕事が棗くんに来なかったら、俺たち今でも出会ってないだろうから」
「そう……かもしれませんね」
「だろ?人生って面白いね」
智ちゃんの言葉に僕はドキドキしっぱなしだった。智ちゃんと仕事抜きで会う度、僕はどんどん智ちゃんに惹かれて行ってしまって。
男なのに何でだ?
僕は男の……
しかもオジサンに……
恋しちゃったのか?
ないない……
そんな訳ない……
疲れてんだ……
働き過ぎだ……
でも……
「棗くん、どうした?顔赤いけど、もしかして具合悪いのか?そういうのは早く言えってば。タクシー呼ぼうか?」
もう!そんな、優しい瞳で僕を見つめながら、イケボで言わないで!
「棗くん、僕の行きつけの店行かない?」
智ちゃんは、食べる事も飲む事も大好きな人。だから、色んなお店を知っている。殆どが僕の苦手な居酒屋だったけれど、居酒屋特有の雰囲気が智ちゃんの雰囲気とマッチしていて、僕は不思議と居心地が良かった。
「君は余り食べないし、お酒は全く飲まない。仕事の為もあるんだろうけど、辛くならないかい?」
生ビールをグイッと飲み干した智ちゃんは、真顔で僕にそう聞いてきた。
僕はすぐ返事が出来なくて……
ハイブランドのモデルもやっているから、仕事だから仕方ないと、僕はとうの昔に食に関心が無くなっていた。
「うーん……そうですね。辛くは無いかな。もう当たり前になっちゃってて。それに減量するのキツイから、だったら普段から、余り食わない方がいいかなって」
「あぁ、そうか。そうだよね……こういう店嫌だったかな、やっぱり」
苦笑いする智ちゃん。
「そんな事、全然ないない!気にしないで下さいよ。茂田井さん、食うのも飲むのも好きでしょ。それ見てるの好きだから、僕」
これは本当。美味しそうに飯を食う人が好きなんだよね。
智ちゃんは、何でも美味しそうに食べる。清々しい食いっぷり。それは今でも変わらない。
唐突に智ちゃんが、
「俺さぁ、高校の時、進路が中々決まらなくてね。大学行ってもいいけど、目指すものが無いのに、大学行くのは違うんじゃないか、ってさ」
智ちゃんの昔話は凄く長い。というか基本的に話が長い。
「その時担任に、茂田井は良い声してるよな、って言われてさ。全然気付かなかったんだけど、どうもクラスメイトもそう思っていたらしくてね。だからさ、アナウンサーになろうと思ってさ」
「アナウンサー?じゃぁ大学行ったんですね」
「行ってないよ」
「は?」
「そういうスクールに行ったんだよ。授業料も安いし」
また生ビールをグイッと飲み干す智ちゃん。
「アナウンサーって、大卒じゃないとダメだと思ってました」
「うん、結局なれなくて。ルックスも、こんなんだしね。何だかんだで、気付いたら声優になっちゃったね」
「何ですかそれ。呑気ですか」
僕のツッコミに「はははぁ」と笑う智ちゃん。彼は微塵も見せないようにしているんだろうけど、話の端々に凄い苦労を感じた。今だから笑って話せるんだろうけど、当時はとても辛かっただろうし、智ちゃんの事だから物凄く努力したんだろうな。
それにルックスって……智ちゃんは確かに見た目が純日本人だ。身長もギリギリ百七十センチメートルだし。切れ長な目と高すぎない鼻に薄い唇。何処にでも居るようなアラフォー、かもしれない。でも、凄い僕のタイプだ。もっと自信を持って欲しい。
「棗くんは高校生の時から、この業界に居るんだろ。ポ〇リのCM、よく覚えてるよ。それからずっと第一線で活躍してて、来年は大河ドラマの主役。努力もしてるんだろうけど、運も強いんだろうね、君は」
その時の僕の正直な気持ちは……
『運……もしそうなら、こんな事に使いたくない』
だから「そうですかねぇ」としか返せなかった。
「にしても、俺たちってさ、運命の出会いだよね」
急に智ちゃんがサラッと言ったもんだから、僕はドキッとしちゃって。
「だってそうだろ?吹き替えの仕事が棗くんに来なかったら、俺たち今でも出会ってないだろうから」
「そう……かもしれませんね」
「だろ?人生って面白いね」
智ちゃんの言葉に僕はドキドキしっぱなしだった。智ちゃんと仕事抜きで会う度、僕はどんどん智ちゃんに惹かれて行ってしまって。
男なのに何でだ?
僕は男の……
しかもオジサンに……
恋しちゃったのか?
ないない……
そんな訳ない……
疲れてんだ……
働き過ぎだ……
でも……
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もう!そんな、優しい瞳で僕を見つめながら、イケボで言わないで!
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