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第九章
道場の主
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「すまなかった…まさかただの客人だとは…」
広間の中央で女性は正座し、深々と頭を下げた。
「いえ…こちらこそ勝手に上がり込んですみません…」
同じように正座したリエルもまた頭を下げた。
「改めて名乗ろう。私はサリア・ミナカタ。このハバキリ流道場の主をやっている」
「ハバキリ流…?」
「そうだ。このクラウディ大陸にいくつか存在する剣術の流派の一つでな。剣術の要素である『斬』、『割』、『突』の三つを極めるべく日々研鑽している流派だ」
サリアと名乗った道場の主は自らの流派について語った。彼女の後ろの掛け軸には『斬』、『割』、『突』の三文字が力強く書かれていた。
「私は師から学んだそれを人々に伝授すべくこの道場を設立したのだが、恥ずかしい話、この有様でな…」
サリアは苦笑しながら部屋を見渡した。部屋の隅にはいくつかの木刀やサンドバッグなどの訓練用の道具が用意されていたが、使われた痕跡はほとんどなかった。
「まぁ、私のことはいい。君達はどうしてここに?」
気持ちを切り替えてサリアはリエル達に来訪してきた理由を尋ねた。
「ネズミのケツを追いかけてたらここに着いた」
「黙ってろ豚汁!」
しゃしゃり出てきたトニーの頭にビオラはげんこつを喰らわせた。
「す、すみません。話せば長くなるんですけど…」
「いや、いいんだ。構わず話してくれ」
リエルは自己紹介した後、この道場に着くまでのいきさつを話した。タタリア遺跡で発見された聖剣エクセリオン。魔勇者に折られたそれを修復するためにファイン大陸北部に住むドワーフに会い、彼らからアルテニウム鉱石が必要であることを聞かされた。そして、鉱石があると言われるソティ王国に向かう途中でリエル達はこの道場に迷い込んだのだ。
「…なるほど。魔勇者とはずいぶん厄介な存在が現れたようだな…」
サリアは腕を組んで唸った。
「はい…その魔勇者と戦うためにも、この聖剣が必要なのです」
リエルはそっとサリアの前に折れた聖剣を差し出した。サリアはそれを手に取り、隅々まで観察した。
「ふむ…よくわからないが、とてつもない力を感じるな。刀身が折れているのに不思議なものだな」
サリアは聖剣とリエルの顔を交互に見た。
「あの光の刃…君の力はこの剣由来のものか?」
「え?どうしてそれを?」
「先ほど手を合わせてみてわかった。私の突きをかわし、剣を振るったまでは良かったが、剣を弾いた後の足腰にまるで力を感じなかった。おそらく、剣を失ったことで君の身体能力は低下したのだろう」
わずかなやり取りの間でそこまで看破したサリアに対し、リエルはただ驚愕するしかなかった。やはり彼女はただならぬ実力を持つ剣士だったのだ。
「…だとすれば、この剣をそのまま返すわけにはいかないな」
サリアは折れた聖剣を自分の横に置いた。
「はぁ!?ちょっと、なんでよ?」
リエルの後ろからビオラが口をはさんできた。
「当然だ。力を道具に依存するなど戦士としては三流だ。そのような者が魔勇者とやらに勝てると思っているのか?」
サリアは毅然と答えた。その言葉に対してリエルは何も言い返せなかった。
「私がその魔勇者ならば、お前を無力化したところで確実に仕留めていた。命乞いなど聞くことなくな」
サリアはさらに厳しい言葉を続けた。あの黒髪の少女ならば間違いなくそうしていたであろう。場合によっては、楽に死ねない殺し方をするかもしれない。そう考えながらリエルは彼女の話を聞いた。
「…では、どうすればその剣を返してもらえるのですか?」
サリアの鋭い目を見つめ、そう質問したリエルだったが、彼女はすでに一つの答えを想像していた。そして、それは当然のように現実となった。
「…この私がお前を鍛えてやる。覚悟しろ」
ハバキリ流剣術道場の主は力強くそう告げた。
広間の中央で女性は正座し、深々と頭を下げた。
「いえ…こちらこそ勝手に上がり込んですみません…」
同じように正座したリエルもまた頭を下げた。
「改めて名乗ろう。私はサリア・ミナカタ。このハバキリ流道場の主をやっている」
「ハバキリ流…?」
「そうだ。このクラウディ大陸にいくつか存在する剣術の流派の一つでな。剣術の要素である『斬』、『割』、『突』の三つを極めるべく日々研鑽している流派だ」
サリアと名乗った道場の主は自らの流派について語った。彼女の後ろの掛け軸には『斬』、『割』、『突』の三文字が力強く書かれていた。
「私は師から学んだそれを人々に伝授すべくこの道場を設立したのだが、恥ずかしい話、この有様でな…」
サリアは苦笑しながら部屋を見渡した。部屋の隅にはいくつかの木刀やサンドバッグなどの訓練用の道具が用意されていたが、使われた痕跡はほとんどなかった。
「まぁ、私のことはいい。君達はどうしてここに?」
気持ちを切り替えてサリアはリエル達に来訪してきた理由を尋ねた。
「ネズミのケツを追いかけてたらここに着いた」
「黙ってろ豚汁!」
しゃしゃり出てきたトニーの頭にビオラはげんこつを喰らわせた。
「す、すみません。話せば長くなるんですけど…」
「いや、いいんだ。構わず話してくれ」
リエルは自己紹介した後、この道場に着くまでのいきさつを話した。タタリア遺跡で発見された聖剣エクセリオン。魔勇者に折られたそれを修復するためにファイン大陸北部に住むドワーフに会い、彼らからアルテニウム鉱石が必要であることを聞かされた。そして、鉱石があると言われるソティ王国に向かう途中でリエル達はこの道場に迷い込んだのだ。
「…なるほど。魔勇者とはずいぶん厄介な存在が現れたようだな…」
サリアは腕を組んで唸った。
「はい…その魔勇者と戦うためにも、この聖剣が必要なのです」
リエルはそっとサリアの前に折れた聖剣を差し出した。サリアはそれを手に取り、隅々まで観察した。
「ふむ…よくわからないが、とてつもない力を感じるな。刀身が折れているのに不思議なものだな」
サリアは聖剣とリエルの顔を交互に見た。
「あの光の刃…君の力はこの剣由来のものか?」
「え?どうしてそれを?」
「先ほど手を合わせてみてわかった。私の突きをかわし、剣を振るったまでは良かったが、剣を弾いた後の足腰にまるで力を感じなかった。おそらく、剣を失ったことで君の身体能力は低下したのだろう」
わずかなやり取りの間でそこまで看破したサリアに対し、リエルはただ驚愕するしかなかった。やはり彼女はただならぬ実力を持つ剣士だったのだ。
「…だとすれば、この剣をそのまま返すわけにはいかないな」
サリアは折れた聖剣を自分の横に置いた。
「はぁ!?ちょっと、なんでよ?」
リエルの後ろからビオラが口をはさんできた。
「当然だ。力を道具に依存するなど戦士としては三流だ。そのような者が魔勇者とやらに勝てると思っているのか?」
サリアは毅然と答えた。その言葉に対してリエルは何も言い返せなかった。
「私がその魔勇者ならば、お前を無力化したところで確実に仕留めていた。命乞いなど聞くことなくな」
サリアはさらに厳しい言葉を続けた。あの黒髪の少女ならば間違いなくそうしていたであろう。場合によっては、楽に死ねない殺し方をするかもしれない。そう考えながらリエルは彼女の話を聞いた。
「…では、どうすればその剣を返してもらえるのですか?」
サリアの鋭い目を見つめ、そう質問したリエルだったが、彼女はすでに一つの答えを想像していた。そして、それは当然のように現実となった。
「…この私がお前を鍛えてやる。覚悟しろ」
ハバキリ流剣術道場の主は力強くそう告げた。
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