異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第八章

爆破された教会

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「ありゃあ~。これはひどいっスねぇ…」

 デワフ山の中腹付近。建物があったと思われる場所に積まれたがれきの山の近くでヌコは呟いた。

「二日酔いを我慢して駆けつけてみれば…まさかこんな有様とは…」

 魔の女神、ファナトスを祀る教会。デワフ山支部長を務めるウェアウルフ族のコリンズはこの教会を中心として活動し、山全体を統括していた。
 先日、コリンズからの定期的な連絡が途絶えたことを不審に思った魔王は調査のためにヌコをデワフ山に派遣した。現場に到着した彼女が最初に目にしたのは粉々に破壊された教会の姿であった。

「ファナトス様が人間に嫌われているって話は有名なんスけど…ここまで木っ端みじんにされるとはねぇ…」

 がれきの下敷きになった長椅子やオルガンを目のあたりにしてヌコは思わずため息をついた。

「ヌコ様!」
 上空から声が響き、ヌコは顔を上に向けた。その声の主はハーピーのネリー。アウルの部下であり、今回の調査任務においてヌコを移動魔法でこのデワフ山に運んだのも彼女であった。

「おう。そっちはどうっスか?」
「駄目でした…彼の部下達の亡骸があちこちに…」
 ヌコの問いかけにネリーは首を横に振りながら答えた。彼女はヌコがファナトス教会跡地を調べている間、上空から周辺の様子を探っていたのだ。

「南側の洞窟付近には剣で切り裂かれたグレイウルフが数体。洞窟内部には炎魔法の痕跡が見られました。そして、教会付近で見つかった亡骸の全ては眉間にクナイが刺さっていました」
 ネリーはゆっくりと着陸しながら報告した。
「マジっスか…」
「ただ、コリンズ様の遺体のみ確認できませんでした。そちらにはいらっしゃいませんでしたか?」
「う~ん…がれきの下にいるかもとは思ったっスが…それらしい匂いはしないっスねぇ…」
 ヌコは首を傾げながら答えた。
「もしかして、お持ち帰りされちゃったとか?」
「ま、まさかぁ。グレイウルフならともかく、コリンズ様の身体からは大した素材は採取できないと思われますけど…」
 ヌコの推測をネリーは手を振りながら否定した。
「じゃあ裏切ったとか?こないだウチに入ったあの魔法使いの娘みたいに」
「それもありえないと思います。コリンズ様は部下を大事にする方のはずですし…」
「言われてみればそうっスね…」
 ヌコはコリンズのプライベートを思い出した。以前、野暮用でデワフ山を訪れた時、他の誰にも見せないような『イイ顔』で部下のグレイウルフ達に食事を与えている姿をこっそりと見たことがある。そんな彼が部下を殺した相手の軍門に下るなど考えられなかった。
「やはりご心配ですか?」
「ったり前っスよー!あいつはあたしのスパダチ、スーパーダチっスよ!阿吽の呼吸の仲っスよ!」
 ヌコは鼻を鳴らしながら力説し、教会跡地に目を向けた。
「…当の本人はかなりうざがってましたけど…」
 力説するヌコの背中に向けてネリーはボソッと呟いた。
「あーあ。こんなことならもっと多く金を借りときゃよかったっスねー…」
 舌の根も乾かぬうちにヌコは友人に対する言葉とは思えぬ言葉を漏らした。
「そういうとこぉ…」
 ネリーはあからさまに軽蔑するような目つきでヌコの背中を見つめた。
「あ~…せめてファナトス様が何か教えてくれるといいんスけどねぇ…」
 教会に祀られたファナトスの像は教会の崩落に巻き込まれ、膝から上は形を失っている有様であった。
「教会そのものを破壊するなど…敵は相当ですね…」
「ホントっスねー…っておや?」
 ネリーの話を聞きながらファナトスの像の一部と思われる翼の一部を手に取ったヌコは何かに気づいた。

「その破片…何か妙ですね?」
「そうっスね。この辺り、変な『よどみ』があるっス」
 ヌコは翼の破片の一部を指さした。すると、ヌコの魔力に呼応するかのように破片の一部から正三角形状の赤色が浮かび上がり、その周囲の破片が崩れ落ちた。

「な…なんスかこれ?」 
 ヌコは手に取った赤い正三角形の物体をまじまじと見つめた。
「『よどみ』の正体はこれですか…?」
「ただの異物混入ってわけではなさそうっスけど…」
 ただの石像の装飾品とは思えぬその物体の正体はネリーにもわからないようであった。

「…とりあえず、魔王様に報告しましょう」
「そうっスね。コノハあたりにも見てもらうとするっスかね」
 ヌコは赤い三角形を鞄にしまった。

「…妙な物を残してくれたっスね…ファナトス様…」

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