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第三章

新たな依頼

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「なんと…そんなことが…」

 国王が控える謁見の間。遺跡から帰還したリエルとビオラから事の顛末を聞き、十三代目ペスタ国王は愕然とした。最初は半信半疑であったが、ほどなくして警備の交代のために遺跡に向かい、すぐさま帰還してきた聖バーニィ騎士団の兵士からの報告を受けてそれが確信へと変わった。国王はリエルから献上された聖剣の柄を手に取り、まじまじと眺めた。

「まさか…遺跡そのものを破壊するとは…」

 国王のそばにいた大臣が声を漏らした。初代国王が愛用した聖剣をへし折り、歴史的建造物であるタタリア遺跡を跡形もなく破壊するという魔族の所業に戦慄した。

「なんて奴らだ…!」
「この王国もいつ攻め込まれるか…」
「いっそこちらから仕掛けよう!」
「待て!騎士団の多くが犠牲になったんだぞ!」
「ならば、冒険者をたくさん雇えば…」
「そんなに予算があるかよ!」

 周りで聞いていた騎士や魔導士が一斉に騒ぎ出した。この前代未聞の事態に彼らは冷静さを保つことなどできるわけなどなかった。その喧噪をリエルとビオラは片膝をついたまま黙って聞いていた。

「静粛に!」

 国王の大きな声が部屋中に響いた。その鶴の一声はその場にいた者達全員を黙らせた。

「…こほん。失礼した…」

 咳払いをした国王は目前にいる冒険者の少女二人に目を向けた。

「リエル殿…そなたに改めて依頼をしたいことがある」
「依頼…ですか?それでしたらギルドを通してもらえば…」
 リエルは顔を上げながら尋ねた。
「いや、聖剣を回収してくれたそなたに直接頼みたいのだ。もちろん、報酬は今回のとは別に出す」
「はぁ…」
 国王が合図すると、兵士の一人が聖剣の柄を回収し、リエルの元へ持って行った。

「聖剣エクセリオン。その修復をそなた達に依頼する」
「聖剣の修復…ですか…?」
 リエルは思わず聞き返した。
「そうだ。ファイン大陸の北部の山奥にドワーフ族が住む地域がある。そこにハガーという名腕の鍛冶師がいるらしい。彼にその聖剣を修復してもらうのだ」
「陛下。お言葉ですが、我が国の聖剣を一介の冒険者ごときに預けるなどいかなるものかと思いますぞ」
 大臣が口をはさんできた。
「うむ…そなたの気持ちは十分にわかる」
「なれば、その任務は我が国の信頼できる騎士や魔導士に…」
「しかし、彼女達はあの遺跡から聖剣を見つけ出し、あの魔勇者を退けたのだ。私としてはこれ以上ない適任者だと思うのだがね」
 王の言葉を聞いてリエルは申し訳なさそうに目を伏せた。聖剣を見つけ出したのも、魔勇者と互角に戦うことができたのも自分一人の力ではなかったからだ。ここにはいない仲間の力があっての結果。そんな言葉が出かかったが、彼女はそれを飲み込んだ。
「それに、我が国は魔族からの防衛のために余計な戦力を割くことはできぬ。そのために冒険者がいる。違うか?」
「ぐ…」
 大臣は言葉を失った。国王が周りを見渡すとあれだけ騒いでいた他の騎士達もいつしか沈黙していた。誰も国王に対する異論は出せなかった。

「そういうことだ。よろしく頼む。なお、ギルドにはこちらから改めて話を通しておく」
「…承知しました。これより、ドワーフの鍛冶師に会い、聖剣エクセリオンの修復の依頼に向かいます」

 リエルは新たに与えられたクエストを復唱した。

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