143 / 261
第八章
仮面の人物
しおりを挟む
「あ~、びっくりした~」
崩落が収まった頃合いを見計らい、メイリスは周囲のがれきを押しのけた。衣服についた埃をパンパンと払い、彼女は辛うじて残っていた窓を覗いた。彼女の腕力をもってすれば全身を埋め尽くすほどのがれきを押しのけることなど動作もないことであった。
「…とりあえず、あの子達は無事みたいね…」
窓から見下ろしたその先を見ると、折れた聖剣に光を灯し、仲間の安否を気遣う少女がいた。少女は頭上から見下ろすかつての仲間の存在に気づくことなく、ドワーフ二人と何かを話していた。かつての仲間の無事を確認したメイリスはほっと胸をなでおろした。
「あとは…」
メイリスは後ろを振り向き、暗闇に包まれた空間の中、今優先すべきもう一人の少女を捜索を始めようとした。
『今の魔力反応は空属性上級魔法の『メガヘビィ』、あるいはそれを発動させる魔法アイテムによるものだね』
周囲のがれきの山のどこかから声がした。
「あら、そっちも無事だったみたいね」
『うん。マーク3RXにダメージはほとんどない。ただ、がれきが邪魔で浮遊できないし、周囲が見えない。この辺りも今後の課題だね』
現在の状況に反してフロートアイマーク3RXの操縦者――コノハは冷静な返事をした。
「確かに課題ね。今そっちに――ん?」
足を一歩前に出したメイリスは何かに気づき、表情を硬くした。
『そこから右に三メートル先、何かがいる!』
コノハもまた、何かの存在に気づいたようであった。彼は埋まったままのフロートアイからメイリスをナビゲートした。
メイリスは足元のがれきを右側に蹴り飛ばした。その先にいる『何か』はがれきを回避し、反撃のクナイを投げつけた。
「…ビンゴ!」
顔面に飛んできたクナイを最低限の動きで回避したメイリスはその射線と部屋の構図から敵の位置を割り出し、そこに向かって駆け出した。
「なにっ!?」
何者かはその正確な動きに驚き、すかさず迎撃のクナイを左の袖から取り出した。
しかし、クナイを投げようとした時にはすでに敵は自分の鼻先三寸まで迫っており、掌底を自分の顔面に叩き付けようとしていた。
「くそっ!」
何者かは真後ろに飛びのき、すんでのところで掌底の一撃を回避することができた。しかし――
「『ライト』!」
メイリスの手のひらから突如強烈な光が広がった。
「ぐおぉ!」
「ふふっ。こういう使い方もあるのよ」
奇策を決めることができたメイリスはほくそ笑んだ。本来、『ライト』は術者の手のひらを中心に光を展開し、暗闇に包まれた屋内の空間を照らすという攻撃力のない照明魔法である。メイリスはこれを応用し、目くらましと相手の正体の確認を同時に行ったのだ。
「お、おのれ…!」
明るく照らされた部屋の中でひるんだ何者かは一つ目を象った仮面に覆われた顔を押さえながら三本のクナイを前方に放った。メイリスはそれを容易くかわし、高速で距離を詰めた。そのまま相手の右腕と右肩を両手でつかみ、一気に関節を外した。
「ぐおっ!」
「これで悪さはできないでしょ!」
そのままメイリスは追撃の蹴りを相手の左わき腹にお見舞いした。仮面の人物は蹴りをあえて受けることで横に吹き飛び、メイリスから距離を取った。
「く…やるな…!」
体勢を立て直した仮面の人物は顔色一つ変えずに右肩の関節をはめ直し、懐から短剣を取り出した。メイリスは相手の一連の動きに妙な違和感を覚えた。関節の着脱はいずれもかなりの激痛を伴う。にもかかわらず相手はまるで痛みなど最初からないかのようにふるまっている。ただの人間にそのような芸当は不可能なはずであった。
「あなたは…何者…?」
メイリスは体術の構えを保ちながら仮面の人物に尋ねた。
「残念ながら教えられぬ…不死の者よ!」
不遜な答えを返した仮面の人物は真正面から高速で距離を詰め、メイリスの首元目掛けて短剣を振るった。その動きを事前に察知したメイリス左足を高く蹴り上げて短剣を打ち払い、宙を舞う短剣をつかみ取った。そして、そのまま短剣を振り下ろし、敵の右手首を切り落とした。
「ぬおおっ!」
仮面の人物は声をあげた。右手を斬られた苦痛ではなく、敵の女僧侶の圧倒的な実力に対する驚愕の声である。右手首の切り口から赤い血を流しながら彼は思考を巡らせた。
(…これ以上は無意味か…!)
そう判断した仮面の人物が指を鳴らすと、黒いつむじ風が彼の周囲を包み込み、風が止むとそこにはすでに仮面の人物の姿はなかった。
「今のは…『ワール』?」
『敵の魔力反応ロスト…どうやったかは知らないけど、敵は退いたみたいだね』
「…そうね」
メイリスにとって気になる点はいくつかあった。仮面の人物は何をしていたのか。なぜいかなるダメージにも耐えることができたのか。なぜ自分を不死の者と見抜いたのか。なぜ詠唱なしで魔法を使用できたのか。わからないことばかりであった。
(…まさか彼も…)
一つの点に関して、メイリスはある仮説を思い浮かべた。しかし、それよりもまず、彼女にはやるべきことがあった。
「…まずはシズハちゃんを助けないとね」
『そうだね。でも、その前に僕を掘り起こしてくれないかな?』
「あ、そうだったわね」
コノハの頼みを受けてメイリスはがれきを掘り起こし始めた。
崩落が収まった頃合いを見計らい、メイリスは周囲のがれきを押しのけた。衣服についた埃をパンパンと払い、彼女は辛うじて残っていた窓を覗いた。彼女の腕力をもってすれば全身を埋め尽くすほどのがれきを押しのけることなど動作もないことであった。
「…とりあえず、あの子達は無事みたいね…」
窓から見下ろしたその先を見ると、折れた聖剣に光を灯し、仲間の安否を気遣う少女がいた。少女は頭上から見下ろすかつての仲間の存在に気づくことなく、ドワーフ二人と何かを話していた。かつての仲間の無事を確認したメイリスはほっと胸をなでおろした。
「あとは…」
メイリスは後ろを振り向き、暗闇に包まれた空間の中、今優先すべきもう一人の少女を捜索を始めようとした。
『今の魔力反応は空属性上級魔法の『メガヘビィ』、あるいはそれを発動させる魔法アイテムによるものだね』
周囲のがれきの山のどこかから声がした。
「あら、そっちも無事だったみたいね」
『うん。マーク3RXにダメージはほとんどない。ただ、がれきが邪魔で浮遊できないし、周囲が見えない。この辺りも今後の課題だね』
現在の状況に反してフロートアイマーク3RXの操縦者――コノハは冷静な返事をした。
「確かに課題ね。今そっちに――ん?」
足を一歩前に出したメイリスは何かに気づき、表情を硬くした。
『そこから右に三メートル先、何かがいる!』
コノハもまた、何かの存在に気づいたようであった。彼は埋まったままのフロートアイからメイリスをナビゲートした。
メイリスは足元のがれきを右側に蹴り飛ばした。その先にいる『何か』はがれきを回避し、反撃のクナイを投げつけた。
「…ビンゴ!」
顔面に飛んできたクナイを最低限の動きで回避したメイリスはその射線と部屋の構図から敵の位置を割り出し、そこに向かって駆け出した。
「なにっ!?」
何者かはその正確な動きに驚き、すかさず迎撃のクナイを左の袖から取り出した。
しかし、クナイを投げようとした時にはすでに敵は自分の鼻先三寸まで迫っており、掌底を自分の顔面に叩き付けようとしていた。
「くそっ!」
何者かは真後ろに飛びのき、すんでのところで掌底の一撃を回避することができた。しかし――
「『ライト』!」
メイリスの手のひらから突如強烈な光が広がった。
「ぐおぉ!」
「ふふっ。こういう使い方もあるのよ」
奇策を決めることができたメイリスはほくそ笑んだ。本来、『ライト』は術者の手のひらを中心に光を展開し、暗闇に包まれた屋内の空間を照らすという攻撃力のない照明魔法である。メイリスはこれを応用し、目くらましと相手の正体の確認を同時に行ったのだ。
「お、おのれ…!」
明るく照らされた部屋の中でひるんだ何者かは一つ目を象った仮面に覆われた顔を押さえながら三本のクナイを前方に放った。メイリスはそれを容易くかわし、高速で距離を詰めた。そのまま相手の右腕と右肩を両手でつかみ、一気に関節を外した。
「ぐおっ!」
「これで悪さはできないでしょ!」
そのままメイリスは追撃の蹴りを相手の左わき腹にお見舞いした。仮面の人物は蹴りをあえて受けることで横に吹き飛び、メイリスから距離を取った。
「く…やるな…!」
体勢を立て直した仮面の人物は顔色一つ変えずに右肩の関節をはめ直し、懐から短剣を取り出した。メイリスは相手の一連の動きに妙な違和感を覚えた。関節の着脱はいずれもかなりの激痛を伴う。にもかかわらず相手はまるで痛みなど最初からないかのようにふるまっている。ただの人間にそのような芸当は不可能なはずであった。
「あなたは…何者…?」
メイリスは体術の構えを保ちながら仮面の人物に尋ねた。
「残念ながら教えられぬ…不死の者よ!」
不遜な答えを返した仮面の人物は真正面から高速で距離を詰め、メイリスの首元目掛けて短剣を振るった。その動きを事前に察知したメイリス左足を高く蹴り上げて短剣を打ち払い、宙を舞う短剣をつかみ取った。そして、そのまま短剣を振り下ろし、敵の右手首を切り落とした。
「ぬおおっ!」
仮面の人物は声をあげた。右手を斬られた苦痛ではなく、敵の女僧侶の圧倒的な実力に対する驚愕の声である。右手首の切り口から赤い血を流しながら彼は思考を巡らせた。
(…これ以上は無意味か…!)
そう判断した仮面の人物が指を鳴らすと、黒いつむじ風が彼の周囲を包み込み、風が止むとそこにはすでに仮面の人物の姿はなかった。
「今のは…『ワール』?」
『敵の魔力反応ロスト…どうやったかは知らないけど、敵は退いたみたいだね』
「…そうね」
メイリスにとって気になる点はいくつかあった。仮面の人物は何をしていたのか。なぜいかなるダメージにも耐えることができたのか。なぜ自分を不死の者と見抜いたのか。なぜ詠唱なしで魔法を使用できたのか。わからないことばかりであった。
(…まさか彼も…)
一つの点に関して、メイリスはある仮説を思い浮かべた。しかし、それよりもまず、彼女にはやるべきことがあった。
「…まずはシズハちゃんを助けないとね」
『そうだね。でも、その前に僕を掘り起こしてくれないかな?』
「あ、そうだったわね」
コノハの頼みを受けてメイリスはがれきを掘り起こし始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる