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第六章
敗走
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「うごごご…皮ふが焼けるぅ…」
グレイブに抱えられながらショコラは苦痛に悶えた。
屋敷からやや離れた森の中。撤退した『赤い牙』の四人は怪我の治療にいそしんでいた。魔勇者達が放った黒い水の魔法によって彼らの衣服はところどころが溶解しており、肌の数か所は焼けただれていた。
「あと少し『バリア』が遅れていれば我々は骨になっていたであります」
やけどした肌に回復魔法を当てながらバジルは呟いた。黒い激流に呑まれながら彼はとっさに防御魔法を唱え、全員を守ったのだ。
「おいどういうことだ?魔勇者に手下がいるとは聞いてねぇぞ?」
木に寄りかかったグレイブはフェイに文句をつけた。
「『人は三日で変わる』ということわざがある。敵も無為無策ではないということだ」
フェイは冷静に答えた。しかし、その内心は穏やかなものではなかった。
「くそ…敵が一人ならばあそこで勝てたんだがよ…」
抱えていたショコラをバジルに渡しながらグレイブは愚痴をこぼした。
「ともあれ、今回の報酬が無事だっただけでも御の字だと思え。魔勇者の首はあくまでついでだったのだ」
フェイは懐から怪しげな包みを取り出した。その中には結構な金額の報酬が入っていた。
「…やはり魔勇者とやらは一筋縄ではいかないようであります」
ショコラの治療を終えたバジルは自身の感想を述べた。
「同感だな。力だけでなく、魔法にも長けているようだったしな」
「小細工にもな」
フェイの感想にグレイブが言葉を付け加えた。睡眠ガスに姿を消す道具、爪を伸ばす盾。敵の使うアイテムは彼らを存分に翻弄した。
「正直、奴らが屋敷に入る前に仕留めるべきだったかもしれないであります」
バジルは自分の判断ミスを後悔した。
「いや…あの顔触れから見るにどのみち楽にはいかなかっただろう」
フェイは怪しげな包みを懐にしまった。
「確かに…。ですが、それなりの収穫はあったであります」
「そうだな。奴らの手の内はある程度理解できた」
バジルとフェイは今回の戦いを振り返った。敵の特徴、戦術、地形、そして状況。それらを把握し、冷静に対処すれば勝てない相手ではない。二人はそう確信していた。
「魔勇者め!今度会ったらノーキンカリバーの仇をとってやらぁ!」
「まーだ根にもってんのかよ…」
憤慨するショコラにグレイブはあきれ顔を作った。
「それはそうと…依頼人に渡した『アレ』って何だったんだ?」
思い出したかのようにグレイブはフェイに尋ねた。
「『アレ』か…どうやら何かの苗木のようだが…」
その様子からしてフェイもよく知らないようだった。
「あれはおそらく…『へルフランの木』であります」
バジルの言葉に対し、グレイブとフェイは彼の方に目を向けた。
「へルフラン?」
「知っているのか?」
「いえ…自分も噂で聞いた程度であります。イーサ島で新種の植物が見つかったと。おそらく研究のためにあの砦に保管されていたと思われるであります」
バジルは懐から取り出したメモ帳をめくりながら答えた。
「ふーん…で、そいつはどんな植物なんだ?」
「残念ながら…そこまではわからないであります」
バジルは首を横に振った。
「まあいい。依頼に従い、報酬をもらう。猟兵はそれで充分だ」
「ああ…ていうか、今日は魔勇者との戦闘で疲れた。早く飯食って休みたいぜ」
グレイブはすっかり疲れていた。
「あまり会いたくはないが…もし会ったら借りは倍にして返してやるとしよう」
「同感であります」
一通り治療を終えた四人は森を抜けようと足早に駆け出した。
グレイブに抱えられながらショコラは苦痛に悶えた。
屋敷からやや離れた森の中。撤退した『赤い牙』の四人は怪我の治療にいそしんでいた。魔勇者達が放った黒い水の魔法によって彼らの衣服はところどころが溶解しており、肌の数か所は焼けただれていた。
「あと少し『バリア』が遅れていれば我々は骨になっていたであります」
やけどした肌に回復魔法を当てながらバジルは呟いた。黒い激流に呑まれながら彼はとっさに防御魔法を唱え、全員を守ったのだ。
「おいどういうことだ?魔勇者に手下がいるとは聞いてねぇぞ?」
木に寄りかかったグレイブはフェイに文句をつけた。
「『人は三日で変わる』ということわざがある。敵も無為無策ではないということだ」
フェイは冷静に答えた。しかし、その内心は穏やかなものではなかった。
「くそ…敵が一人ならばあそこで勝てたんだがよ…」
抱えていたショコラをバジルに渡しながらグレイブは愚痴をこぼした。
「ともあれ、今回の報酬が無事だっただけでも御の字だと思え。魔勇者の首はあくまでついでだったのだ」
フェイは懐から怪しげな包みを取り出した。その中には結構な金額の報酬が入っていた。
「…やはり魔勇者とやらは一筋縄ではいかないようであります」
ショコラの治療を終えたバジルは自身の感想を述べた。
「同感だな。力だけでなく、魔法にも長けているようだったしな」
「小細工にもな」
フェイの感想にグレイブが言葉を付け加えた。睡眠ガスに姿を消す道具、爪を伸ばす盾。敵の使うアイテムは彼らを存分に翻弄した。
「正直、奴らが屋敷に入る前に仕留めるべきだったかもしれないであります」
バジルは自分の判断ミスを後悔した。
「いや…あの顔触れから見るにどのみち楽にはいかなかっただろう」
フェイは怪しげな包みを懐にしまった。
「確かに…。ですが、それなりの収穫はあったであります」
「そうだな。奴らの手の内はある程度理解できた」
バジルとフェイは今回の戦いを振り返った。敵の特徴、戦術、地形、そして状況。それらを把握し、冷静に対処すれば勝てない相手ではない。二人はそう確信していた。
「魔勇者め!今度会ったらノーキンカリバーの仇をとってやらぁ!」
「まーだ根にもってんのかよ…」
憤慨するショコラにグレイブはあきれ顔を作った。
「それはそうと…依頼人に渡した『アレ』って何だったんだ?」
思い出したかのようにグレイブはフェイに尋ねた。
「『アレ』か…どうやら何かの苗木のようだが…」
その様子からしてフェイもよく知らないようだった。
「あれはおそらく…『へルフランの木』であります」
バジルの言葉に対し、グレイブとフェイは彼の方に目を向けた。
「へルフラン?」
「知っているのか?」
「いえ…自分も噂で聞いた程度であります。イーサ島で新種の植物が見つかったと。おそらく研究のためにあの砦に保管されていたと思われるであります」
バジルは懐から取り出したメモ帳をめくりながら答えた。
「ふーん…で、そいつはどんな植物なんだ?」
「残念ながら…そこまではわからないであります」
バジルは首を横に振った。
「まあいい。依頼に従い、報酬をもらう。猟兵はそれで充分だ」
「ああ…ていうか、今日は魔勇者との戦闘で疲れた。早く飯食って休みたいぜ」
グレイブはすっかり疲れていた。
「あまり会いたくはないが…もし会ったら借りは倍にして返してやるとしよう」
「同感であります」
一通り治療を終えた四人は森を抜けようと足早に駆け出した。
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