異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
66 / 261
第三章

まさかの

しおりを挟む
「オイコラ!もっと気合入れてフーフーせんかい!あたしゃ猫舌なんやで」
 
 次の日の朝、ペスタ支部の拠点内にある食堂にてティータが隣にいるベアードに文句をつけていた。敵の強力な一撃を受けて利き腕を骨折していた彼女はまともに食器を持つことができないため、彼に食事の介助を頼んでいたのだ。といっても、頼む人の態度とはいいがたいものではあるが。

「あの~…俺そろそろ飯食いたいんだけど」
「やかましい!誰のせいで溺死しそうになったと思うてんねん!」
「いいじゃん。そのおかげで魔勇者様が敵を一掃できたんだからよ~」
「口答えすな!」

「まったく…賑やかなものね…」
 卵サンドを食べながら私はその様子を眺めていた。この二人は昨日からこんな調子だ。どうやらいつものことのようだ。

(てか、猫舌ならたこ焼きを注文するなよ…)

 口調だけでなく嗜好も関西なんかこの虎女は。だいたい、たこ焼きなら片手でも食えるだろうに。

「あ、そこのソースとってくれない?」

 隣から声を掛けられた私は目の前のソースを手に取り、声の主に渡した。
「どうぞ」
「ありがとう」
 声の主は自分のとんかつにソースをかけた。かなりの大食いなのか、朝っぱらから大盛のとんかつ定食を注文したようだ。
「ずいぶん食べるのねあな――た?」
 その顔を見て私は絶句した。そこにいたのはつい先日私が手刀で胸を貫き、その遺体をコノハに引き渡した僧侶――メイリスであった。白い修道士服を身に着けた彼女はとんかつを美味しそうにほおばっている。

「あら?もしかしてあなた…」
 私に気づいたメイリスは笑顔で手を振った。

「ほわあぁぁぁ!?」

 思わず変な声が出た。いるはずのない顔が何食わぬ顔で食事をしていたのだ。指をさしながら私は彼女に問い詰めた。
「あ、あなたは…」
「メイリスよ。気軽にメイリスって呼んでね」
 メイリスは改めて自己紹介した。あ、これはご丁寧に。いや、それよりも――
「な、何であなたがここにいるのよ?」
「ふふ、化けて出ちゃった」
 メイリスはペロッと舌を出しながらウインクして答えた。
「うそつけ!お化けが飯をガツガツ食うわけないでしょうが!」
『それは僕から説明しよう』
 どこからともなくフロートアイマーク2カスタムが飛んできた。フロートアイを通じてコノハはメイリスがここでとんかつ定食を食べている理由を私達に説明した。

「…コイツが聖剣の本当の持ち主で、今はアンデッド…?」

 信じがたい話ではあるが、妙に納得できた。あの時、確かに殺したはずなのに彼女の生命を喰らうことができなかった。聖剣についてもやたらと詳しいようだったし、色々と変だとは思っていたのよね。

「あなたが空けた風穴もほら、この通り」
 メイリスは修繕した上着を胸が見えるギリギリまでたくし上げた。
「ちょ…!おま…!」
 こんなところで露出すな!
「あははは!期待通りの反応でお姉さん嬉しいわ!」
 彼女はのんきに笑っていた。つい昨日殺し合いをしていた相手になんちゅうことしてんだこのゾンビ僧侶は!
「まったく…それで私にここへ運ばせたってわけね」
『そういうこと。ただ、不死化によって新陳代謝が増幅した影響で体組織の再生、再構築をするために大量の栄養補給が必要らしいんだ』
 コノハは解説を入れた。
「要は再生した分お腹が減るってことよ。しっかり食べないと身体が腐ってしまうのよねー」
 なるほど。竜の血と違って面倒な体質ね。確かに城にいるゾンビ達も大量に食事を摂っていたわね。
「そんなわけで、私も魔王軍にお世話になることにしたの」

「…ふぁあああぁぁ!?」

 一瞬の沈黙をはさんで再び変な声が出た。どんなわけじゃコラ!
「ちょい待ちなさい!あなた冒険者でしょ?あの仲間の二人のことはどうでもいいの?」
 そんなバイトを変える感覚で魔王軍に入ろうとすな!
「うーん、確かに心配だけどね…どっちかというと毎日の食事の方が心配なのよねー。冒険者ってのも不安定な仕事だし」
 急に現実的な話を持ち込んできたよ。
魔王軍ここなら毎日の食事を保証するってここの支部長さんに言われたから決めたの」
「いやいやいや!その程度で仲間を裏切るのかよ!」
「大丈夫よ。あの子達は私が死んだと思っているでしょうし。お目当ての聖剣もこんなんなっちゃったしね…」
 メイリスは聖剣の刀身を見せびらかした。
「正直、行くあてなんてないのよね…だからこれあげるわ」
 彼女は持っていた刀身を私に差し出した。
「え?でもこれってあなたのでしょ?」
「いいのよもう。結局は私のつまらない未練だし。あなたかリエルちゃんに使ってもらったほうがいいと思うわ」
 軽い口調だが、メイリスはどこか遠い目をしていた。その目を見ながら私は折れた聖剣に光を宿し、私に斬りかかった少女の顔を思い浮かべた。
「…といってもねぇ…」
 刀身をこんなんもらったところでどうしたらいいものか。リエルとやらは聖剣の柄から光の刃を作り出してどこぞのビームサーベルみたいに使っていたが、私が刀身これを持ってもそれらしいことができる気配はない。正直、使い道がわからない。帰ったらクロムあたりに預けてみるか。

「ということで、よろしくね。魔勇者シズハちゃん」

 メイリスはいい笑顔で半ば強引に私と握手した。力つえぇ。つか、どういうことでだよ。しかも手冷たいし。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...