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第三章
勇者現る
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タタリア遺跡。ペスタ地方に存在する広大な砂漠の中心に佇む巨大な遺跡。そこは初代ペスタ国王タタリアが眠る墓標であり、古の魔族との戦争において彼の手によって使われた聖剣が眠る地でもある。
その遺跡の前に立つ三人の人影。彼ら…否、彼女らは身体をマントで包み隠し、頭には三度笠をかぶっている。
「やっと着いた…ここがタタリア遺跡ね」
栗色の髪の少女は遺跡を見上げながら呟いた。彼女の腰には剣が携えられている。
「まったく…城で許可証をもらうのにこんなに時間がかかるとはね…ホント最悪…」
少女の隣の魔法使いが不満そうに愚痴をこぼした。三度笠の影から黒色のツインテールを覗かせている。
「同感ね。砂埃はひどいし、日射しは強いし…早く終わらせて涼しいとこでお肉食べたいわ」
銀髪の僧侶の女性が答えた。他の二人よりやや背は高く、バストは豊満であった。
彼女達はファイン大陸東部にあるロクア地方のギルドに所属する冒険者のパーティーである。タタリア遺跡の聖剣の噂を聞きつけてはるばるペスタ地方まで足を運んできたのだ。
「ギルドの情報によるとあの遺跡の危険度はB。冒険者ランクBのメイリスがいるから入ることはできるけど油断はしちゃだめよ。リエル」
「わかってるわ。ビオラ」
リエルと呼ばれた剣使いの少女は魔法使いの少女からの忠告に頷いた。
「それじゃ、さっそく行きましょう。早く中に入って涼みたいわ」
「あ、待ってよメイリス!」
足早に遺跡の入り口に向かう僧侶の後を二人は追った。
彼女達が請け負ったクエストは『聖剣の捜索』である。これまで聖剣は初代国王の墓標である遺跡に静かに保管されていた。しかし、魔族との戦争が激化してきた昨今、その切り札として聖剣を運用しようという提案が国内で上がった。ペスタ王国は遺跡の捜索を開始したが、その中はとても複雑であり、現王国の国王でさえ聖剣の位置は把握していない。不遜な輩による悪用を防ぐべく初代国王はあえてその位置を誰にも教えずに封印したのである。騎士団による調査は続けられているがいまだに聖剣の姿を見た者はいない。そこで王国はギルドを通じて冒険者達に捜索を依頼したのだ。
「止まれ!何者だ?」
入り口を警護している二人の兵士が手に持つ槍でメイリスの行く手を阻んだ。
「きゃ!ちょっと何よもう…」
いきなりの対応にメイリスは顔をしかめた。
「待ってください。私達はルロウ地方から来た冒険者です」
後から来たリエルが割って入った。
「冒険者だと?信じられんな」
兵士は疑惑の目でリエル達をにらんだ。この遺跡は聖剣以外にも様々な宝が眠るという噂があり、そのために不法侵入を目論む輩が後を絶たない。過剰な盗掘による遺跡の破損を防ぐため、こうして遺跡周辺を聖バーニィ騎士団が警護しているのだ。国王から許可証を発行された冒険者のみがこの遺跡の調査を許される。
「本当だって!ほら、王様からもらった許可証だってあるんだから!」
ビオラは鞄から取り出した許可証を兵士二人に突き付けた。
「本当か?どれどれ…」
兵士は許可証を奪うように手に取り、書面を確認した。数秒程睨み終えると兵士は許可証を投げ捨てるように返した。
「確かに本物のようだな…」
「わかったでしょ?じゃさっさと通してよ」
ビオラは地面に落ちた許可証を拾いながら言った。
「あぁ、通してやるよ。だが、くれぐれも…おや?」
何かに気づいた兵士はリエル達の後ろに目線を向けた。
「ん?何よ?」
ビオラが後ろを向くと剣士らしき男が騎士を数人連れて佇んでいた。男は金色が目立つ鎧を身に着け、頭に派手な頭飾りを被り、尊大な表情でリエル達を見下していた。
「オイお前ら!誰に断って俺達の邪魔をしているのだ?えぇ?」
「はぁ?誰よあんた?」
癇に障る物言いにビオラが食って掛かった。
「誰だと?サンユー王国の勇者であるリョーマ様を知らねーのか?この田舎ネズミ共が」
リョーマと名乗った勇者は懐から取り出した許可証を警護の兵士に突き付けた。
「こ、これはこれは遠路はるばるご苦労様です勇者様!」
兵士達は露骨に態度を変えて敬礼した。
「おいお前ら!勇者様ご一行のお通りだぞ。道を開けろ!」
兵士はリエル達を追い払うように槍を振った。
「ご苦労ご苦労。俺様が来たからには聖剣なんぞ見つかったも同然よ。お前らはこのラクダを見てな」
リョーマは自分達が乗って来たラクダを指さしながら警護の兵士達に命じ、入り口に向かった。
「ははっ!お任せください!どうかお気を付けて!」
一連のやり取りをビオラは顔をしかめて見ていた。尊大な態度の勇者もそうだが、人を選んで態度を変える兵士に腹を立てていたのだ。
「おっとそうだ、おいお前ら」
リエル達の前を過ぎようとしたリョーマは立ち止まって彼女達を指さした。
「お前らもし冒険者だっていうんなら聖剣が見つかったら俺様に教えろよ。まぁ、見つかったらの話だがな、ははは!」
言うだけ言ってリョーマは自分の騎士達を連れて遺跡内に入っていった。ちなみにこの騎士達はサンユー王国に所属するサンメート騎士団である。
「よし、お前達も入っていいぞ。くれぐれも勇者様の邪魔にならないようにな」
勇者一行を見送った兵士達はリエル達に忠告した。彼女達は何も言わずに遺跡内に入っていった。
「ったく!なんなのよアイツら!」
遺跡の通路を角を右に曲がり、前後に自分達以外に誰もいないことを確認したビオラは壁を蹴りながら毒づいた。
「もう…落ち着きなさいよ。気持ちはわかるけどさぁ」
メイリスはなだめるように声をかけた。
「勇者だからってあんな態度とる必要ある?しかも勇者ってだけでゴマすりやがってあの下っ端どもが!」
ビオラは再び壁に蹴りを入れた。
「仕方ないでしょ。『勇者』の称号を持つ者は身分問わずSランク冒険者と同じ権利を持っているんだから多少は調子に乗るのも無理ないと思うわ」
『勇者』という称号は基本的に自分が所属する国で認められた者に与えられる称号である。大抵は凶悪な魔物や魔族を単独で討ち取るなど国内で目覚ましい活躍をした冒険者に与えられる事例が多い。
「リョーマって確か…サンユー王国の第二王女の婚約者だよね…?冒険者になったなんて話は聞いてないけど…」
リエルは思い出したかのように言った。
「ということは彼はその血縁を利用して勇者になったのかしら?」
「コネで勇者になったっての?ますます腹立つわ!」
『国に認められる』――ということは戦闘による活躍に限定されるわけではない。研究や政治の分野でその国に大きく貢献した者にも勇者の称号を与えられる事例も過去に存在している。しかし、中には金や権力などを利用して不正に称号を得る狡猾な者も少なくない。
「リエル!勇者を目指しているなら、あんたはあんな風にならないでよ!勇者ってのはもっと強くてカッコイイものなんだからさ!」
ビオラはリエルを指さした。
「わかってるわよ…あんな人に負けるつもりはないわ!」
「オッケー!頼んだわよ、勇者の卵様!」
ビオラはリエルの背中をバシンと叩いた。
「そのためにも、頑張ってランクを上げなきゃね!」
それに続くようにメイリスはサムズアップした。
「う、うん!行きましょう!」
自らを奮い立たせるようにリエルは先頭に立って遺跡の通路を進んでいった。ビオラとメイリスの二人も後に続いた。
その遺跡の前に立つ三人の人影。彼ら…否、彼女らは身体をマントで包み隠し、頭には三度笠をかぶっている。
「やっと着いた…ここがタタリア遺跡ね」
栗色の髪の少女は遺跡を見上げながら呟いた。彼女の腰には剣が携えられている。
「まったく…城で許可証をもらうのにこんなに時間がかかるとはね…ホント最悪…」
少女の隣の魔法使いが不満そうに愚痴をこぼした。三度笠の影から黒色のツインテールを覗かせている。
「同感ね。砂埃はひどいし、日射しは強いし…早く終わらせて涼しいとこでお肉食べたいわ」
銀髪の僧侶の女性が答えた。他の二人よりやや背は高く、バストは豊満であった。
彼女達はファイン大陸東部にあるロクア地方のギルドに所属する冒険者のパーティーである。タタリア遺跡の聖剣の噂を聞きつけてはるばるペスタ地方まで足を運んできたのだ。
「ギルドの情報によるとあの遺跡の危険度はB。冒険者ランクBのメイリスがいるから入ることはできるけど油断はしちゃだめよ。リエル」
「わかってるわ。ビオラ」
リエルと呼ばれた剣使いの少女は魔法使いの少女からの忠告に頷いた。
「それじゃ、さっそく行きましょう。早く中に入って涼みたいわ」
「あ、待ってよメイリス!」
足早に遺跡の入り口に向かう僧侶の後を二人は追った。
彼女達が請け負ったクエストは『聖剣の捜索』である。これまで聖剣は初代国王の墓標である遺跡に静かに保管されていた。しかし、魔族との戦争が激化してきた昨今、その切り札として聖剣を運用しようという提案が国内で上がった。ペスタ王国は遺跡の捜索を開始したが、その中はとても複雑であり、現王国の国王でさえ聖剣の位置は把握していない。不遜な輩による悪用を防ぐべく初代国王はあえてその位置を誰にも教えずに封印したのである。騎士団による調査は続けられているがいまだに聖剣の姿を見た者はいない。そこで王国はギルドを通じて冒険者達に捜索を依頼したのだ。
「止まれ!何者だ?」
入り口を警護している二人の兵士が手に持つ槍でメイリスの行く手を阻んだ。
「きゃ!ちょっと何よもう…」
いきなりの対応にメイリスは顔をしかめた。
「待ってください。私達はルロウ地方から来た冒険者です」
後から来たリエルが割って入った。
「冒険者だと?信じられんな」
兵士は疑惑の目でリエル達をにらんだ。この遺跡は聖剣以外にも様々な宝が眠るという噂があり、そのために不法侵入を目論む輩が後を絶たない。過剰な盗掘による遺跡の破損を防ぐため、こうして遺跡周辺を聖バーニィ騎士団が警護しているのだ。国王から許可証を発行された冒険者のみがこの遺跡の調査を許される。
「本当だって!ほら、王様からもらった許可証だってあるんだから!」
ビオラは鞄から取り出した許可証を兵士二人に突き付けた。
「本当か?どれどれ…」
兵士は許可証を奪うように手に取り、書面を確認した。数秒程睨み終えると兵士は許可証を投げ捨てるように返した。
「確かに本物のようだな…」
「わかったでしょ?じゃさっさと通してよ」
ビオラは地面に落ちた許可証を拾いながら言った。
「あぁ、通してやるよ。だが、くれぐれも…おや?」
何かに気づいた兵士はリエル達の後ろに目線を向けた。
「ん?何よ?」
ビオラが後ろを向くと剣士らしき男が騎士を数人連れて佇んでいた。男は金色が目立つ鎧を身に着け、頭に派手な頭飾りを被り、尊大な表情でリエル達を見下していた。
「オイお前ら!誰に断って俺達の邪魔をしているのだ?えぇ?」
「はぁ?誰よあんた?」
癇に障る物言いにビオラが食って掛かった。
「誰だと?サンユー王国の勇者であるリョーマ様を知らねーのか?この田舎ネズミ共が」
リョーマと名乗った勇者は懐から取り出した許可証を警護の兵士に突き付けた。
「こ、これはこれは遠路はるばるご苦労様です勇者様!」
兵士達は露骨に態度を変えて敬礼した。
「おいお前ら!勇者様ご一行のお通りだぞ。道を開けろ!」
兵士はリエル達を追い払うように槍を振った。
「ご苦労ご苦労。俺様が来たからには聖剣なんぞ見つかったも同然よ。お前らはこのラクダを見てな」
リョーマは自分達が乗って来たラクダを指さしながら警護の兵士達に命じ、入り口に向かった。
「ははっ!お任せください!どうかお気を付けて!」
一連のやり取りをビオラは顔をしかめて見ていた。尊大な態度の勇者もそうだが、人を選んで態度を変える兵士に腹を立てていたのだ。
「おっとそうだ、おいお前ら」
リエル達の前を過ぎようとしたリョーマは立ち止まって彼女達を指さした。
「お前らもし冒険者だっていうんなら聖剣が見つかったら俺様に教えろよ。まぁ、見つかったらの話だがな、ははは!」
言うだけ言ってリョーマは自分の騎士達を連れて遺跡内に入っていった。ちなみにこの騎士達はサンユー王国に所属するサンメート騎士団である。
「よし、お前達も入っていいぞ。くれぐれも勇者様の邪魔にならないようにな」
勇者一行を見送った兵士達はリエル達に忠告した。彼女達は何も言わずに遺跡内に入っていった。
「ったく!なんなのよアイツら!」
遺跡の通路を角を右に曲がり、前後に自分達以外に誰もいないことを確認したビオラは壁を蹴りながら毒づいた。
「もう…落ち着きなさいよ。気持ちはわかるけどさぁ」
メイリスはなだめるように声をかけた。
「勇者だからってあんな態度とる必要ある?しかも勇者ってだけでゴマすりやがってあの下っ端どもが!」
ビオラは再び壁に蹴りを入れた。
「仕方ないでしょ。『勇者』の称号を持つ者は身分問わずSランク冒険者と同じ権利を持っているんだから多少は調子に乗るのも無理ないと思うわ」
『勇者』という称号は基本的に自分が所属する国で認められた者に与えられる称号である。大抵は凶悪な魔物や魔族を単独で討ち取るなど国内で目覚ましい活躍をした冒険者に与えられる事例が多い。
「リョーマって確か…サンユー王国の第二王女の婚約者だよね…?冒険者になったなんて話は聞いてないけど…」
リエルは思い出したかのように言った。
「ということは彼はその血縁を利用して勇者になったのかしら?」
「コネで勇者になったっての?ますます腹立つわ!」
『国に認められる』――ということは戦闘による活躍に限定されるわけではない。研究や政治の分野でその国に大きく貢献した者にも勇者の称号を与えられる事例も過去に存在している。しかし、中には金や権力などを利用して不正に称号を得る狡猾な者も少なくない。
「リエル!勇者を目指しているなら、あんたはあんな風にならないでよ!勇者ってのはもっと強くてカッコイイものなんだからさ!」
ビオラはリエルを指さした。
「わかってるわよ…あんな人に負けるつもりはないわ!」
「オッケー!頼んだわよ、勇者の卵様!」
ビオラはリエルの背中をバシンと叩いた。
「そのためにも、頑張ってランクを上げなきゃね!」
それに続くようにメイリスはサムズアップした。
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