上 下
127 / 261
第七章

自己紹介

しおりを挟む
 三日月が昇り始めた雲一つない夜。ゴロンダ遺跡を出たリエル一行はまっすぐにハガーの家に向かった。その内装は鍛冶屋らしく金槌やヤットコなど専門の道具であふれており、持ち主の性格を体現するかのように乱雑していた。
 居間に案内され、ハガーからお茶を出されたリエル達はソファーに腰掛け、その向かいにはハガーとオーカワがゆったりとくつろいでいた。

「改めて紹介するぜ。俺の名はハガー・メタック。ゴロンダで一番の鍛冶師さ」
 ハガーは自身を親指で指しながら自信満々に名乗った。
「で、こっちの図体のでかいドワーフはオーカワ・ナシタ。ゴロンダで一番のガラクタ職人。俺のダチ公さ」
「ガラクタじゃなくて発明だっつってんだろ!こないだ作った『店番くん』なんか最高の出来だったろうが!」
 不服な紹介をされたオーカワはすかさず文句をつけた。
「どこがだよ!あの不細工人形、玄関の魔除けがいいとこだぜ!」
 ハガーは玄関に放置された何とも形容しがたい表情の人形を指さした。
「つか、早く金返せよ!そのために俺は遺跡まで迎えに行ったんだぜ?」
「うるせぇ!俺のセンスがわからねぇ奴に返す金なんかねぇよ!」
「おいてめ!何さらっと開き直ってんだよ!」
 ドワーフ二人の不毛な口論を眺めながらリエルはそっと手を上げた。
「あのー…そろそろしゃべってもいいかな?」
 リエルはあきれ顔で口を開いた。
「あ、わり」
「どうぞどうぞ」
 場を察した二人はピタッと争いを止めた。

「私はリエル・アーランド。ロクア地方出身の冒険者よ」
 リエルは胸元に右手を当て、自己紹介した。ちなみに衣服はハガーの家に来る途中で着替えを済ませている。
「ロクア地方?確かエキョウ王国から東にある小さな地方だったな」
「知ってるの?」
「ああ。一度行ったことあるが、なかなかいいトコだったぜ。穏やかな気候で、飯も空気もうまかった。ああいう所で暮らすのもいいかもな」
 ハガーから自分の故郷をべた褒めされてリエルは思わず頬が緩んだ。
「なーにをにやけてんのよ」
 ビオラは隣に座るリエルを肘で小突いた。

「あたしはビオラ・ロンブル。同じくロクア地方の冒険者。リエルこいつのツレの魔法使いさ」
「アズキ・コウタケです。薬師をやってます」
 アズキが深々とおじぎし、頭を上げた直後、テーブルの下から黒い豚が頭を乗り出した。
「トニーだ。見ての通りのイケメンナイス豚よ」
「引っ込んでろ。クソウザ豚野郎」
 ビオラは足元の頭を手で抑えつけた。
「プギャア。抑えつけるなら美人のケツで抑えつけてくれぇ」
「ねぇアズキ。こいつ黙らせる薬とか持ってない?きっつい睡眠薬とかさ」
「ま、まぁまぁ。お茶でも飲んで落ち着いてよ」
 物騒な要求を出してきたビオラをリエルはなだめた。
「あっはっは!なかなか面白いパーティーじゃねぇか!三人ともかわい子ちゃんだし」
「全くだな!どうだ?俺の嫁に来ないか?」
 オーカワは冗談気味にリエルに手を差し出した。突然の言葉にリエルは口にしていたお茶を噴出した。
「んな…?ゲホゲホ!」
 リエルは思いきりむせこんだ。
「何を言ってんだお前は」
 隣の友人を肘でつつきながらハガーはツッコミを入れた。
「この姉ちゃんは俺が目をつけていたんだぞ?」
 まさかの話の第二弾であった。
「え、えええっ!?」
 どう反応してよいかわからずリエルは目を白黒させた。
「ああん?お前は隣のビオラちゃんで我慢しとけや!同じちんちくりんでお似合いだぜ?」
「ばっきゃろう!俺は貧乳な子は好みじゃねぇんだよ!」
 口論が再び始まった。
「やかましいわアホンダラぁ!」
 目の前でハラスメントな会話を聞かされたビオラは足元のトニーを持ち上げ、ドワーフ二人目掛けてその胴体を投げつけた。

「「へぶしっ!」」

 大き目の豚の質量をまともにくらい、二人はソファーごと仰向けに倒れこんだ。
「ったく!もういいから本題に入るわよ!リエル!早くアレ出して!」
「あ、う、うん…」
 怒号に気圧されてリエルはテーブルの上に折れた聖剣をそっと置いた。

「…解せぬ」

 思わぬとばっちりを受けたトニーは床に転がりながらボソッと呟いた。
しおりを挟む

処理中です...