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馴れ初め編 5
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あの後――
一睡もしないで、仕事に向かったのは覚えている。
大河ドラマの撮影中だったから、移動も多かったしロケも多かった。番宣の為のテレビ出演も多かったし、とにかく忙しくて……
智ちゃんの事は、なるべく考えないようにしていた。でもそれは全くもって無理な話で……
僕は智ちゃんに酷い事をした。智ちゃんの人生を狂わせてしまうような事をした。僕は最低の人間だ。
でも僕はそう猛省しながら、あの日の智ちゃんとのキスを思い出しては、自分のペニスを扱いて抜いていた。
智ちゃんに扱いてもらっているのを想像したり、智ちゃんのイケボでエロい言葉を耳元で囁かれて、とか想像したり。
「茂田井さん……きもちぃよ……茂田井さん……イク……」
『最低だ……』
抜いた後、いつも自己嫌悪に陥っていた。
そんな忙しい日々が、数ヶ月続いた仕事帰り。いつものように、佐々木に送って貰っていた。
「明日、明後日オフになったから」と唐突に佐々木が言った。
「え?」
「ゆっくり休め」
「オフ?休み?」
「そうだよ。しっかり眠って、しっかり疲れを取れ。そうじゃないと、大河ドラマの撮影は乗り切れないぞ。お前は主役なんだ」
主役……
映画・ドラマ・演劇などの主人公を演じる役、またはそれを演じる人。物語の中心としてストーリーが展開し、観客や視聴者に強い印象を与える役割を担う人。
つまり、スポットライトが常に当たっている人。
別になりたくて、なった訳じゃない。気付いたら、主役をやるようになっていただけ。
やるからには先輩俳優捕まえてアドバイスだけじゃなくて、僕の演技のダメ出しを、あえて言ってもらったりしていた。
その為に、大嫌いな飲みの席にもついて行った。
『ナメられたくない……』
そういう変なプライドを持っていた。
「佐々木、ここで降ろして」
「あ?何言ってんだ。もう深夜だぞ。ダメだ」
「日付変わってるでしょ。オフに何しようが口出さない約束したよね」
渋々、佐々木が車を停めた。
僕は車を降りて、車が走り去るまで佐々木に手を振った。付いて来られたく無かったから。
車が見えなくなって、やっと『ここ何処状態』なのに気付いた。多分……新宿?かな……んー、降りる場所間違えたかも。そう思いながら、歩き出したのを覚えている。
大河ドラマの主役の話が来た時は、正直震えた。役者をやっていて、初めてガッツポーズした。心の中でだけれども。
『僕だってルックスだけじゃない。真剣に取り組んでるんだ。自分なりに努力してるんだ』
何度もこの業界辞めようと思った。本当にキツくて、心が張り裂けそうになる時も多々あった。でも、自分で選んだ道でもあるし、やりたくなくなったから辞める、なんて自分が許せなくなるから。
『僕は頑張ってる。一生懸命やってる』
「……つめくん」
『真剣に役者やってんだ』
「……なつ…くん」
『真面目に努力して頑張ってんだ』
「棗くん!」
突然肩を掴まれ呼び止められ、振り返る。
「棗くん、何してるんだ?」
智ちゃんだった。
「棗くん……こんな時間にフラフラ歩いて危ないだろ!」
「え?茂田井さん?」
久し振りに聞いた、僕の好きなイケボ。やっぱり心地いい優しい声──
「兎に角、乗りなよ」
智ちゃんが指差す方を見ると、スポーツタイプの車が停まっていた。
「棗くん、早く乗りなって」
智ちゃんの車。助手席に乗る。狭い空間に智ちゃんと二人きり。
久しぶりに智ちゃんに会ったのと、あの日の事を思い出して、まともに智ちゃんを見られなくて、自分を落ち着かせるために車窓から東京タワーを一生懸命探していた。
ビルの合間から東京タワーが見えてホッとした。車が走り出して五分は経っていたかな。チラッと横目で運転席を見た。智ちゃんは黙って運転している。薄ぐらい車内。等間隔で過ぎていく街灯に照らされる智ちゃん。カッコよくて、触れたい衝動を抑えるのに必死だった。
「茂田井さん、どこに向かってんの?」
普通を装って、僕が話し掛けてみた。
「君の家、何処か知らないから、俺のマンションに向かってる」
「……ふーん……」
智ちゃんの家、か。
その時今更ながら、智ちゃんは独り身なのか?家族がいるのか?と思った。
あんな事をして数ヶ月も経ってるのに、今更。本当に今更だよね……
自己嫌悪に陥っている間に、マンションの駐車場に車が停まった。智ちゃんが降りたから、僕も降りる。智ちゃんが、さっさとマンションのエントランスに向かうから、僕もついて行く。智ちゃんがエレベーターに乗るから……
「乗れよ」
智ちゃんが真顔で低めのイケボでそう言うから、僕は慌ててエレベーターに乗った。
一睡もしないで、仕事に向かったのは覚えている。
大河ドラマの撮影中だったから、移動も多かったしロケも多かった。番宣の為のテレビ出演も多かったし、とにかく忙しくて……
智ちゃんの事は、なるべく考えないようにしていた。でもそれは全くもって無理な話で……
僕は智ちゃんに酷い事をした。智ちゃんの人生を狂わせてしまうような事をした。僕は最低の人間だ。
でも僕はそう猛省しながら、あの日の智ちゃんとのキスを思い出しては、自分のペニスを扱いて抜いていた。
智ちゃんに扱いてもらっているのを想像したり、智ちゃんのイケボでエロい言葉を耳元で囁かれて、とか想像したり。
「茂田井さん……きもちぃよ……茂田井さん……イク……」
『最低だ……』
抜いた後、いつも自己嫌悪に陥っていた。
そんな忙しい日々が、数ヶ月続いた仕事帰り。いつものように、佐々木に送って貰っていた。
「明日、明後日オフになったから」と唐突に佐々木が言った。
「え?」
「ゆっくり休め」
「オフ?休み?」
「そうだよ。しっかり眠って、しっかり疲れを取れ。そうじゃないと、大河ドラマの撮影は乗り切れないぞ。お前は主役なんだ」
主役……
映画・ドラマ・演劇などの主人公を演じる役、またはそれを演じる人。物語の中心としてストーリーが展開し、観客や視聴者に強い印象を与える役割を担う人。
つまり、スポットライトが常に当たっている人。
別になりたくて、なった訳じゃない。気付いたら、主役をやるようになっていただけ。
やるからには先輩俳優捕まえてアドバイスだけじゃなくて、僕の演技のダメ出しを、あえて言ってもらったりしていた。
その為に、大嫌いな飲みの席にもついて行った。
『ナメられたくない……』
そういう変なプライドを持っていた。
「佐々木、ここで降ろして」
「あ?何言ってんだ。もう深夜だぞ。ダメだ」
「日付変わってるでしょ。オフに何しようが口出さない約束したよね」
渋々、佐々木が車を停めた。
僕は車を降りて、車が走り去るまで佐々木に手を振った。付いて来られたく無かったから。
車が見えなくなって、やっと『ここ何処状態』なのに気付いた。多分……新宿?かな……んー、降りる場所間違えたかも。そう思いながら、歩き出したのを覚えている。
大河ドラマの主役の話が来た時は、正直震えた。役者をやっていて、初めてガッツポーズした。心の中でだけれども。
『僕だってルックスだけじゃない。真剣に取り組んでるんだ。自分なりに努力してるんだ』
何度もこの業界辞めようと思った。本当にキツくて、心が張り裂けそうになる時も多々あった。でも、自分で選んだ道でもあるし、やりたくなくなったから辞める、なんて自分が許せなくなるから。
『僕は頑張ってる。一生懸命やってる』
「……つめくん」
『真剣に役者やってんだ』
「……なつ…くん」
『真面目に努力して頑張ってんだ』
「棗くん!」
突然肩を掴まれ呼び止められ、振り返る。
「棗くん、何してるんだ?」
智ちゃんだった。
「棗くん……こんな時間にフラフラ歩いて危ないだろ!」
「え?茂田井さん?」
久し振りに聞いた、僕の好きなイケボ。やっぱり心地いい優しい声──
「兎に角、乗りなよ」
智ちゃんが指差す方を見ると、スポーツタイプの車が停まっていた。
「棗くん、早く乗りなって」
智ちゃんの車。助手席に乗る。狭い空間に智ちゃんと二人きり。
久しぶりに智ちゃんに会ったのと、あの日の事を思い出して、まともに智ちゃんを見られなくて、自分を落ち着かせるために車窓から東京タワーを一生懸命探していた。
ビルの合間から東京タワーが見えてホッとした。車が走り出して五分は経っていたかな。チラッと横目で運転席を見た。智ちゃんは黙って運転している。薄ぐらい車内。等間隔で過ぎていく街灯に照らされる智ちゃん。カッコよくて、触れたい衝動を抑えるのに必死だった。
「茂田井さん、どこに向かってんの?」
普通を装って、僕が話し掛けてみた。
「君の家、何処か知らないから、俺のマンションに向かってる」
「……ふーん……」
智ちゃんの家、か。
その時今更ながら、智ちゃんは独り身なのか?家族がいるのか?と思った。
あんな事をして数ヶ月も経ってるのに、今更。本当に今更だよね……
自己嫌悪に陥っている間に、マンションの駐車場に車が停まった。智ちゃんが降りたから、僕も降りる。智ちゃんが、さっさとマンションのエントランスに向かうから、僕もついて行く。智ちゃんがエレベーターに乗るから……
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