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番外編
バレンタイン?
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「バレンタインか…」
魔王城の食堂。食後のスイーツのチョコプリンを食べながら静葉は呟いた。
「ん?何?」
言葉を拾ったマイカは手を止めて尋ねた。
「ああ。元の世界ではバレンタインっていうチョコに関するイベントがあってね。本当ならば今頃それで世間が騒がしくなってたなって思ってたのよ」
「へぇ。どんなイベントなの?」
「ん~とね…」
静葉はどう答えようか頭の中で模索した。
バレンタインとは、静葉の住む日本では友人や想い人など縁のある人にチョコレートを贈るという主に恋愛関連のイベントである。当然ながら、交遊関係が乏しかった静葉にとっては無縁のものであった。
(…正直に話すのもちょっとねぇ…)
静葉は目線のみを動かし、食堂内を見渡した。周囲には多くの魔族が食事にありついており、何人かは自分の話を聞こうと聞き耳をたてている者も見られた。
もし、事実を話せば、瞬く間に魔王城全体に広まり、ちょっとした騒ぎになるかもしれない。多くの男性魔族は自分からチョコを貰おうと詰め掛けて来るだろう。その全員にチョコを渡すのは正直面倒くさい。かといって、ここまで食いついてきているのに話さないのもなんか申し訳ない。どう話すべきか静葉は内心頭を抱えた。
(…ここはひとつ…)
静葉は一つの考えを思い浮かべた。
「…広場に集まり、『ギブミーチョコレート』と連呼する独身の男達に対して女子が高い所からチョコをばらまくというちょっとしたお祭りなイベントよ」
明らかに事実と異なる内容である。その突拍子のない内容にマイカは目を丸くした。
(…さすがにこんなのに食いつかないでしょ)
興味を持ちえない内容ならばそのまま聞き流すであろう。そう考えた静葉は即興で思いついた嘘の説明をした。
「さて、私は食後の運動しに行ってくるかな」
席を立ち、背伸びしながら静葉は追及を避けるように足早に食堂を後にした。
――――
翌日。
「……なんじゃこりゃ…」
眼下に訓練場を臨める二階の廊下から出られるベランダ。そこに立つ静葉は訓練場を見下ろしながら呟いた。訓練場には魔族達がぎっしりと集まっており、その数は目測で数百人ほどである。
「ギブミーチョコレート!」
「ギブミーチョコレート!」
訓練場に集合した男性の魔族達はベランダに立つ魔勇者を見上げて何かに取りつかれたかのように一つのワードを連呼していた。そのワードには静葉の身に覚えがあった。
「さぁ、魔勇者様。彼らにチョコをどうぞ」
ぎっしりとチョコレートを詰め込んだバスケットを両手に抱えたアウルが声をかけた。
「…え?これって…」
静葉は恐る恐る尋ねようとした。
「はい。先日、魔勇者様が申していた『ばれんたいん』とやらを再現してみました。皆、魔勇者様からのチョコレートを心待ちにしております」
アウルは平然と答えた。
「え?マジで?」
「一番多くチョコを取った人が今年のモテ男になれるんでしょ?面白そうなイベントじゃない!」
同じようにチョコを詰め込んだバスケットを手にしているメイリスは笑顔でウキウキしていた。
「え?んなこと言った覚えは…」
話に尾ひれがついていた。
「さぁさぁ。野郎どもがお待ちかねですよ。魔勇者様」
アウルはバスケットをグイグイと静葉に押し込んだ。静葉はその圧力に圧されてバスケットを受け取った。
「え、えぇ~…」
今更嘘でしたとは言えない。後には引けない。そんな空気であった。観念したかのように静葉はベランダに立ち、群がる魔族達を見下ろした。
「……おらぁ!くれてやるわ!受け取れぇ!」
やけくそ気味に静葉は掴んだチョコを魔族達にばらまいた。魔族達はまかれたチョコを我先に取ろうとお互いに押し合いながら右往左往した。
その様子を見た静葉は内心高揚し、どんどんチョコをばらまいた。
「よーし、私も負けてられないわね!それー!」
隣に立つメイリスも静葉に続くように勢いよくチョコをばらまいた。
「…いやぁ…盛り上がってるわね…」
廊下の窓から静葉達の様子をマイカとエイルはこっそりと見ていた。
「シズハさんの世界にはこんなイベントがあるんだね…」
大騒ぎする男達の様子を見てエイルは息を呑んだ。
「あなたは参加しないの?モテ男になれるかもしれないわよ?」
「い、いや…ああいう賑やかなのはちょっと…」
エイルは首を横に振った。
「及び腰ねぇ…ま、いいや。なんだかチョコスイーツが食べたくなっちゃった。食堂行きましょ」
「え?昨日も食べてなかった?」
「いいの。違う種類のチョコを食べればいいんだし。ほら」
そう言ったマイカはエイルの袖を引っ張りながら食堂へ向かった。
魔王城の食堂。食後のスイーツのチョコプリンを食べながら静葉は呟いた。
「ん?何?」
言葉を拾ったマイカは手を止めて尋ねた。
「ああ。元の世界ではバレンタインっていうチョコに関するイベントがあってね。本当ならば今頃それで世間が騒がしくなってたなって思ってたのよ」
「へぇ。どんなイベントなの?」
「ん~とね…」
静葉はどう答えようか頭の中で模索した。
バレンタインとは、静葉の住む日本では友人や想い人など縁のある人にチョコレートを贈るという主に恋愛関連のイベントである。当然ながら、交遊関係が乏しかった静葉にとっては無縁のものであった。
(…正直に話すのもちょっとねぇ…)
静葉は目線のみを動かし、食堂内を見渡した。周囲には多くの魔族が食事にありついており、何人かは自分の話を聞こうと聞き耳をたてている者も見られた。
もし、事実を話せば、瞬く間に魔王城全体に広まり、ちょっとした騒ぎになるかもしれない。多くの男性魔族は自分からチョコを貰おうと詰め掛けて来るだろう。その全員にチョコを渡すのは正直面倒くさい。かといって、ここまで食いついてきているのに話さないのもなんか申し訳ない。どう話すべきか静葉は内心頭を抱えた。
(…ここはひとつ…)
静葉は一つの考えを思い浮かべた。
「…広場に集まり、『ギブミーチョコレート』と連呼する独身の男達に対して女子が高い所からチョコをばらまくというちょっとしたお祭りなイベントよ」
明らかに事実と異なる内容である。その突拍子のない内容にマイカは目を丸くした。
(…さすがにこんなのに食いつかないでしょ)
興味を持ちえない内容ならばそのまま聞き流すであろう。そう考えた静葉は即興で思いついた嘘の説明をした。
「さて、私は食後の運動しに行ってくるかな」
席を立ち、背伸びしながら静葉は追及を避けるように足早に食堂を後にした。
――――
翌日。
「……なんじゃこりゃ…」
眼下に訓練場を臨める二階の廊下から出られるベランダ。そこに立つ静葉は訓練場を見下ろしながら呟いた。訓練場には魔族達がぎっしりと集まっており、その数は目測で数百人ほどである。
「ギブミーチョコレート!」
「ギブミーチョコレート!」
訓練場に集合した男性の魔族達はベランダに立つ魔勇者を見上げて何かに取りつかれたかのように一つのワードを連呼していた。そのワードには静葉の身に覚えがあった。
「さぁ、魔勇者様。彼らにチョコをどうぞ」
ぎっしりとチョコレートを詰め込んだバスケットを両手に抱えたアウルが声をかけた。
「…え?これって…」
静葉は恐る恐る尋ねようとした。
「はい。先日、魔勇者様が申していた『ばれんたいん』とやらを再現してみました。皆、魔勇者様からのチョコレートを心待ちにしております」
アウルは平然と答えた。
「え?マジで?」
「一番多くチョコを取った人が今年のモテ男になれるんでしょ?面白そうなイベントじゃない!」
同じようにチョコを詰め込んだバスケットを手にしているメイリスは笑顔でウキウキしていた。
「え?んなこと言った覚えは…」
話に尾ひれがついていた。
「さぁさぁ。野郎どもがお待ちかねですよ。魔勇者様」
アウルはバスケットをグイグイと静葉に押し込んだ。静葉はその圧力に圧されてバスケットを受け取った。
「え、えぇ~…」
今更嘘でしたとは言えない。後には引けない。そんな空気であった。観念したかのように静葉はベランダに立ち、群がる魔族達を見下ろした。
「……おらぁ!くれてやるわ!受け取れぇ!」
やけくそ気味に静葉は掴んだチョコを魔族達にばらまいた。魔族達はまかれたチョコを我先に取ろうとお互いに押し合いながら右往左往した。
その様子を見た静葉は内心高揚し、どんどんチョコをばらまいた。
「よーし、私も負けてられないわね!それー!」
隣に立つメイリスも静葉に続くように勢いよくチョコをばらまいた。
「…いやぁ…盛り上がってるわね…」
廊下の窓から静葉達の様子をマイカとエイルはこっそりと見ていた。
「シズハさんの世界にはこんなイベントがあるんだね…」
大騒ぎする男達の様子を見てエイルは息を呑んだ。
「あなたは参加しないの?モテ男になれるかもしれないわよ?」
「い、いや…ああいう賑やかなのはちょっと…」
エイルは首を横に振った。
「及び腰ねぇ…ま、いいや。なんだかチョコスイーツが食べたくなっちゃった。食堂行きましょ」
「え?昨日も食べてなかった?」
「いいの。違う種類のチョコを食べればいいんだし。ほら」
そう言ったマイカはエイルの袖を引っ張りながら食堂へ向かった。
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