異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第三章

不死者の過去

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「そして…聖剣エクセリオンの本当の所有者よ」

 その言葉にコノハは少し驚いた。彼女が聖剣について何かしら知っている不死者であることをタタリア遺跡で知り、情報を得るためにこの拠点に連れて来たのだが、その情報は予想外だったからだ。

「聖剣の…?そりゃまたどうして?」
「聞きたい?」
「別に」
 そっけない回答に対してメイリスはむくれた表情を作った。
「冗談冗談。謝るから聞かせてよ」
「まったくもう…あれは初代ペスタ国王の代の頃だったわ」
 メイリスは気を取り直して語り出した。

「当時からペスタ王国は聖バーニィ騎士団を主力として魔族と戦いを繰り広げていたことは知っているわよね?」
「うん。けっこう伝統ある騎士団みたいだね。実力は昔も今も変わらないけどね」
「でも、王国の防衛を主としていた聖バーニィ騎士団とは別に他の地方で活動していた騎士団があったのよ」
 コノハによって起動させられたフロートアイは静かにメイリスを観察していた。
「その名は『聖アルテア騎士団』。そこに私は所属していたの」
 メイリスは当時を懐かしみながら話を続けた。彼女は常に前線で戦い続け、多くの魔物を屠ってきたらしい。また、剣術だけでなく、体術や回復魔法にも精通している優秀な騎士であった。
「その戦果を認められて私は王国の宮廷鍛冶師であるダンツェンと宮廷魔導士のマルゴーから聖剣エクセリオンを授かったの」
 彼女の話によると、聖剣エクセリオンは希少な鉱石であるアルテニウムを用いて作られた白銀の聖剣であり、ダンツェンほどの鍛冶師の技術とマルゴーの魔力があって初めて完成する強力な聖剣らしい。
「へぇ、これそんなにすごい剣だったんだ」
 コノハは静葉から預かった聖剣の刀身を取り出し、まじまじと見つめた。その刀身には『この聖剣を誇り高き聖騎士メイリス・トレヴァーに捧げる』と小さく刻まれていた。
「…あら、まさかそれが折れるとはね」
 メイリスはかつての自分の聖剣が折られたという事実を知っても何の動揺もなかった。
「これが魔王軍うちが誇る魔勇者様の実力だよ」
「へぇ、そんなにすごいのね。あの可愛いお嬢ちゃん」
「うん。その魔勇者様に聖剣を振るったあの娘もすごかったよ。後で映像を見せてあげるね」
「あら、それは楽しみね。あのリエルって娘も魔勇者ちゃんに負けず劣らずの可愛さだからね」
「そこ?」
 思わぬところに注目していたメイリスに対してコノハは苦笑した。

「おっと、話が逸れてしまったね。ごめんね」
「ふふ、いいのよ」
 そう言われてメイリスは気にせず話を戻した。
「聖剣を授かった私はルロウ地方へ遠征し、いつものように魔族と戦っていたの。そこにペスタからの伝令がやって来た。次の指令かとその時は思っていた」
 その辺りからメイリスの顔が険しくなった。
「でも違った。よく見るとその伝令は城にいるはずのマルゴーだった。なんだか様子がおかしく、青冷めた表情で彼は私に言った。『国王が君の聖剣を狙っている』と…」
「…」
 コノハは静かに聞いていた。
「私は最初彼の話の意味がわからなかった。説明する暇もなかったのか彼はただ『逃げろ』と伝えた。その時、マルゴーは背後から剣で刺された。気が付くと私と彼は味方であるはずの聖アルテア騎士団の兵士達に包囲されていた」
「味方に?」
「ええ。私を除く騎士団の兵士達全てがグルだったらしく、最初から辺鄙なところで私を葬るつもりでルロウ地方への遠征をあてがったのよ。あの国王は…」
 その話を聞いたコノハは腕を組んで一考した。
「…おそらくそれはプロバガンダのためだろうね。国王である自分が聖剣を持って自ら前線に立ち、魔族を討つことで国内外にアピールするという目的のためにあなたの聖剣を奪ったのかもしれない」
 コノハは自分の推測を述べた。
「なるほど…言われてみればそうかもね」
 メイリスは彼の言葉に納得した。
「…さすがの私も数に圧倒されてね…奮闘はしたけど結局倒れちゃったのよ。マルゴーもね」
「へぇ…」
「いやぁ、四方から剣を刺されてすごく痛かったわぁ。剣って人間の身体をあんなにあっさり貫くものなのねぇあっはっは!」
 メイリスは自分の死にざまをさも笑い話のように語った。
「まぁ、むざむざと聖剣を奪われたのはさすがに悔しかったんだけどね。でも、その私の無念を悟ってくれたのかマルゴーは深手を負いながらもある魔法を私にかけてくれた」
「…それって…」
「そう…不死者として復活させる禁断魔法…『ネクロライズ』」
「禁断魔法…」
 コノハは思わず呟いた。禁断魔法とは魔力を用いて発動する従来の魔法に自らの生命力を上乗せすることでさらに強力な効果を発揮する文字通り禁じられた魔法である。そして、『ネクロライズ』は死にゆく運命にある対象者の身体を不死化し、その中に魂をつなぎとめるという生命の倫理に反する魔法である。
「…確か、死者蘇生を目的として編み出された禁断魔法だったかな?さすがの魔族でも死者を蘇えらせる魔法は持ち合わせていないんだよね。研究は続けられているんだけど」
 マルゴーは初代国王の方針に反対していた。ゆえに彼は伝令に変装してメイリスに危機を伝え、禁断魔法に手を染めてでも彼女を救おうとした。
「私は迷わずその魔法を受け入れた。彼の恩に応えるために…でも、一つ誤算があった」
「誤算?」
「その禁断魔法は当時未完成だった。そのため、復活が時間がかかり、目覚めた頃にはかなりの時間が経過していたの」
 メイリスの蘇生が完了したのはほんの一年前。彼女はルロウ地方の辺境の地にある廃教会の墓地の土の下で目を覚ました。肉体の腐敗こそ免れたもののさすがの禁断魔法をもってしても衣服と鎧の劣化は止めることはできなかったらしく、ほぼ裸体で地上に出たメイリスは廃教会に残されていた修道士の服を拝借し、僧侶として近くの街の冒険者ギルドに登録した。
「それから私は情報収集に努めた。あれからどれくらいの年月が経過したか。世界情勢はどうなっているか。二百年も経過していたのはさすがに驚いたわ」
 メイリスは肩を竦めた。
「しかも歴史書を読みあさったところ、聖アルテア騎士団の名前がどこにも載っていなかった。おおかた、あの後口封じだか何かで抹消されたんでしょうけど」
「その線が有力だろうね」
「で、ペスタ地方の遺跡に聖剣が眠っているという話を聞いた私はたまたま意気投合して仲間になったリエルあの子達と一緒にここまで来たのよ」
「へえ。やっぱり聖剣を取り戻すために来たのかい?」
「というよりは思い出探しね。あの聖剣が今どうなっているのか気になってね。場合によっては取り戻すって選択もなくはなかったけどね」
「…で、今に至る…と」
「そういうことよ」
 話を終えたメイリスは聖剣の刀身を手に取り、じっと見た。
「それで…これからどうするの?」
 コノハは尋ねた。
「そこなのよね…その後のことなんて考えてなかったのよね。あの国王もマルゴーもいないし、肝心の聖剣がこの有様だし」
 メイリスは遠い目で溜息をついた。

「それならさ…いい話があるんだけど…」
「あら…何かしら?」
 メイリスは静かに耳を傾けた。

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