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第十一章
親切な忠告
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「だ、誰だお前?」
「いやっスねー。シーフのカタンっスよー忘れたんスかー?」
カタンと名乗った女シーフは笑顔で懐から冒険者ライセンスを取り出した。
シーフとは、盗みや鍵開けなどの盗賊のスキルを冒険のために正しく扱う職業の名である。悪用を防ぐためにシーフが冒険者ギルドに登録するためには綿密な書類提出と面接が必要となっている。
「…カタン・コーベインさんですね。確認しました」
職員は提出された冒険者ライセンスをチェックし、カタンに返却した。マリーカ地方のギルドで登録を受けたランクAのシーフだ。
「血気盛んなのは結構っスけど、どっちにしろ今エブラ山に行くのはやめた方がいいっスよー?」
妙に腹立つ表情でカタンはゴライに近寄った。
「その鉄草団をぶっ潰したのは、あの魔勇者さんらしいっスからね」
「ま、魔勇者?」
ゴライをはじめとする冒険者達はその言葉を聞いて顔を青くした。
「ど、どうして知ってるんだ?」
「そんな情報はまだギルドには入ってませんよ?」
「知り合いの知り合いが見たらしいんスよ。アジトの入り口から盗賊の死体を引きずって出てくるとこをね」
カタンは自分の耳に当たる部分を指さしながら答えた。
「おたくらも知ってるっスよねぇ?魔勇者さんに手ぇ出したらどうなるか…」
「ぐ…」
どこか恐ろし気なカタンの笑顔の目の当たりにしながらゴライは魔勇者の噂を思い出した。三本の腕と黒い炎を操り、冒険者をはじめとする人間達を無慈悲に食い散らかす黒髪の少女。このブーラ地方でも何件かの目撃情報があがっていた。ゴライの友人も何人かがその犠牲となっており、それを思い出したゴライは拳を握り、大きな身体を震わせた。
「おっと。かたき討ちなんて考えない方がいいっスよ?返り討ちされちゃあ元も子もないでしょうし、誰の得にもならないっスよ」
「な…!」
ゴライの怒りを読み取ったかのようにカタンはさりげなく彼の背後に回り込み、得物の剣を取り上げた。大抵のシーフが得意とする盗みの技だ。
「カタンの言うことは確かだゴライ。ここはひとつ、頭を冷やしてくれないか?」
「そうよ。私達だって魔勇者に殺されるなんて嫌よ」
「うぐぐ…」
周囲の冒険者達の言葉を聞き、ゴライは握りこぶしをほどいた。
「わかってくれてうれしいっス」
愛想のよい笑顔を作ったカタンは剣をゴライに返却した。
「ま、なんもしないのもアレでしょうし、ここはひとつ、他の討伐クエストでも受けて憂さを晴らすといいっス」
カタンは掲示板から一枚の依頼書をはぎ取り、ゴライ達に見せた。近くの村の田畑を荒らすジェットボアの退治依頼だ。
「しかし…エブラ山はどうするんだ?魔族に占拠されては…」
「大丈夫っスよ。あの山は元々交通に不便な難所。用が済んだら魔勇者共々連中は引き上げるはずっス」
「用って?」
「さあ。そこまでは知らないっス」
エブラ山は厳しい渓谷が多く、絶壁づたいに丸太を鎖で連ねた桟道で辛うじて隣の地方に渡ることを可能としていた。盗賊達はわずかな山道のそばの穴倉にアジトを構え、通行人を襲っていた。
鉄草団を殲滅し、アジトを占拠した魔王軍は内部から横穴を掘り、ブーラ地方とサンユー地方をつなぐトンネルに作り変えようとしているのだが、ギルドの冒険者をはじめとする人間達はそれを知る由もない。
「それじゃ!あたしはこれで~」
「あ!おい!」
用が済んだと判断したカタンはあっという間にギルドから姿を消した。野良猫のように気まぐれに現れ、去って行くその姿にゴライ達は呆気にとられていた。
「…」
「どうした?ワレリィ?」
「…いや、カタンってあんな感じだったっけ?」
元々単独行動を好む性格のシーフであるカタンの素性をよく知る冒険者はほとんどいない。ゆえに、とある場所で命を落としたカタンの冒険者ライセンスを拾った猫耳の魔族が彼女になりすまして冒険者ギルドに潜伏しているということさえも知る者はいなかった。
「いやっスねー。シーフのカタンっスよー忘れたんスかー?」
カタンと名乗った女シーフは笑顔で懐から冒険者ライセンスを取り出した。
シーフとは、盗みや鍵開けなどの盗賊のスキルを冒険のために正しく扱う職業の名である。悪用を防ぐためにシーフが冒険者ギルドに登録するためには綿密な書類提出と面接が必要となっている。
「…カタン・コーベインさんですね。確認しました」
職員は提出された冒険者ライセンスをチェックし、カタンに返却した。マリーカ地方のギルドで登録を受けたランクAのシーフだ。
「血気盛んなのは結構っスけど、どっちにしろ今エブラ山に行くのはやめた方がいいっスよー?」
妙に腹立つ表情でカタンはゴライに近寄った。
「その鉄草団をぶっ潰したのは、あの魔勇者さんらしいっスからね」
「ま、魔勇者?」
ゴライをはじめとする冒険者達はその言葉を聞いて顔を青くした。
「ど、どうして知ってるんだ?」
「そんな情報はまだギルドには入ってませんよ?」
「知り合いの知り合いが見たらしいんスよ。アジトの入り口から盗賊の死体を引きずって出てくるとこをね」
カタンは自分の耳に当たる部分を指さしながら答えた。
「おたくらも知ってるっスよねぇ?魔勇者さんに手ぇ出したらどうなるか…」
「ぐ…」
どこか恐ろし気なカタンの笑顔の目の当たりにしながらゴライは魔勇者の噂を思い出した。三本の腕と黒い炎を操り、冒険者をはじめとする人間達を無慈悲に食い散らかす黒髪の少女。このブーラ地方でも何件かの目撃情報があがっていた。ゴライの友人も何人かがその犠牲となっており、それを思い出したゴライは拳を握り、大きな身体を震わせた。
「おっと。かたき討ちなんて考えない方がいいっスよ?返り討ちされちゃあ元も子もないでしょうし、誰の得にもならないっスよ」
「な…!」
ゴライの怒りを読み取ったかのようにカタンはさりげなく彼の背後に回り込み、得物の剣を取り上げた。大抵のシーフが得意とする盗みの技だ。
「カタンの言うことは確かだゴライ。ここはひとつ、頭を冷やしてくれないか?」
「そうよ。私達だって魔勇者に殺されるなんて嫌よ」
「うぐぐ…」
周囲の冒険者達の言葉を聞き、ゴライは握りこぶしをほどいた。
「わかってくれてうれしいっス」
愛想のよい笑顔を作ったカタンは剣をゴライに返却した。
「ま、なんもしないのもアレでしょうし、ここはひとつ、他の討伐クエストでも受けて憂さを晴らすといいっス」
カタンは掲示板から一枚の依頼書をはぎ取り、ゴライ達に見せた。近くの村の田畑を荒らすジェットボアの退治依頼だ。
「しかし…エブラ山はどうするんだ?魔族に占拠されては…」
「大丈夫っスよ。あの山は元々交通に不便な難所。用が済んだら魔勇者共々連中は引き上げるはずっス」
「用って?」
「さあ。そこまでは知らないっス」
エブラ山は厳しい渓谷が多く、絶壁づたいに丸太を鎖で連ねた桟道で辛うじて隣の地方に渡ることを可能としていた。盗賊達はわずかな山道のそばの穴倉にアジトを構え、通行人を襲っていた。
鉄草団を殲滅し、アジトを占拠した魔王軍は内部から横穴を掘り、ブーラ地方とサンユー地方をつなぐトンネルに作り変えようとしているのだが、ギルドの冒険者をはじめとする人間達はそれを知る由もない。
「それじゃ!あたしはこれで~」
「あ!おい!」
用が済んだと判断したカタンはあっという間にギルドから姿を消した。野良猫のように気まぐれに現れ、去って行くその姿にゴライ達は呆気にとられていた。
「…」
「どうした?ワレリィ?」
「…いや、カタンってあんな感じだったっけ?」
元々単独行動を好む性格のシーフであるカタンの素性をよく知る冒険者はほとんどいない。ゆえに、とある場所で命を落としたカタンの冒険者ライセンスを拾った猫耳の魔族が彼女になりすまして冒険者ギルドに潜伏しているということさえも知る者はいなかった。
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