異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第八章

恋の反面教師

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「…けっこう、荒らされてますね…」
「そうね。例の先客とやらがかたっぱしから漁っていったのかもね」

 エイルとマイカは周囲を警戒しながら道中発見した部屋を探索していた。マイカが使用した照明魔法『ライト』によって部屋の中は隅々まで照らされており、晴天の屋外のように視界は良好であった。ちなみに『ライト』は本来僧侶が用いる魔法であるが、習得自体は容易であるため魔力さえあれば魔法使いや戦士でも使用は可能である。
「お!なんか妙な魔力を感じるわねこの輪っか。一応持っていきましょ」
 マイカは棚に残された赤と青の一組の輪っかを拾い、鞄に詰め込んだ。どうやら先客の山賊達はかなりの目こぼしがあったようだ。

 棚のチェックを一通り終えたマイカはふと同行者の少年に目を向けた。彼は部屋の入り口を見張り、不測の襲撃に備えていた。

(…やっぱり…全然似てないわね…)

 マイカは自分が冒険者だった頃、ともにパーティーを組んでいた一人の幼馴染の事を思い出していた。その男に比べて今、目の前にいる少年は顔も性格も戦い方も全く違う。

(…腕は立つみたいだけど…)

 先日のホレイ地方での任務と今日の訓練場の様子から見るに、エイルの実力は確かなものであった。Aランクの冒険者でも一人ではまず挑まないほどに危険なミノタウロスやサイクロプスを容易くいなす実力。兜の下のなよなよとした表情からは想像つかないものである。どれほどの修行を積んだのか興味はあるが、それよりも気になる点が一つあった。

「あのさ…」
「え?」
 背後から声をかけられ、エイルは驚きながら振り向いた。

「…あなたって…シズハのことが好きなの?」

「え…えええっ?」

 どうやら図星であったようだ。顔を赤らめておもむろに狼狽していた。

「ど、どうしてそんな…?」
「なんとなくわかるわよ。ちょくちょくシズハのことを見ていたみたいだし、さっきもあの子と組めなくてがっかりしていたじゃない?」
「う…」
 鋭い指摘にエイルは言葉を詰まらせた。
「その反応…もしかして初恋だったりする?」
「き、急に言われても…そ、そうなんでしょうか…?」
 目を白黒させながらエイルはもぞもぞと返事した。その態度が気に入らなかったマイカは彼の頬に手を当て、思いきり引っ張った。

「いたたた!」
「煮え切らないわね全く!他人に自分の恋を知られるのが怖いっての?」
 頬から手を放し、マイカは問い詰めた。
「そりゃ恥ずかしいし、怖いに決まってるわよ!自分の恋愛をネタにされるなんて考えたくもないもの!」
 エイルの目をしっかりと捉えてマイカは話を続けた。その気迫に押されてエイルは言葉が出なかった。
「でもね…他人には言わなくてもいいからせめて自分にだけはハッキリとしなさい!」
「…自分に?」
「そうよ。そこまで他人に言われはしないし、何より、自覚することで一歩踏み出すことができるはずよ」
 マイカの言葉をエイルは静かに聞いていた。
「あとは少しずつでもいいからどんどんアタックしていきなさい。でないと、私みたいに後悔するわよ?」
「え?『私みたい』って?」
 エイルは思わず聞き返した。
「…あ!う…うん…まぁ、その…何度も言いたくはないんだけど…」
 申し訳なさそうな表情でマイカは自分の頬をポリポリとかいた。
「私も…そういうクチだったのよ…幼い頃から一緒だった人がいたんだけどそいつを好きだってなかなか認められなくて…そばにいられるだけでいいかなってぬるま湯みたいな関係で満足しちゃって…その先に進むのが怖かったのよ…」
 声のトーンを下げ、目を伏せながらマイカは懺悔するようにこぼした。
「そんな風にビビっている間に…他の娘に先を越されてね…やけになって魔王軍ここに来たってわけなのよ…」
「そうだったんですか…」
「まぁね…その、反面教師かもしれないけど…私でよかったらいつでも相談に乗るわよ?」
「あ、ありがとうございます…マイカさん…」
 エイルは深々と頭を下げた。
「もう。そんなにかしこまることないわよ。歳も近いんだし、ため口で話しなさいよ」
 エイルが頭を上げると、マイカは彼の鼻の頭を指でつついた。
「わ、わかりました」
 エイルがそうぎこちなく返事するやいなや、彼の頬に素早いビンタがさく裂した。
「言ってるそばから!次敬語だったら二回ビンタするからね」
「わ、わかったよ…マイカ…」
 今度は気を付けて返事した。
「よし!それじゃ気を取り直して行くわよ!」
 そう言いながらマイカは魔法使いであるにも関わらず騎士であるエイルを置いて先に進んだ。
「あ!待ってくだ…待ってよ!」
 慌ててエイルは後を追った。

(…どちらかというとフィズに似てるわね…)
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