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第八章

お馴染みのふくろ

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「派手に荒らしていったみたいね…あの山賊ども…」
「そうね。でも、いくつかは残されているわ。さしずめ、金になりそうな見た目の物ばかり盗っていったのでしょうね」
 静葉とメイリス、コノハは道中発見した広い部屋の中を物色していた。この部屋に来るまで、遺跡の入り口付近で繰り広げられたような大規模な戦闘ななく、せいぜい野生のネズミ型の魔物のビルドラットや見回りの山賊の一人か二人に出くわす程度であった。
 現在、静葉達が調査している部屋は先に潜入していた山賊達によってすでに荒らされており、開けっ放しの棚や宝箱、無造作に割られた壺が散乱していた。残っている物といえば地味な見た目の雑貨と思しき道具類ばかりであった。
『もったいないねー。こういう物にこそ価値があるってのにさー』
「そんなもん?じゃあ、これなんか意外とレアアイテムだったりするの?」
 静葉は足元に落ちていた藍色のサックを拾った。
『おお?それはまさか…』
 サックを注視したコノハは何かに気づいたような反応を示した。
『魔勇者様!試しにそこの瓶を入れてみてよ!』
 コノハはフロートアイの尻尾で近くの床に転がっている空っぽの一升瓶を指した。
「これ?明らかにサックより大きくて入らなそうだけど?」
 静葉は訝しみながら瓶を拾った。
『まあまあ。いいからやってみてよ』
 言われるままに静葉は瓶をサックに突っ込んだ。すると瓶はサックの中に吸い込まれるようにスムーズに入っていき、やがて手品のように消えてしまった。
「は?ええ?」
 驚いた静葉はサックの中身をあらためた。そこには真夜中のような暗闇が広がっており、瓶の存在を視認することはできなかった。
『よし。次はそのサックの中に手を入れて瓶を取ってみて』
「え?大丈夫なの?」
 静葉は恐る恐るサックの中に手を突っ込んだ。
「うう…こういう罰ゲーム、テレビで見たことあるわよ…」 
 ぼやきながらサックの中をまさぐると、ほどなくして瓶の感触を確かめることが出来た。静葉はそれをつかみ取り、手を引き出すとまるで手品のように先ほど入れた瓶が姿を現した。
「ええ?マジなのこれ?」
『やっぱり!僕の思った通りだ!このサックは特殊な空間を中に圧縮し、質量以上の容量を持つ魔法のサックなんだよ!』
 フロートアイの向こう側でコノハは目を輝かせながら自らとフロートアイの尻尾を同時にピコピコと振っていた。
「RPGでお馴染みの何でも入るアイテム入れってわけね」
 興奮するコノハとは対照的に静葉は冷静に理解した。
『いきなりこういうのが手に入るなんて幸先いいねー!これからは見つけたアイテムをどんどんそいつに詰めて持ち帰ってよ!』
「そうさせてもらうわ。正直、大量の荷物をどうやって持ち帰ろうか悩んでいたからね」
 静葉は鼻を鳴らし、藍色のサックを背負った。

「あら。いい物を見つけたみたいね。さっそくお願いしてもいいかしら?」
 背後から声をかけられた静葉が振り向くと、棚から見つけた十冊ほどの書物を右手の平にバランスよく積んでいるメイリスが立っていた。
「けっこう残っていたわね。この世界の山賊は本に興味がないの?」
「どの本も古代文字で書かれていたからね。頭の悪い山賊達には価値が理解できなかったんじゃない?」
 そう言いながらメイリスは積み上げた本の山の真ん中付近の一冊を器用に抜き取り、静葉に投げ渡した。
「古代文字?」
 静葉は受け取った本をパラパラとめくった。その書体は元の世界はおろか、魔王城でも見たことのないものであった。しかし、魔王の力の影響で彼女はその内容を容易く理解することができた。
「こんなファンタジーな文字を勉強せずに読めるようになるなんて…ラノベみたいな都合のいい力だこと」
 溜息まじりに静葉は呟いた。
「あら、羨ましいわね。私なんか古代文字の勉強に苦労したものだけどねぇ」
 メイリスは苦笑しながら昔を振り返った。
「なんだってまぁ、力を得るだけで読めるようになるのかしら?」
『魔王様は千年前の古代文字にも精通しているからね。力を通じてその知識を共有できるようになっているのかもしれないね』
「へぇ~。あいつってけっこうインテリなのね」
『そりゃそうさ。魔王になるからには文武両道の徹底的な英才教育が必要だからね』
「そいつは面倒ね…私にはとても務まらないわ」
 静葉は肩を竦め、手にした本を背中のサックにしまい込んだ。
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