異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第六章

反撃

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「いたぞ!いたぞぉ!」

 まっすぐに続く通路の先。ショコラは通路の真ん中に仁王立ちする魔勇者を捕捉した。彼女の周囲は先ほどの薄暗さがうそのように明るい。おそらく照明魔法によるものであろう。ショコラはその勢いを止めることなく即席のハンマーを振り上げ、敵の頭をかち割らんと正面から突撃した。
 当の魔勇者は武器を構えておらず、黒い炎を出してもいない。殺るなら今がチャンス。ショコラでなくともそう考えてしまう状況であった。

「くたばれやぁ!」

 ショコラがハンマーを振り下ろそうとしたその時、魔勇者は目の前の何もない空間を掴み、思いきり振り上げた。

「ふぁっ?!」

 ショコラは目の前の事象に目を白黒させた。青黒の鎧の騎士が何もない空間からまるで手品のように姿を現したのだ。彼はショコラが振り下ろしたハンマーを分厚い盾で容易く受け止め、粉々に砕いた。

「う…うせや…ろぉあっ!」

 驚きの声をあげる暇などなかった。盾の表面から伸びた三本の爪のうち二本がショコラの左肩と脇腹を貫いたのだ。反射的な動作で致命傷を回避したショコラだが、その傷は浅くなかった。

「ショコラ!…てめぇっ!」

 ようやくショコラに追いついたグレイブは彼女の身体を掴み、勢いよく後方に放り投げた。乱暴なやり方ではあるが、これで彼女を敵の攻撃から遠ざけることができた。
 その報復と言わんばかりにグレイブは槍を構え、目前の騎士に目を向けた。ショコラの二の舞にならぬようにグレイブは敵の横に回り込んだ。
 その動きを察知した騎士は右手に持った手斧を使い、敵の槍を打ち払った。

「ちいぃっ!…って何!?」

 槍を払われたグレイブは体勢を整えようと一歩飛び退いた。その瞬間、彼の横の壁から突然身体に包帯を巻いた僧侶と思わしき女が現れた。彼女は手刀を構えながらグレイブに飛びかかってきた。

「こ…こいつ!どこから?」

 僧侶は彼の疑問に答えることなく手刀を突き出した。グレイブは紙一重でその手刀を回避し、喉元を貫かれるという惨劇を逃れた。

「く…くそ!」

 槍で迎撃しようにも間合いが近すぎてその効果を発揮できない。距離をとろうとしても敵の僧侶はその意図を的確に読み取り、張り付くようなフットワークで迫ってくる。グレイブは反撃の機会をいまだに捉えることができない。

「あら?美女に迫られるのはお嫌い?」

 そう挑発しながら僧侶は手刀を突き続けた。そして、焦燥するグレイブの顔を狙い、右腕を引いて拳に力をため込んだ。
 しかし、何かを察知した彼女は途中でその動作を中止し、自らの背後に斬撃のような回し蹴りを繰り出した。そこには僧侶の背後から手刀の一撃を狙おうとしたフェイがいた。フェイはその鋭い蹴りによって手刀を打ち払われ、援護を妨害されることとなった。

「くっ…!」

 眉をしかめるフェイをよそに、僧侶は飛び上がり、空中で前転をしてフェイの背後をとろうとしている。
 このままではこの僧侶と騎士に挟み撃ちにされる。そう判断したフェイは素早く振り返り、僧侶からの攻撃を警戒した。

「『スロウ』!」

 着地と同時に僧侶は右手をかざし、補助魔法を唱えた。その手の切っ先にいたフェイは全身に見えない何かがまとわりつくような感覚に襲われ、自身の素早さを奪われた。

「し、しまった!」

 これでは満足に反撃も回避もできない。彼の背後にいたグレイブもその状況を声で理解したが、魔勇者と騎士を相手にしている今では援護もままならない。
 フェイはこの状況を打開する術を思案しようとした。僧侶はそんな暇など与えないと言わんばかりに手刀を構え、彼の胸を貫こうとしている。

「派手にやられたようでありますな…」

 通路の端、エントランスに出る扉の前でバジルは負傷したショコラに応急処置を施していた。出血こそ少なくはないが急所は外れている。命に別状はないようだ。
 一通り処置を終えたバジルは懐から出した望遠鏡でグレイブ達の様子を眺めた。

「…さすがは魔王軍といったところでありますか…」

 彼は二人が窮地に立たされていることを理解し、背中の矢筒から矢を二本取り出した。魔勇者の手下の三人のうち、最も危険と思われる包帯を巻いた僧侶。彼女に狙いを定めてバジルは弓をひいた。


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