異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第六章

魔法の練習

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 次の日。私とマイカは魔王城の訓練場に足を運んでいた。

 魔王はマイカが魔法使いであることを知るや否や彼女を私の魔法担当に任命した。そして、私は魔王からこの世界の魔法について彼女から学び、いくつか習得するよう指示を受けたのだ。いわゆる魔法の授業だ。
 まあ、元々私は進学校出身だし、勉強は苦手ではないんだけどね。運動は逆に苦手であったが、そこは魔王の力やズワースの修行のおかげでほぼ完全にカバーできている。
 それにしても、魔法なんていうファンタジーなスキルを学ぶことになるとは夢にも思わなかった。てか、この世界に来てけっこう経つのにいまだに魔法を覚えていなかったのか私は。ラノベならばもっと序盤に習得するはずなのにね。まあ、今までなくても別に不便していなかったけど。

「それじゃ、説明しながらだけど簡単に教えるわね」

 装備担当のクロムから支給された新しい杖を立ててマイカは言った。

「ええ。お願いするわ」

 てっきり最初は座学で魔法の成り立ちから云々教えてもらうかと思ったけど、まさかいきなり実践とは正直驚いた。『身体で覚えろ』ってヤツかしら。思えばズワースもそういうノリだったわね。

「…といっても私も誰かに教えるのは初めてだからね。あまり細かいことは教えることはできないかもだけどいいかしら?」
「ええ。大丈夫よ」
 マイカからの確認に私は頷いた。

「じゃあ、今日は初級の攻撃魔法をやってみるわね」
 そう告げたマイカは自分の杖を遠くの的に向けた。

「まず、自分の武器、私の場合はこの杖の先端に魔力を集中させるの。武器がない場合は自分の手のひらでもいいわ」

 マイカは自分の魔力を集中させた。なるほど。確かに彼女の杖の先端に魔力が集まっているのを感じる。

「そして、空気中に漂っている属性の源素げんそ…今回は『火』の源素を集めた魔力に引き寄せるの」
 『属性の源素』か…ラノベやゲームで言うところのマナとかエレメントとかいうヤツかしら。そう考えている間にマイカの杖の先端が赤く輝き出した。

「で…十分な源素が溜まったところで…放つ!『フレイム』!」

 マイカが魔法の名前を唱えると彼女の杖の先端から火球が放たれ、ターゲットの的を炎で包みこんだ。

「おお!」
 私は思わず歓声をあげた。

「…とまあ、これが基本のステップよ。慣れれば一秒もかからずに撃てるようになるわ」
 へえ。そんなに短縮できるのね。確かにメイリスの仲間の魔法使いも短時間で魔法を使っていたわね。

「それじゃ、やってみて」
「わ、わかったわ」

 そう言われて私は手のひらを別の的に向けた。

「…魔力を集中させるのはいいんだけど…属性の源素とやらはどうやって引き寄せればいいの?」
「どうやってねぇ…何か仕組みがあるらしいんだけど、私の場合は使いたい属性を頭にイメージして集めているってところかしら…?」
「イメージって…そんな感じでいいの?」
「いいのよだいたいで。ダルツ・ダイアンも『だいたいで感じろやぁ!』って泣き叫んでいたんだし」
「誰よそれ…」
 知らん奴の名前出されてもねぇ…。
「まぁ、とりあえず『火が欲しい』って思えばいいのかしら?」
「そうね。そんな感じよ」
 そう言われて意識を集中すると手のひらが赤く輝き出した。おお。いい感じにできそうだ。と、思った瞬間、手のひらの輝くが次第に黒ずんできた。

「…あ、あれ?何これ?」

 どういうことか聞こうとマイカの方を見たが、どうやら彼女にもわからないようだ。

「と…とりあえず…『フレイム』!」

 手のひらから放たれた火球は私がいつも使う黒い炎のように禍々しい黒色に染まっており、的に着弾すると先ほどのマイカの魔法以上に派手に燃え上がった。

「「え…えぇ~?」」

 私とマイカはほぼ同時に戸惑いの声をあげた。

「あ…あんた、魔力以外に何か入れたでしょ?」
「い、いやいや!私は言われた通りにやっただけよ!もしかしたら炎だったからたまたまじゃないの?」

 そう私は推測した。いつも私は魔王の力によって発現させる黒い炎を武器としている。私の魔法が変異したのは
おそらくその影響であろう。すでに消し炭になった的はいまだに禍々しい黒い炎に包まれている。

「ん~…じゃあ、次は『アクア』を使ってみて。水属性の魔法よ」
「わ、わかったわ。やり方はさっきと同じでいいのかしら?」
「ええ」
 水属性か。炎とは反対の属性だがはたしてどうなるか。懸念しながらも私は手のひらに魔力を集中させ、頭の中に水のイメージを浮かべた。

「……『アクア』!」

 そう唱えると同時に的の足元から水柱が発生し、的を包み込んだ。以前、タタリア遺跡でメイリスの仲間の魔法使いから喰らった時と同じだ。そう思っていた矢先に水柱は黒く濁り出し、その中の的はお湯に入れた氷のように溶けていった。

「あ…あれれ?」

 以前喰らった時はこんなんなかった気がするんですけど?

「いやいやいや!絶対なんか入ってるでしょ!」
「だから知らないわよ!」

 なんでじゃあ!
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