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第九章
男同士の約束
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女湯とは壁一枚隔てて併設された男湯。旅館が閉館して久しく使われなかったそこはリエル達の手によってきれいに手入れされ、新築時とほぼ変わりのない輝きを放っていた。
浴槽には改めて張られたお湯で満たされ、洗面台には新品の石鹸が用意されていた。
「いや~。温かいお湯と石鹸で体を洗ってもらうのは気持ちいいなオイ」
全身を石鹸の泡で包まれたトニーはすっかりリラックスしていた。
「そ、そうですね…」
アズキはトニーの背中を優しくこすりながら答えた。皆に正体を明かした彼はトニーを入浴させるためにもう一度入浴することになったのだ。
「それじゃ流しますよ。熱かったら言ってくださいね」
「おう」
アズキは木の桶一杯に汲んだお湯をトニーの背中にかけた。
「…ブフゥ~…」
唸りながらトニーは全身を震わせた。
「あ、熱かったですか?」
「いや。ちょっと熱いほうが好みだから大丈夫だ」
気にするなと背中で語るようにトニーは堂々と湯舟に向かっていった。
「…あぁ~。たまらねぇぜ」
後ろ足の方からゆっくりと湯舟に浸かり、トニーは中年男性のような愉悦な声を漏らした。彼に続き、アズキも頭にタオルを乗せて隣から湯舟に入った。その様子をトニーは物珍しそうにじっと見つめた。
「…マジで男なんだな。お前って」
「ど、どこを見て言ってるんですか?」
指摘されたアズキは思わず上半身を両手で隠した。
「一通り」
「もう!」
トニーの正直なコメントに対し、アズキは照れながら彼の頬に右手を押し込んだ。
「そんな調子だからビオラさんに殴られるんですよ!」
「はっはっは。アイツに比べりゃぬるいツッコミだなオイ」
悪びれることなくトニーはのんきに笑った。
「でもまぁ、お前が男だとわかってある意味ラッキーだぜ。俺にとってはな」
「え?」
突然の言葉にアズキは目を丸くした。
「こうやって一緒に風呂入って身体を洗ってくれるヤツができたんだ。正直助かったぜオイ」
普段と変わりのない表情であったが、そう語るトニーの表情にはどこか安堵感がにじみ出ていた。
「それに、誰しも隠し事はいくらでも持ってるもんだ。一つくらいばれたってなんてことはねぇ。その時になんとかすりゃいい」
「…ふふっ。ずいぶん適当なんですね。トニーらしいです」
助言になってるんだかなってないんだかわからない言葉にアズキは思わず吹き出した。
「そう言うトニーは、何か隠し事を持っているんですか?」
「ああ。と言っても、その大半は俺自身にもわからねぇがな」
「あ…」
気軽な口調で返ってきたトニーの言葉に対し、アズキは彼の抱える事情を思い出した。
「どこかの国のお宝を盗んだのか、誰かの命を奪っちまったのか、あるいは人気アイドルと浮気しまくったのか、案外、そのくらいの隠し事のせいで記憶を失くしちまったのかもしれねぇな」
星空を眺めながらトニーはヒクヒクと鼻を動かした。それと同時に、お湯に沈めている彼の臀部から数粒の泡が立ち込め、お湯の表面で大きくはじけた。
「覚えていることといえば、この前、あのツインテのおやつをつまみ食いしたことぐらいだな」
「ああ…そういえば『どこいったー!』ってビオラさん騒いでましたね…」
当時の様子を思い出したアズキは苦笑した。
「おっと。このことは言わないでくれよ。でないと今度こそ生姜焼きにされちまうからな」
「わかってますよ。男同士の約束ってヤツですね」
すっかり拍子抜けしたアズキは笑顔で答えた。
「ああ」
その表情を見たトニーは再び夜空に目を向けた。
(…男同士の約束…か…)
その言葉の何かがトニーの胸のどこかに引っかかった。遠い昔、誰かとそんな約束を交わした。そんな感覚が突然蘇ったような気がした。
(…ま、いいか)
トニーはとりあえず温泉を満喫することにした。
浴槽には改めて張られたお湯で満たされ、洗面台には新品の石鹸が用意されていた。
「いや~。温かいお湯と石鹸で体を洗ってもらうのは気持ちいいなオイ」
全身を石鹸の泡で包まれたトニーはすっかりリラックスしていた。
「そ、そうですね…」
アズキはトニーの背中を優しくこすりながら答えた。皆に正体を明かした彼はトニーを入浴させるためにもう一度入浴することになったのだ。
「それじゃ流しますよ。熱かったら言ってくださいね」
「おう」
アズキは木の桶一杯に汲んだお湯をトニーの背中にかけた。
「…ブフゥ~…」
唸りながらトニーは全身を震わせた。
「あ、熱かったですか?」
「いや。ちょっと熱いほうが好みだから大丈夫だ」
気にするなと背中で語るようにトニーは堂々と湯舟に向かっていった。
「…あぁ~。たまらねぇぜ」
後ろ足の方からゆっくりと湯舟に浸かり、トニーは中年男性のような愉悦な声を漏らした。彼に続き、アズキも頭にタオルを乗せて隣から湯舟に入った。その様子をトニーは物珍しそうにじっと見つめた。
「…マジで男なんだな。お前って」
「ど、どこを見て言ってるんですか?」
指摘されたアズキは思わず上半身を両手で隠した。
「一通り」
「もう!」
トニーの正直なコメントに対し、アズキは照れながら彼の頬に右手を押し込んだ。
「そんな調子だからビオラさんに殴られるんですよ!」
「はっはっは。アイツに比べりゃぬるいツッコミだなオイ」
悪びれることなくトニーはのんきに笑った。
「でもまぁ、お前が男だとわかってある意味ラッキーだぜ。俺にとってはな」
「え?」
突然の言葉にアズキは目を丸くした。
「こうやって一緒に風呂入って身体を洗ってくれるヤツができたんだ。正直助かったぜオイ」
普段と変わりのない表情であったが、そう語るトニーの表情にはどこか安堵感がにじみ出ていた。
「それに、誰しも隠し事はいくらでも持ってるもんだ。一つくらいばれたってなんてことはねぇ。その時になんとかすりゃいい」
「…ふふっ。ずいぶん適当なんですね。トニーらしいです」
助言になってるんだかなってないんだかわからない言葉にアズキは思わず吹き出した。
「そう言うトニーは、何か隠し事を持っているんですか?」
「ああ。と言っても、その大半は俺自身にもわからねぇがな」
「あ…」
気軽な口調で返ってきたトニーの言葉に対し、アズキは彼の抱える事情を思い出した。
「どこかの国のお宝を盗んだのか、誰かの命を奪っちまったのか、あるいは人気アイドルと浮気しまくったのか、案外、そのくらいの隠し事のせいで記憶を失くしちまったのかもしれねぇな」
星空を眺めながらトニーはヒクヒクと鼻を動かした。それと同時に、お湯に沈めている彼の臀部から数粒の泡が立ち込め、お湯の表面で大きくはじけた。
「覚えていることといえば、この前、あのツインテのおやつをつまみ食いしたことぐらいだな」
「ああ…そういえば『どこいったー!』ってビオラさん騒いでましたね…」
当時の様子を思い出したアズキは苦笑した。
「おっと。このことは言わないでくれよ。でないと今度こそ生姜焼きにされちまうからな」
「わかってますよ。男同士の約束ってヤツですね」
すっかり拍子抜けしたアズキは笑顔で答えた。
「ああ」
その表情を見たトニーは再び夜空に目を向けた。
(…男同士の約束…か…)
その言葉の何かがトニーの胸のどこかに引っかかった。遠い昔、誰かとそんな約束を交わした。そんな感覚が突然蘇ったような気がした。
(…ま、いいか)
トニーはとりあえず温泉を満喫することにした。
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