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第三章
まさかの
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「オイコラ!もっと気合入れてフーフーせんかい!あたしゃ猫舌なんやで」
次の日の朝、ペスタ支部の拠点内にある食堂にてティータが隣にいるベアードに文句をつけていた。敵の強力な一撃を受けて利き腕を骨折していた彼女はまともに食器を持つことができないため、彼に食事の介助を頼んでいたのだ。といっても、頼む人の態度とはいいがたいものではあるが。
「あの~…俺そろそろ飯食いたいんだけど」
「やかましい!誰のせいで溺死しそうになったと思うてんねん!」
「いいじゃん。そのおかげで魔勇者様が敵を一掃できたんだからよ~」
「口答えすな!」
「まったく…賑やかなものね…」
卵サンドを食べながら私はその様子を眺めていた。この二人は昨日からこんな調子だ。どうやらいつものことのようだ。
(てか、猫舌ならたこ焼きを注文するなよ…)
口調だけでなく嗜好も関西なんかこの虎女は。だいたい、たこ焼きなら片手でも食えるだろうに。
「あ、そこのソースとってくれない?」
隣から声を掛けられた私は目の前のソースを手に取り、声の主に渡した。
「どうぞ」
「ありがとう」
声の主は自分のとんかつにソースをかけた。かなりの大食いなのか、朝っぱらから大盛のとんかつ定食を注文したようだ。
「ずいぶん食べるのねあな――た?」
その顔を見て私は絶句した。そこにいたのはつい先日私が手刀で胸を貫き、その遺体をコノハに引き渡した僧侶――メイリスであった。白い修道士服を身に着けた彼女はとんかつを美味しそうにほおばっている。
「あら?もしかしてあなた…」
私に気づいたメイリスは笑顔で手を振った。
「ほわあぁぁぁ!?」
思わず変な声が出た。いるはずのない顔が何食わぬ顔で食事をしていたのだ。指をさしながら私は彼女に問い詰めた。
「あ、あなたは…」
「メイリスよ。気軽にメイリスって呼んでね」
メイリスは改めて自己紹介した。あ、これはご丁寧に。いや、それよりも――
「な、何であなたがここにいるのよ?」
「ふふ、化けて出ちゃった」
メイリスはペロッと舌を出しながらウインクして答えた。
「うそつけ!お化けが飯をガツガツ食うわけないでしょうが!」
『それは僕から説明しよう』
どこからともなくフロートアイマーク2カスタムが飛んできた。フロートアイを通じてコノハはメイリスがここでとんかつ定食を食べている理由を私達に説明した。
「…コイツが聖剣の本当の持ち主で、今はアンデッド…?」
信じがたい話ではあるが、妙に納得できた。あの時、確かに殺したはずなのに彼女の生命を喰らうことができなかった。聖剣についてもやたらと詳しいようだったし、色々と変だとは思っていたのよね。
「あなたが空けた風穴もほら、この通り」
メイリスは修繕した上着を胸が見えるギリギリまでたくし上げた。
「ちょ…!おま…!」
こんなところで露出すな!
「あははは!期待通りの反応でお姉さん嬉しいわ!」
彼女はのんきに笑っていた。つい昨日殺し合いをしていた相手になんちゅうことしてんだこのゾンビ僧侶は!
「まったく…それで私にここへ運ばせたってわけね」
『そういうこと。ただ、不死化によって新陳代謝が増幅した影響で体組織の再生、再構築をするために大量の栄養補給が必要らしいんだ』
コノハは解説を入れた。
「要は再生した分お腹が減るってことよ。しっかり食べないと身体が腐ってしまうのよねー」
なるほど。竜の血と違って面倒な体質ね。確かに城にいるゾンビ達も大量に食事を摂っていたわね。
「そんなわけで、私も魔王軍にお世話になることにしたの」
「…ふぁあああぁぁ!?」
一瞬の沈黙をはさんで再び変な声が出た。どんなわけじゃコラ!
「ちょい待ちなさい!あなた冒険者でしょ?あの仲間の二人のことはどうでもいいの?」
そんなバイトを変える感覚で魔王軍に入ろうとすな!
「うーん、確かに心配だけどね…どっちかというと毎日の食事の方が心配なのよねー。冒険者ってのも不安定な仕事だし」
急に現実的な話を持ち込んできたよ。
「魔王軍なら毎日の食事を保証するってここの支部長さんに言われたから決めたの」
「いやいやいや!その程度で仲間を裏切るのかよ!」
「大丈夫よ。あの子達は私が死んだと思っているでしょうし。お目当ての聖剣もこんなんなっちゃったしね…」
メイリスは聖剣の刀身を見せびらかした。
「正直、行くあてなんてないのよね…だからこれあげるわ」
彼女は持っていた刀身を私に差し出した。
「え?でもこれってあなたのでしょ?」
「いいのよもう。結局は私のつまらない未練だし。あなたかリエルちゃんに使ってもらったほうがいいと思うわ」
軽い口調だが、メイリスはどこか遠い目をしていた。その目を見ながら私は折れた聖剣に光を宿し、私に斬りかかった少女の顔を思い浮かべた。
「…といってもねぇ…」
刀身をもらったところでどうしたらいいものか。リエルとやらは聖剣の柄から光の刃を作り出してどこぞのビームサーベルみたいに使っていたが、私が刀身を持ってもそれらしいことができる気配はない。正直、使い道がわからない。帰ったらクロムあたりに預けてみるか。
「ということで、よろしくね。魔勇者シズハちゃん」
メイリスはいい笑顔で半ば強引に私と握手した。力つえぇ。つか、どういうことでだよ。しかも手冷たいし。
次の日の朝、ペスタ支部の拠点内にある食堂にてティータが隣にいるベアードに文句をつけていた。敵の強力な一撃を受けて利き腕を骨折していた彼女はまともに食器を持つことができないため、彼に食事の介助を頼んでいたのだ。といっても、頼む人の態度とはいいがたいものではあるが。
「あの~…俺そろそろ飯食いたいんだけど」
「やかましい!誰のせいで溺死しそうになったと思うてんねん!」
「いいじゃん。そのおかげで魔勇者様が敵を一掃できたんだからよ~」
「口答えすな!」
「まったく…賑やかなものね…」
卵サンドを食べながら私はその様子を眺めていた。この二人は昨日からこんな調子だ。どうやらいつものことのようだ。
(てか、猫舌ならたこ焼きを注文するなよ…)
口調だけでなく嗜好も関西なんかこの虎女は。だいたい、たこ焼きなら片手でも食えるだろうに。
「あ、そこのソースとってくれない?」
隣から声を掛けられた私は目の前のソースを手に取り、声の主に渡した。
「どうぞ」
「ありがとう」
声の主は自分のとんかつにソースをかけた。かなりの大食いなのか、朝っぱらから大盛のとんかつ定食を注文したようだ。
「ずいぶん食べるのねあな――た?」
その顔を見て私は絶句した。そこにいたのはつい先日私が手刀で胸を貫き、その遺体をコノハに引き渡した僧侶――メイリスであった。白い修道士服を身に着けた彼女はとんかつを美味しそうにほおばっている。
「あら?もしかしてあなた…」
私に気づいたメイリスは笑顔で手を振った。
「ほわあぁぁぁ!?」
思わず変な声が出た。いるはずのない顔が何食わぬ顔で食事をしていたのだ。指をさしながら私は彼女に問い詰めた。
「あ、あなたは…」
「メイリスよ。気軽にメイリスって呼んでね」
メイリスは改めて自己紹介した。あ、これはご丁寧に。いや、それよりも――
「な、何であなたがここにいるのよ?」
「ふふ、化けて出ちゃった」
メイリスはペロッと舌を出しながらウインクして答えた。
「うそつけ!お化けが飯をガツガツ食うわけないでしょうが!」
『それは僕から説明しよう』
どこからともなくフロートアイマーク2カスタムが飛んできた。フロートアイを通じてコノハはメイリスがここでとんかつ定食を食べている理由を私達に説明した。
「…コイツが聖剣の本当の持ち主で、今はアンデッド…?」
信じがたい話ではあるが、妙に納得できた。あの時、確かに殺したはずなのに彼女の生命を喰らうことができなかった。聖剣についてもやたらと詳しいようだったし、色々と変だとは思っていたのよね。
「あなたが空けた風穴もほら、この通り」
メイリスは修繕した上着を胸が見えるギリギリまでたくし上げた。
「ちょ…!おま…!」
こんなところで露出すな!
「あははは!期待通りの反応でお姉さん嬉しいわ!」
彼女はのんきに笑っていた。つい昨日殺し合いをしていた相手になんちゅうことしてんだこのゾンビ僧侶は!
「まったく…それで私にここへ運ばせたってわけね」
『そういうこと。ただ、不死化によって新陳代謝が増幅した影響で体組織の再生、再構築をするために大量の栄養補給が必要らしいんだ』
コノハは解説を入れた。
「要は再生した分お腹が減るってことよ。しっかり食べないと身体が腐ってしまうのよねー」
なるほど。竜の血と違って面倒な体質ね。確かに城にいるゾンビ達も大量に食事を摂っていたわね。
「そんなわけで、私も魔王軍にお世話になることにしたの」
「…ふぁあああぁぁ!?」
一瞬の沈黙をはさんで再び変な声が出た。どんなわけじゃコラ!
「ちょい待ちなさい!あなた冒険者でしょ?あの仲間の二人のことはどうでもいいの?」
そんなバイトを変える感覚で魔王軍に入ろうとすな!
「うーん、確かに心配だけどね…どっちかというと毎日の食事の方が心配なのよねー。冒険者ってのも不安定な仕事だし」
急に現実的な話を持ち込んできたよ。
「魔王軍なら毎日の食事を保証するってここの支部長さんに言われたから決めたの」
「いやいやいや!その程度で仲間を裏切るのかよ!」
「大丈夫よ。あの子達は私が死んだと思っているでしょうし。お目当ての聖剣もこんなんなっちゃったしね…」
メイリスは聖剣の刀身を見せびらかした。
「正直、行くあてなんてないのよね…だからこれあげるわ」
彼女は持っていた刀身を私に差し出した。
「え?でもこれってあなたのでしょ?」
「いいのよもう。結局は私のつまらない未練だし。あなたかリエルちゃんに使ってもらったほうがいいと思うわ」
軽い口調だが、メイリスはどこか遠い目をしていた。その目を見ながら私は折れた聖剣に光を宿し、私に斬りかかった少女の顔を思い浮かべた。
「…といってもねぇ…」
刀身をもらったところでどうしたらいいものか。リエルとやらは聖剣の柄から光の刃を作り出してどこぞのビームサーベルみたいに使っていたが、私が刀身を持ってもそれらしいことができる気配はない。正直、使い道がわからない。帰ったらクロムあたりに預けてみるか。
「ということで、よろしくね。魔勇者シズハちゃん」
メイリスはいい笑顔で半ば強引に私と握手した。力つえぇ。つか、どういうことでだよ。しかも手冷たいし。
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