生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

文字の大きさ
55 / 378

第54話 ゴゴゴゴ……

しおりを挟む


 *

 ギルド直属〝第3騎士隊〟と〝第8騎士隊〟の2隊の本隊は〝魔王信仰〟が現れ、その内の一人に〝禁術〟を使った者が現れたと言う場所に到着すると……

 ──既に、戦いは終わった後であった。

 到着した場所の地面には、一部が大きく〝サークル状〟に黒く焼け焦げたような形跡がある。

 そして〝アーデルハイト王国〟の兵士によって、全身を如何いかにもという、怪しげなマントに身を包み、顔は目元以外を黒い布で覆い隠した〝魔王信仰〟の者が、拘束されている。

 その〝魔王信仰〟の者達は全員が気絶しており、その誰もが魔法を使う気配は愚か、指一本とて動かす気配は無かった。

「──何よこれ! 鹿はどこに行ったのよ!」

 そう不機嫌な様子で呟くエメレアは、

「しっ、エメレアちゃん、任務中だよ?」

 と、クレハに言われ、

「う、ごめんなさい……」

 と、直ぐにショボンと静かになる。

 そのエメレアの後ろからはミリアが、とことこと辺りを警戒しながら、少し駆け足でついてくる。
 
 すると音も無く、先頭を歩く第3騎士隊長のヴィエラと第8騎士隊長のシスティアの目の前に、一人の執事服を着た年配の男性が現れる。

「これはこれはお忙しい中、駆け付けて頂き、感謝申し上げます。申し遅れましたが、私は〝アーデルハイト家〟の執事長を勤めております──ジャン・ウィリアムと申します。以後、頭の片隅にでも留めておいて頂けたら幸いでございます」

 その男性は〝老紳士〟と言う言葉がとても似合う姿や立ち振舞いで、手本のように綺麗なお辞儀をする。

「遅れてしまい申し訳ありません。この都市のギルドから参りました。ギルド第3騎士隊長のヴィエラ・フローリアと申します!」
「同じくギルド第8騎士隊長のシスティア・エリザパルシィと申します!」

 現れたジャンに、二人はビシッと敬礼をする。

「ほほ。こんな老いぼれに、そんなお気を使う必要はございませんぞ。皆様、お気軽に接してくだされ」
「いやはや……の〝千撃せんげき〟殿を頭の片隅にとは、流石に恐れ多いのですが……んッ、ん、失礼、申し訳ありません」

 まだ〝魔王信仰〟が潜む可能性がある、この状況下での返答としては、気を抜き過ぎというか、少し失言だったかと思い、システィアは軽く咳払いをし謝罪する。

「いえいえ、何も謝ることはございません。ですが、お越しいただいた所を申し訳ありませんが──奇襲を仕掛けて来た〝魔王信仰〟の者共は、既に無力化済みでございます〝禁術者〟もこちらの都市のにより討伐済みでございます」

 ジャンが話し終わった。
 丁度、その時。

 空から、バサリ! と音を立てながら──

「お話中、失礼します、ヴィエラ隊長!」

 上空から辺りを監視していた〝鳥人族ハルピュリア〟の緑髪に〝短髪ショートカット〟の第3騎士隊所属の少女──フィオレ・フローリアが降りてくる。

「ご苦労様、フィオレ、状況はどう?」

「〝禁術者〟は〝千撃せんげき〟殿の言う通り、冒険者の──ユキマサ殿によりに討伐されました。それと、付近の住民への被害も最小限に抑えられたかと思われます。少なくとも現在、住民や兵士の方々の負傷者並びに死者は確認されておりません」

「そう、分かったわ。ご苦労様。引き続き、空から監視をお願いできるかしら?」

「了解しました」

 と、返答し一礼した後、バサリと翼を広げ再びフィオレは上空からの監視へ戻る。

「ジャン殿。捕らえた者はどうなさるおつもりですか? 差し支えなければ、ギルドで聴取を行った後、私共から、この都市の憲兵に引き渡しますが?」

 捕らえられた〝魔王信仰〟の者を横目に見ながら、システィアがジャンに問いかける。

「それはありがたい申し出ですが……もしよろしければ、その場に私も立ち会わせていただいても、よろしいですかな? 少し聞いてみたい事がございますので……」

「勿論構いません。それと、つかぬ事をお伺いしますが、その〝冒険者〟──ユキマサは、今どこにいるのでしょうか?」
「ユキマサ殿でしたら、アリスお嬢様とフィップ先輩を連れて、街の方へ向かったみたいですぞ?」

「お、王女様と〝桃色の鬼ロサラルフ〟殿とですか……!?」

「ええ、アリスお嬢様もですが──あの、フィップ先輩まで彼を気に入った様子で私も驚きました」

 ──その話を、システィアの後ろで聞いていた、エメレアが……

 「あの、変態スカったらし男……今度は王女様と、一部では──とか呼ばれてる〝桃色の鬼ロサラルフ〟と何やってんのよ!?」

 と、呆れたエメレアが、ふと、隣を見ると……

「ひゃッ!? く、クレハ? ど、どうしたの?」

 エメレアの隣にいるクレハが目を細めながら、

「ふーん……ユキマサ君、また他の美人の女の人と仲良くなってるみたいだね……そうなんだ……ふーん」

 と、表情は微かに笑ってはいるが、目が全く笑っていなかった。そして、クレハから誰に向けてかは分からないが、全身からゴゴゴゴ……! という効果音が似合う、凄まじい圧が感じられる。

「エメレアちゃん……ミリア……?」

「ひゃい、じゃなくて、はい、な、何かしら?」
「く、クレハどうしたの!? 何か、ゴゴゴゴ……! ってしてるよ……!?」

 クレハがそのままの表情で二人の方を振り向くと、この二人でも見た事の無い、心底不機嫌そうなクレハを見て、エメレアとミリアは珍しく慌てている。

 そしてミリアよりもエメレアの方が、言葉を噛むというのも、これはこれでまた珍しい出来事だ。

「ユキマサ君には『夕御飯までには帰って来てね』って伝えておいたから、恐らくそれまでには帰って来ると思うから、急いでお仕事片付けないとだね!」

 にっこりと笑ってはいるが、怖いぐらい顔の筋肉だけで笑っており、誰がどう見ても作り笑いである。

「そ、そうね、頑張りましょ……!」
「わ、私も頑張るよ……!」

 二人は半ば気圧される形で、首を必死に縦に振り、目の前の静かに怒るクレハを、これ以上怒らせてはいけないと察し、仕事にいそしみ始める。

「でも……こういうクレハも……私的には、これはこれで……あ、いえ、クレハは素直な笑顔が一番よね!」

 そんな事を小さく呟き、何やら考え込む様子のエメレアの言葉は、誰の耳にも届かず、辺りの騒音に掻き消されるのだった──。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...