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恋人編 7
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ハイブランドのモデルをやっていると言うと、皆驚くし、大半が知らなかった、とも言う。当たり前の反応。僕はショーに出る訳でもなく、単にファッション雑誌のたった一ページの広告の専属モデルだった。その年のコンセプトによっては背中を向けている時もあるし、顔が写らない時もある。でも誇りをもってやっていた。
「マサキ、ご無沙汰じゃない」
社長のダイアナが声を掛けてきた。
「ダイ、元気そうだね」
僕は彼女をハグしながら挨拶する。
撮影は必ずイタリアにある会長の自宅の敷地内で行われていた。会長はダイアナの母親。撮影場所はダイアナの実家でもある。
この仕事を始めたきっかけは、ダイアナの双子の妹、マリアと僕が付き合っていた時の話で……
19歳の時、モデルの仕事を本場で学びたくて単身渡伊した。
その時シェアハウスをしていたんだけど、その一人がマリアだった。僕より五コ上の綺麗な女性だった。言葉も儘ならない僕を世話してくれたのも彼女。若かったのもあるし恋仲になるのはあっという間だった。
その時は彼女がハイブランドの一族の人だとは知らなかった。
「私はあのブランドの事務をしているだけよ」と言う彼女の言葉を信じていた。
付き合い出して半年位経った時、彼女に、
「うちの会社でモデルを探してるんだけど、オーディション受けてみない?」と言われて、撮影現場に行ったのが、ここだった。まぁ、彼女の実家でもあるんだけど……
ただ裸で立たされて、何枚か写真を撮った。
シャッター音の合間に聞こえてきた言葉は、
「探してたモデルの体型ではあるけれど……」
「アジア人?」
「顔を写さなければ……」
と、まぁネガティブな言葉が多かった。
マリアは僕の後ろで、
「我慢して……」とか、「この仕事は絶対貴方が適任なのよ」と僕を励ましていた。
オーディションの一週間後、正式に専属となった。仕事の内容は、雑誌広告のモデル。条件は『撮影は年二回。スケジュールは絶対守る事』と『決められた体型を維持すること』。僕は太りにくい体質だったから、大して厳しい条件ではなかった。
あれから12年……
「本当に辞めたいの?」
物思いにふけっている僕にダイアナが聞いてきた。
「そうだよ。今回で最後。新しいモデルがやっと見つかったって聞いてホッとしたよ」
僕がそう言うと、ダイアナは寂しそうな顔をした。
「それに君のママも、やっと僕と関係が切れて嬉しいんじゃない?」
「マサキ!ママはそんな事思ってないわよ……」
会長が僕を避けているのは事実だった……
マリアは、僕を空港に迎えに行く途中で、事故に遭い亡くなった。まただ、と思った。僕が愛する人は必ずこうなる、と。
「娘が貴方を迎えに行かなければ……」と会長に言われた。
その通りだ。僕を迎えに来なければ、彼女は今も元気に生きていたと思う。
「あの時のママは気が動転していただけよ」
ダイアナはそう言うけれど、マリアが亡くなってから僕の撮影がある時は、会長は必ずイタリアには居なかった。
今回の撮影も順調に進んでいた。これで最後のモデルの仕事になるけれど。寂しくなかった。もう食べる事にストレスを感じなくていいし、全身のスキンケアに神経使わなくてもいいし……
「マサキ、お疲れ様!」
カメラマンが僕に言う。
終わった。また一つ鎧を脱げる。
シャワーを浴びた後、癖でエイジングケアをしようとしてしまった。
「今日はしなくてもいいか」
僕はスキンケアを何もしないで服を着て、頼んでいたタクシーで帰ろうとした。
「マサキ、本当にもう帰るの?」
ダイアナが言う。
僕の為にパーティーを開きたいと言われたけど、丁重に断った。
「気持ちだけで十分」
「でも……あの部屋だけは覗いて行ってあげてよね」
あの部屋……
マリアの部屋……
彼女が亡くなってから入った事がない。僕は区切りを付けるため、マリアの部屋に入る事にした。
初めてこの部屋に入った時……マリアが一族の孫だと知って喧嘩したっけ。
『マリア……君を忘れた事は無かったよ。君なら今の僕を理解してくれるよね。都合いいかな?僕、心から愛する人が出来たんだよ』
今すぐ智ちゃんに会いたかった。智ちゃんに抱きしめて欲しかった。智ちゃんの声が聞きたい。何故だか涙が止まらなくて……
ふっとマリアがつけていた香水の匂いがして、優しく僕を誰かが抱き締めてくれた。
「マサキ、お疲れ様。長い間うちのブランドの為にありがとう。私はずっと前から貴方を許していたの。伝えなくてごめんなさい。だから、もうここには来ない、なんて思わないでちょうだい」
会長だった。
僕は本当の意味で解放されて、会長を抱き締め泣いた。
「マサキ、ご無沙汰じゃない」
社長のダイアナが声を掛けてきた。
「ダイ、元気そうだね」
僕は彼女をハグしながら挨拶する。
撮影は必ずイタリアにある会長の自宅の敷地内で行われていた。会長はダイアナの母親。撮影場所はダイアナの実家でもある。
この仕事を始めたきっかけは、ダイアナの双子の妹、マリアと僕が付き合っていた時の話で……
19歳の時、モデルの仕事を本場で学びたくて単身渡伊した。
その時シェアハウスをしていたんだけど、その一人がマリアだった。僕より五コ上の綺麗な女性だった。言葉も儘ならない僕を世話してくれたのも彼女。若かったのもあるし恋仲になるのはあっという間だった。
その時は彼女がハイブランドの一族の人だとは知らなかった。
「私はあのブランドの事務をしているだけよ」と言う彼女の言葉を信じていた。
付き合い出して半年位経った時、彼女に、
「うちの会社でモデルを探してるんだけど、オーディション受けてみない?」と言われて、撮影現場に行ったのが、ここだった。まぁ、彼女の実家でもあるんだけど……
ただ裸で立たされて、何枚か写真を撮った。
シャッター音の合間に聞こえてきた言葉は、
「探してたモデルの体型ではあるけれど……」
「アジア人?」
「顔を写さなければ……」
と、まぁネガティブな言葉が多かった。
マリアは僕の後ろで、
「我慢して……」とか、「この仕事は絶対貴方が適任なのよ」と僕を励ましていた。
オーディションの一週間後、正式に専属となった。仕事の内容は、雑誌広告のモデル。条件は『撮影は年二回。スケジュールは絶対守る事』と『決められた体型を維持すること』。僕は太りにくい体質だったから、大して厳しい条件ではなかった。
あれから12年……
「本当に辞めたいの?」
物思いにふけっている僕にダイアナが聞いてきた。
「そうだよ。今回で最後。新しいモデルがやっと見つかったって聞いてホッとしたよ」
僕がそう言うと、ダイアナは寂しそうな顔をした。
「それに君のママも、やっと僕と関係が切れて嬉しいんじゃない?」
「マサキ!ママはそんな事思ってないわよ……」
会長が僕を避けているのは事実だった……
マリアは、僕を空港に迎えに行く途中で、事故に遭い亡くなった。まただ、と思った。僕が愛する人は必ずこうなる、と。
「娘が貴方を迎えに行かなければ……」と会長に言われた。
その通りだ。僕を迎えに来なければ、彼女は今も元気に生きていたと思う。
「あの時のママは気が動転していただけよ」
ダイアナはそう言うけれど、マリアが亡くなってから僕の撮影がある時は、会長は必ずイタリアには居なかった。
今回の撮影も順調に進んでいた。これで最後のモデルの仕事になるけれど。寂しくなかった。もう食べる事にストレスを感じなくていいし、全身のスキンケアに神経使わなくてもいいし……
「マサキ、お疲れ様!」
カメラマンが僕に言う。
終わった。また一つ鎧を脱げる。
シャワーを浴びた後、癖でエイジングケアをしようとしてしまった。
「今日はしなくてもいいか」
僕はスキンケアを何もしないで服を着て、頼んでいたタクシーで帰ろうとした。
「マサキ、本当にもう帰るの?」
ダイアナが言う。
僕の為にパーティーを開きたいと言われたけど、丁重に断った。
「気持ちだけで十分」
「でも……あの部屋だけは覗いて行ってあげてよね」
あの部屋……
マリアの部屋……
彼女が亡くなってから入った事がない。僕は区切りを付けるため、マリアの部屋に入る事にした。
初めてこの部屋に入った時……マリアが一族の孫だと知って喧嘩したっけ。
『マリア……君を忘れた事は無かったよ。君なら今の僕を理解してくれるよね。都合いいかな?僕、心から愛する人が出来たんだよ』
今すぐ智ちゃんに会いたかった。智ちゃんに抱きしめて欲しかった。智ちゃんの声が聞きたい。何故だか涙が止まらなくて……
ふっとマリアがつけていた香水の匂いがして、優しく僕を誰かが抱き締めてくれた。
「マサキ、お疲れ様。長い間うちのブランドの為にありがとう。私はずっと前から貴方を許していたの。伝えなくてごめんなさい。だから、もうここには来ない、なんて思わないでちょうだい」
会長だった。
僕は本当の意味で解放されて、会長を抱き締め泣いた。
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