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第三章

聖剣・エクセリオン

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「あれは…?」   

 砕け散る柱。飛び散る破片。その破片の中に静葉はある物を目撃した。それは刀身が白銀に輝く剣。初代ペスタ国王タタリアがその所在を誰にも伝えずに隠していた本物の聖剣エクセリオンである。

「……聖剣…!」

 薄れゆく意識の中、メイリスは宙を舞う聖剣を手に取り、残された力を振り絞ってリエルの元へ投げつけた。まっすぐに飛んでいった聖剣はリエルの足元の床に突き刺さった。

「メイリスさん!?」
「は…早く…聖剣…を…」

 静葉が腕を引き抜くと、メイリスの口と傷穴から血があふれ出し、血だまりの中に彼女は倒れこんだ。

「う…うそ……」

 その無残な光景にリエルは言葉を失った。初めて出会った時から幾度となく自分とビオラを助けてくれた仲間が惨たらしく殺されたのだ。一瞬時間が止まったような感覚であった。

「よくも…よくもぉぉぉぉ!『アクア』!」

 怒りの叫びと共にビオラは水魔法を唱えた。それを事前に察知した静葉は真横に跳ねて水柱を回避。そのまま彼女は右腕で巨大な黒い火球を作り出し、ビオラ目掛けて投げつけた。魔法の詠唱で足を止めていたビオラにはそれをかわす猶予はない。

「!!」

 今のリエルには仲間の死を悲しむ暇などない。涙をこらえて彼女はメイリスが託した足元の聖剣を手に取った。その瞬間、白銀の輝きがリエルの身体を包み込んだ。身体の奥底から力が湧いてくるのを感じながらリエルはその場で聖剣を思いきり振り下ろした。聖剣から発せられた白い剣圧は一直線に駆け抜け、ビオラの目前に迫っていた黒い火球を打ち払った。その光景に驚いたビオラは思わず尻もちをついた。

「何っ!?」

 一瞬何が起こったかわからなかった。静葉がそう思う間にリエルは一瞬で距離を詰め、聖剣の間合いに敵を捉えていた。

「速い!」

 先ほどの僧侶と同じ、あるいはそれ以上の速さであった。静葉は襲い掛かる聖剣を黒い炎の両手でとっさに掴み取った。

「ぐぅっ…!」

 重い一撃であった。少しでも気を抜けば力負けしてしまう。そう思いながら静葉は両腕の炎を昂らせた。

「くっ…!」

 リエルもまた同じように考えていた。聖剣がここまで自分に力を与えてくれたことに驚かされたが、圧倒的に有利になったわけではない。辛うじて互角に戦えるようになっただけ。少しでも気を抜けば命を落とすであろう。
 しかし、殺された仲間メイリスの仇を討つためにも、生きている仲間ビオラを守るためにも負けるわけにはいかない。リエルは聖剣に力をこめて押し込んだ。

「なめる……なぁ!」

 静葉が思いきり力をこめると聖剣はバキンと音を立ててへし折れた。折れた刀身を右手に握ったまま静葉は黒い炎の拳をリエルにぶつけた。リエルは反射的に折れた聖剣の柄を盾にして巨大な拳を防いだ。吹き飛ばされるような強い衝撃が全身に走ったが、歯を食いしばって必死にこらえた。これも聖剣の力なのか、剣の柄も自分も無傷であった。

「…これくらい…!」

 リエルはひるむことなく自分の内側から戦意を昂らせた。折れた聖剣はそれに応えるかのように白く輝き、新たな刃を作り出した。

「…光の…刃…?」

 その刃は元の聖剣のそれ以上に長く、静葉が普段使う大剣とほぼ同じであった。重量がないのかリエルは聖剣を軽々と持ち上げた。
 静葉は白い刃の輝きに警戒していた。彼女の中に宿る魔王の力が警鐘を鳴らしている。そんな感じがした。
 リエルは光の刃を宿した聖剣を下から思いきり振り上げた。静葉は瞬時に上体を反らし、ブリッジをして斬撃を回避した。それと同時にマフラーが迎撃として鞭を振るったが、光の刃を弾き飛ばすことは叶うことなく鞭はいとも簡単に切り裂かれた。

「あぶなっ…!」

 これで鞭は使い物にならなくなった。

「何よ…そのチートアイテム…バフ盛りすぎでしょ…」

 そう毒づきながら静葉は手にしていた聖剣の刀身を足元に落とした。
 床に落ちている二本の短刀を拾いに行く余裕はない。今ある武器は自らの黒い炎のみ。静葉は息を切らしながら両腕に黒い炎を纏い、構えた。
 リエルもまた息を切らしながら聖剣を構えていた。これ以上長引かせては身がもたない。次で決める。お互いにそう考えて、一瞬の隙を窺っていた。

 ズンッ!

 突如、巨大な地響きが大広間全体に響き渡った。

「な、何?」
「今度は何の罠?」
 リエルは周りを見渡して警戒した。

『潮時だよ、魔勇者様!』

 天井に待機していたフロートアイがそう告げた。
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