異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第四章

召喚の間を破壊

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 レイニィ諸島の西側を治めるゾート王国。その中心にそびえたつゾート城の地下に設けられた召喚の間。その広い空間には巨大な魔法陣が床に描かれていた。この国の宮廷魔導士達は特殊な魔法を用いて異世界の人間をこの世界に呼び寄せ、それと同時に召喚した人間に魔法などの力を付与することで『勇者』の称号と魔王討伐の使命を与えていた。この魔法陣はそのためのものである。
 召喚の間は厳重に管理されており、宮廷魔導士のみが知る開錠の魔法でしかその重い扉を開くことはできない。そのはずだった。

「…これか…」

 黒いローブに身を包んだその人物は床に描かれた魔法陣を目にするや否や手にしていた大剣をそこに突き刺した。その瞬間、床全体に亀裂が走り、その割れ目から黒い炎が一斉に噴出した。黒い炎は召喚の間を瞬く間に覆いつくし、勇者召喚のための魔法陣は溶けるように呑み込まれた。

「なんだ?扉が破壊されているぞ?」
「おい!誰かいるぞ!」

 見回りに来た城内の兵士が驚愕の声をあげた。魔法以外の手段では決して開くことはできない扉が無残に破壊され、部外者の侵入を許していたのだ。

「ま、魔法陣が!」
「おい貴様!何をしている?」
 兵士達は侵入者に剣を向けた。異様な色の炎の中に平然と佇む黒いローブの人物。この城の重要区画の一つに無断で侵入し、ここまでの破壊行為を行った以上見過ごすことはできない。彼らは扉があった場所に陣取り、侵入者の逃げ道を塞いだ。

「…ばれたか。まぁいいわ…」

 侵入者は兵士達に臆することなく床に突き刺した大剣を引き抜いた。兵士達は部屋中に広がる黒い炎の熱気と侵入者から発せられる殺気に思わずたじろいだ。侵入者は一気に距離を詰めて前列の兵士三人を大剣でまとめて切り裂いた。

「ひぃっ…!」
「な…なんだこいつは…」
「きゅ…救援を!」

 後列にいた兵士達はそんな言葉を漏らすが、それを聞いて容赦する侵入者ではなかった。刀身についた血液を黒い炎で焦がし、炎を纏ったまま兵士の一人を突き刺した。貫かれた兵士は全身を炎に包まれ、やがて炭と化した。

「お…おのれ…!」

 戦意を喪失した残りの兵士達に退却を指示し、一人残った隊長格の兵士は剣を構えながら侵入者を睨み付けていた。

「貴様の目的はなんだ!答えろ!」

 兵士は堂々たる態度で問うた。しかし、その心底は恐怖で満ちていた。侵入者は答える代わりに兵士の右腕を斬り落とした。

「ぎゃ…ぎゃああぁぁあがっ!?」

 侵入者は腕を斬り落とされた激痛に苦しむ兵士の首根っこを掴み、その背後の壁に叩き付けた。

「この召喚の魔法陣を作ったのは誰?」

 質問の意図を兵士はすぐには理解できなかった。その声を聞いて侵入者は女であることはわかったが、彼女の狙いである魔法陣についてはほとんど把握していなかったからだ。それが異世界召喚の魔法陣であることを知っているのは王家の人間と大臣、宮廷魔導士達だけであり、末端の兵士である彼には知る由などなかった。兵士達はただ宮廷魔導士の命令に従い、この部屋の警護をしていただけであった。
「答えなさい」
「がはっ…お、おれは何も知らん…おそらく…それは…宮廷…魔導士様……が…」
 侵入者の冷たい視線から感じ取った恐怖に呑まれた兵士は息絶え絶えに語り出した。
「そいつはどこにいるの?」
「魔導士様達は…今…三階の…会議…室で…がはっ!」
 霧のような吐血が侵入者の袖を赤く染めた。
「そう…わかったわ」
 侵入者は兵士の身体を背後で燃え盛る黒い炎に投げ込んだ。炎に呑まれた兵士はあっという間に消し炭と化した。侵入者はそれを顧みることなく一階に続く階段を上がっていった。
 
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