異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
137 / 261
第八章

二手に分かれる

しおりを挟む
 そんなこんなで四人と一体はゴロンダ遺跡に侵入した。遺跡の内部の構造はペスタ地方にあったタタリア遺跡と少し似ていたが、罠の気配はなく、先に侵入した山賊達が荒らしていった痕跡があちこちに見られた。
 静葉達は周囲を警戒しながら細長い通路をまっすぐ歩いていた。

「…今更気が付いたんだけど、今度のそれってちょっとでかいのね」
 静葉は目の前に浮かぶフロートアイマーク3RXに声をかけた。以前、タタリア遺跡で同行したマーク2カスタムは野球ボールほどの大きさであったが、このマーク3RXはドッジボールほどの大きさであった。
『ああこれ?今回のマーク3RXは色んな新機能を追加したものでね。その影響で以前のタイプより大型化しちゃったのさ。この辺は今後の課題だね』
 タヌキ風の尻尾をピコピコと振りながらフロートアイが声を発した。
「新機能?」
『そう!例えば今、このフロートアイを中心とした広範囲内に妨害魔法を発動させているんだ。これによって外側からは中のみんなの魔力を探知することができない。つまり、目視以外で僕達を発見することができないのさ』
「妨害魔法…いわゆるジャミングってヤツね」
『さらに、この妨害魔法は強めの魔力をも隠すことができるくらい強力でね。理論上は魔王様が本気で暴れても気づかれないはずさ。フフン』
 フロートアイの向こう側で操縦しているコノハが鼻を鳴らした。
『他にも――おや?』
 話の途中で静葉達は足を止めた。正面に目を向けると、通路がT字路になっており、左右に道が分かれていた。
「これは…どっちに進めばいいのかしら?」
 静葉は首を傾げた。
『うーん。どちらからも魔力の反応は複数あるみたいだね』
「どっちにも敵はいるってことね」
「それじゃ、二手に分かれない?」
 すかさずメイリスが提案した。
『お、いいね。その方が効率良く探索できそうだ』
「でもはぐれたらどうするの?意外と複雑よこの遺跡」
『ふふふ。心配はご無用さ』
 静葉の懸念に対し、不敵に笑いながらコノハはフロートアイを操作し、尻尾の先端から一本の楔形の石を床に打ち込んだ。
「それは何?」
『特殊な魔力信号を発する目印さ。迷ったらこれをたどるようにしてね』
「ビーコンってヤツね。それじゃ、私とメイリスは左に行くからあなた達は右をお願いね」
 静葉はエイルとマイカに指示を出した。
「わかったわ。じゃあ、何かあったらここで落ち合うとしましょう」
 マイカは快く承諾した。一方でエイルはどこか不服そうな表情をしていた。
「ほら、行くわよ」
「あ、は…はい…」
 戸惑うエイルの腕を強引に引っ張り、マイカは右の通路へ進んだ。
「…であんたはどっちにつくの?」
『そりゃあ魔勇者様の方に決まってるでしょ。そっちの方がおもしろ…コホン。良いデータが採れそうだからね』
「オイ。本音が一瞬漏れてるわよ」
『イヤだなぁ。どっちも本音だよ』
「余計タチ悪いわ」
 静葉は苦い顔でツッコミを入れた。
「まぁいいじゃない。私達もデートとしゃれこみましょ」
 メイリスは静葉の左腕に抱き着き、自分の胸に押し付けた。
「ちょ…当たってるわよ」
「うふふ。当ててんのよ」
 メイリスはわざとらしい笑みを浮かべた。
「もう…ラノベの主人公じゃないんだし、そんなんいらないわよ」
 静葉は困惑しながら振りほどこうとしたが、見た目以上の力によってがっちりと押さえられていた。
「だいたい、あなたの身体冷たいのよ。触れてるだけでヒヤッとすんのよ」
「ごめんなさいね。冷え性なものでね」
「嘘つけアンデッド!」
『あははは。デートの様子はバッチリ撮ってあげるからねー』
「やめんかデバガメ!」
 周囲を飛び回るフロートアイを振り払うかのように静葉は赤いマフラーをブンブンと振り回した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...