生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

文字の大きさ
54 / 378

第53話 号外

しおりを挟む


「遅いのです……」

 俺達が席に付くと〝リッチ熊のぬいぐるみ〟を抱えたアリスが、とても不機嫌な様子で待っていた。

「待たせたな? 悪かったよ」

 俺は素直にアリスに謝っておく。
 理由はどうであれ、待たせてしまったのは事実だ。

「チッ、本当に無駄な時間だ。殺すなら殺すで、さっさと片付けちまえばよかったろ? あの手の馬鹿はあたしは好かん。今後──万が一にも、あたしのお嬢に怪我でもさせたらどうするつもりだ?」

 ドカッと、椅子に腰掛けながら、物騒な事を言うフィップは引き続きキレ気味である。

(……そういや、アリスが〝魔王信仰〟に襲われた時も、容赦なくフィップは敵の首を跳ねていたな?)

 てか、こいつ、アリス大好きだろ? 

 仕事だから云々とかでは無く、純粋にアリスを大事にしてる感じが、ひしひしと伝わってくるんだよな……

「待つのです。いつ誰がお前の者になったのですか!」
 すかさず、突っ込むアリスに、
「──ッ、言葉のあやだよ……」
 と、ちょっと言葉に詰まるフィップ。

 まあ、話しはそこそこに……俺達は小腹も空いてきたので、それぞれ料理を注文する。

 アリスはこの店で一番辛い物。
 アトラはパスタ。
 俺は米を使った料理。
 フィップは酒とつまみを適当に。

 と、見事に全員バラバラな物を注文する。

 俺達のさっきのやり取りを見ていたらしい……奥から出てきた店員は緊張した様子で注文を取ると「すぐにお持ちします!」とダッシュでこの場を去って行く。

「それで、そこの女は誰なのですか?」

 いつの間にか同じテーブルに付き、料理の注文を済ませた、俺の隣に座るアトラにアリスが声を向ける。

「コイツか? コイツはアトラだ」
「……え、以上ですか!? 何か私の紹介、雑すぎはしませんか!?」

 わーわーと、納得がいかない様子のアトラ。

「そういや、お前何で〝給仕服ウェイトレス〟姿なんだよ?」

「あ、これですか? 今日は何かこの姿で出歩きたい気分だったんです。あ、仕事は夜からですよ!」

「こいつの頭の中は花でも咲いてるのですか?」

「え、そう見えますか? 聞きましたか、ユキマサさん、私、お花みたいって言われましたよ!」

 アリスに馬鹿にされた事に気づかないアトラは、嬉そうに「誉められました~♪」と喜んでいる。

「あ、というか、ユキマサさん、このとっても可愛い黒い女の子は誰ですか? ていうか、本当に可愛いです! 撫でていいですか!?」

「そこの、熊のぬいぐるみを抱えたゴスロリロリッ子はアリス。確か〝アーデルハイト王国〟の王女様だった筈だ──」

 ぴたッ……とアトラの動きが止まる。

「あ、アーデルハイト王国の、お、王女様ですか!? そ、そんな……! 可愛くて、その上、偉いだ何て反則ですよ! でも、何でこんな所に? 護衛は……はッ……とんでもない有名な方がいましたね!」

 ……気づいてなかったのか? まあ、俺も勿論、最初は気づいてなかったけど。あまり、王女アリスの方は有名じゃないというか、顔は知られてないのか?

「お嬢は〝王位継承権〟も〝第一位〟の正真正銘のお姫様だ。あまり気安く触れるなよ? てか、あたしだって最近は撫でれて無いんだぞ……」

 フィップは先に運ばれてきた──
(ワインか? あれ?)
 赤い酒をグラスに注ぎ、ぐびッと飲みながらアトラを軽く睨む。てか、やっぱ、お前アリス大好きだろ?

「ほえぇ……てっきり、ユキマサさんと〝桃色の鬼ロサラルフ〟さんの子供かと思いましたよ……よかった、クレハさんにどうお話しようかと、内心ヒヤヒヤしてましたよ……」

「おい、何で、そうなるんだよ? それに俺はまだ16だぞ? こんな年の子供がいるわけないだろ?」

「いや、ほら、ユキマサさんモテそうなんで……何て言うか、あはは……それにフィップさんめちゃくちゃ美人じゃないですか! あれ、ていうかユキマサさん16歳だったんですかッ!?」

「──へぇ、このむすめ、意外に口が上手いじゃねぇか? てか、ユキマサ、お前……16歳だったのか? あはは、最近の若いのは頼もしいじゃねぇか」

 おつまみで出てきたハムを、アリスにも少し分けると、フィップもハムを口に運び、今度は楽しそうにケラケラと笑っている。

「若いのって……てか〝吸血鬼〟ってのは寿命とかも長いのか?」

「──? 何だ急に……その変な質問は? 遠回しにあたしの歳でも探ってんのか? 後、女性に歳は聞くもんじゃないぜ?」
「いや、別にそういう訳じゃないんだが……」

(……あー、やべ、踏んだかな? 〝異世界の常識地雷〟──それにどうやら、女性に歳を聞くって言うのは、この異世界でも〝マナー違反〟らしい……)

「まあ、あたしは気にしないからいいけどな? ちなみにあたしの歳は378だ。それと〝吸血鬼〟は、確かに〝人間ヒューマン〟や他の亜人と比べると、エルフと並んで平均寿命は長いからな」

 378歳か、俺が聞いた事のある歳の中じゃ……
 三世紀ぐらい飛び抜けて長寿だな。

 ──ん? アルテナ? 女神様の歳? 

 ……さあ、少なくとも俺は知らないな? 

 それに、別に年齢なんて──フィップやアルテナ程の美人なら、何も気にならないだろう? 

 少なくとも俺は気にしない。

 フィップも、アルテナも、見た目はどう見ても20代にしか見えないしな……長寿ってのもあるのだろうが、自体にも違いがありそうだ。

「あ、私は15歳ですよ!」
「そうか、後、お嬢は8歳だ」

「フィップ、なぜ、お前が答えるのですか!」

 さっき、フィップに貰ったハムを爆弾唐辛子(スープ屋の親父から貰ったらしいやつ)に巻き付けて、もぐもぐと食べているアリスが歳をバラされ怒っている。

「うぅ~、アリスちゃん王女様、超~可愛いですねー! 妹に妹に欲しいです! わ、私の妹になって貰えませんか! し、幸せにしますから!」

「嫌なのです」
 
 決死の告白も虚しく撃沈したアトラは──
 ──ガーン! とわりとガチで凹んでいる……。

 すると、そのアトラからヒラリと1枚の紙が落ちたので「何か落ちたぞ?」とアトラに教える。

「ああ、これ、こないだの号外ですね。てか、これユキマサさんの事が書かれてますよ?」

(……なんだそりゃ? 初耳だぞ?)

「ちょっと見ていいか?」
「あ、はい、どうぞ!」

 アトラから号外とやらを受け取り目を通すと……

 〝──特別変異種指定魔獣ヴァルタリスのヒュドラ討伐!──〟

 と、デカデカと書いてある。

(ああ、これの事か……)

 一応、一通り目を通すと〝ドロップアイテム〟から〝魔石〟なる物が回収されたとの事や、第8隊や冒険者による〝変異種ヴァルタリス〟のヒュドラの特殊性や、解毒剤の効かない毒の存在の報告記事──それの対策として、冒険者や騎士への、解毒剤の上位互換に当たる〝聖水〟の補充をうながす内容のような文章が書かれている。

 後、勇敢に戦うも、命を落としてしまった騎士や、冒険者への、敬意を表す賛辞と、ロキギルドマスターからの謝罪文が載っている。

 そして下の方へ読み進めると、
 〝──白獅子しろしし、再来か!?〟
 と、書いてある、何だこれ?

 引き続き俺はそれ読んでみると
 〝だが、残念、白獅子では無かった!〟
 と、一行後の文には直ぐに否定文が書いてある。

(いや、違うのかよ! いいよそういうの……!)

 てか、普通に突っ込んじまったじゃねぇか!

 つーか、倒したのは俺だしな……
 そりゃ違うに決まってるか。

 〝倒したのは〝スイセン服〟の黒い少年? 実際討伐に向かった第8騎士システィア隊長に聞いた実体とは!?〟

 何だこれは? インタビュー記事か?
 でも、流石はシスティア、あまり俺の情報は語らず、亡くなってしまった隊の者達への謝罪の言葉が多い。 

 ──そして終わりの方に気になる文を見つける。

 〝黒い少年の正体を見た。匿名・ギルド騎士隊員〟からの一言。

(何だ、この匿名のギルド隊員は……?)

 『──えーと、あれは黒い変態でした。世の女性も男性も、特に女性の皆さん気をつけてください! ……でも、少しはイイ所も、あ、あります!』
 
 そんな一文が乗せられている。

(…………)

 〝との声も上がっておりますので、未だ正体不明の──少しイイ所もある、黒きヒュドラ殺しの変態(?)には皆様もお気お付けください!〟

 この文で、この号外は終わっている──。

(…………)

「あのー? ユキマサさん、お料理来ましたよ?」

 黙って号外を読む俺に、アトラが声をかけて来る。
 
「……エメレア……エメレア……だろこれ……」
「え? 私はアトラですよ?」

「エメレア……エルラルド……!」

 俺は読んでいた〝号外新聞〟を見て額に手を当てる。

「私はアトラですってば! エメレアさんじゃ無いです!」

 わー、わー、と騒ぐアトラ。

「いや、お前の事じゃねぇよ」

 さっきのチンピラ男達が何で俺の事を、噂の〝黒い変態〟と言ったのか、これで謎が解けたぞ。

 あの野郎……次、会ったら、問いただしてやるから覚えておけよ──。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...